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第三章 千年に一度のモテ期到来?
1.陰陽師(本物)来る
しおりを挟む眠れないままに、一晩明けてしまった……。
鏡なんか見たくないけど、きっと、目の下に酷い隈が出来てるはずだわ。
鬼の君が……、去り際に、指に口づけしていったなんて……、やっぱり、ちょっと、ドキドキするじゃない。鬼の君は、それは、素敵な方だし……。八年も私を忘れずに居てくれたわけだし。
ひとりで、頭を抱えて、ジタバタしている私を見て、早蕨が気の毒そうな顔をする。
「姫さま、如何なさいました? なんだか、お休みになっておられないようですけれど」
「うん、ちょっと、眠れなくてね……ほら、色々あったでしょう?」
「そうですわね。……よもや姫さま、盗まれた小袖に呪詛でもされているのでは? こうなっては大変ですわ、陰陽師でも呼ばないと……」
「大仰ねぇ。ただの寝不足よ」
大きな欠伸をすると、早蕨はキッと私を睨み付けた。
「関白殿下のこともありますので、一度、陰陽師を呼びましょう。占って貰った方が姫さまも納得なさいますでしょうから」
関白殿下………。
馬で乗り付けてくるのは、流石に、尋常なことではない。けれど、あの方が、私なんかに引かれるはずがない。だから、妙なのだ。鬼の君も、気をつけろと言っていたし……。
そういえば―――と私は思い出した。
「ねぇ、早蕨。いまの帝の前の帝って、どういう方だったの? たしか、今の帝になってから八年、よね?」
「ええ。たしかに姫さまが仰せの通り、今の帝になってから八年ですけれど……」
「そういえば、私が鬼にあった頃だったから、世間ではどういうことが起きて居たのか、気になったのよ」
「ちょうど、私が姫さまにお仕えするようになった年ですわね」
「そうね。……でも、どうして、早蕨みたいな人が、私のところへ仕えているのかしら」
「さあ、私が聞いているのは、お祖母さまの直々の仰せだとか言う話だったけれど」
つまり、スーパー乳母『二条のお乳の人』の……。
「私、面識無いわよ?」
「けど、山科の姫は、とても良い姫だから、しっかりお仕えしなさいと言われてきたんです。そうしたら、お祖母さまの言う通りの主に巡り会えましたから、私は、幸運なのだと思いましたけれど……」
「でも、私のところに居たら、早蕨が結婚できないわよ。こんなところまで、通う男なんか居ないでしょう?」
「私は、別に結婚しなくても良いかと思っているんです。華やかな宮中のような場所にも興味はありませんし。この山科でのんびり暮らしていると、本当に、京が気ぜわしくて……あんなところにいたら、私は頭がおかしくなってしまいそう」
まあ、早蕨がそう言ってくれるなら、良いけどさ。確かに、都で女房勤めをして解ったけど、あれは、もう、めちゃくちゃ大変!
世の中には、女房勤めをしっかりやった上に和歌とかの才能があったりして、自分で物語を作ったりする人なんかも居るみたいだけど、もー、絶対に、無理! そういう人は、なにかが違うんだと思う。あの多忙な中、男の人から文を貰ったりとか、深い仲になったりとか……かんがえただけでも、ぞっとする。
そんな気力は、とても無い。
第一、夜明けより早く起き出して出仕する殿よりも早く起きて身支度して、帰ってきたら、夜まで宴とか、全く、無理。無茶。京の人たちはパワフルすぎる!
そういう意味では、本当に、私も、田舎暮らしでいいや………という感じ。
「私も、今回、懲りたわ……。関白殿下のお邸で働いてる女房さん達、ホントに凄いとおもう。……宴では、セクハラジジイも居たし……邸の女房さんが庇ってくれたけど」
「まあ、それなら良かったのですけれど……ともかく、陰陽師は呼びますからね」
早蕨は、一度決めたらテコでも動かないのだ。仕方がないなあと思いながら、「はいはい、解ったわよ」と、まあ、どうせいつものインチキ法師陰陽師が来るんだろうから、とタカを括っていた。
結局、八年前のことを―――何にも聞いてない………。
しかし、現れたのは、本物の陰陽師さんだったのよ。
「ちょっと……早蕨、どうやって、本物の陰陽師さん呼んだのよ」
「えっ? お祖母さまと、関白殿下にお願いして」
けろっという早蕨に、私は眩暈を覚えた。
「関白殿下に、お願いしたの?」
「使えるコネは使った方が良いですわよ。……ああ、そうしたら、関白殿下が酷く心配なさって、こちらに、お邸の侍を何人か寄越してくれることになりましたから。これで、物理は安心ですものね」
ちゃっかりしてる。
陰陽師というからには、そこそこの爺様かとおもいきや、私と同じくらいの年齢の、年若い男だった。
縹色の袍を着ている姿も、サマにはなっているけれど、若々しいので、多少不安な気持ちになる
「あなたが、陰陽師さん?」
私が聞くと、その人は、くい、と顎をしゃくって見せてから、
「まあ、あなたがどういう意味で我々を陰陽師とするかは解りませんが、私は、正真正銘、中務省陰陽寮に所属する、陰陽師と言うことになりますね」
と答えたが―――一発で解った。こいつは、めんどくさい系だ。
「左様ですか」
と私に代わって、早蕨が答える。
「あなた方は、良くご存じないようですから、一つ説明しますと、我が陰陽寮は、頭が一人、助が一人、充が一人、大属が一人、少属が一人、陰陽師が六人、陰陽博士が一人、陰陽生が十人、暦博士が一人、暦生が一人、天文博士が一人、天文生が十人、漏刻博士が………」
眠くなってきた。
傍らの早蕨を見ると、やはり、うんざりした顔をしている。
やっぱり、京から陰陽師なんか呼ぶべきじゃないのよ。エリート意識が強いんだろうから。
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