鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
45 / 186
第三章 千年に一度のモテ期到来? 

5.困った文たち・・・

しおりを挟む


 私が鬼の君に出逢った年……。

 前の帝が退位されて、いまの帝が即位された。そして、女御様が、東宮殿下をおあげになって……その年の冬が来る前に、こうじられたのだ。

「凄い一年だったのね」

「そうそう。凄かったよ。鬼ちゃんとは逢えなくなるし。覚えてる? 鬼ちゃんは、ずっと、八条のお邸に居て……。僕は、こっそり遊びに行っていたんだ」

「うん、なんとなくは……。それで、私は、なんだか、山科に行っていたのよね……」

「たしか、あの年は雷が多くて……八条のお邸に落ちたんじゃなかった?」

 雷……と思い出そうとするけれど、そこら辺の記憶は、まるきり抜け落ちている。どうも、私は、山科で過ごした記憶以外は、あんまり覚えていないようだった。

 多分、八条のお邸は、母様の思い出が強すぎて、辛いんだろうなあと思う。それで、あんまり思い出すのが嫌になってしまったのだ。まあ、母様、生きてるけど。

 ちなみに、私の母様も私くらいの身分。父親は、受領層で、あちこち転勤しながら働いている感じね。確か、母方の祖父は、讃岐介さぬきのすけまで行ったはず。

 たしか、あの管公かんこう菅原すがわらの道真みちざね)が讃岐守さぬきのかみだったことがあるらしくって、大喜びをしていたはずだ。(管公は『守』、うちの祖父様は『介』だから、身分的には、えらい開きがある)

 八条のお邸……は、市が近くて、いつも人の声などがしていたから、雑然としていて(その上、邸に物乞いとか野犬が迷い込んでくることもあったと思う)ので、安心出来ない邸というイメージだけど……やっぱり、あんまり良く思い出せない。

「たしかね、内裏にも雷が落ちたんだよ。それで、どこかの殿舎が燃えたはずだから。まあ、内裏、結構頻繁に燃えるんだけどね」

「それと同じ雷が、うちの八条のお邸にも落ちたっていうの?」

「そういう可能性はあるって言うことでしょ?」

「まあ、それはそうだけど……」

 私は、曖昧に答える。幼なじみとはいうけど、身分は違うし、陽がなんで遊んでくれたのか、正直それもよく解らないのよね。

 まあ、源大臣家の内情に首を突っ込む気にはならないけど。

 そうよ、ただでさえ、今、私はいろいろ、大変なんだから!

「私が、山科に来た理由は、良いんだけど……、八年前に、いろんな事が集中しているのが気に掛かるわね」

 私が呟くと、陽も「たしかに」とうんうん、と頷いた。

「八年前……前の帝って、どうして退位されたのかしら……」

「いや、鬼ちゃん。ちょっと待って。僕が知ってる話だと、前の帝って……」

 陽が深刻な顔で何かを告げようとした時だった。

「姫さま、帝と関白殿下の文使いが、お返事をお早くと……」

 丁度話が佳境と言うときに、早蕨が声を掛けてきたのだった。

 もう! 早蕨ったら。

「鬼ちゃん、はやく、帝と関白殿下の御文はお返しした方が良いよ」

「そうよね。陽まで、とばっちりを受けたら大変だもの」

 何せ相手は、権力者と帝。仕方がないので、陽の前だけど、返信を書かせて貰う。

「でも、不思議なのよ。陰陽師は、私に『千年に一度のモテ期』が来てるっていうんだけど、それにしたって、帝とか関白殿下にまで、文を頂くとか、普通じゃないわよ」

「なんだか凄いね。『千年に一度のモテ期』って」

「うん。おかげで、私、来世は非モテ決定よ。まあ、そんなにモテたい訳じゃないけど。夫も持てるとは思ってなかったし」

 とりあえず、早蕨にお願いして、当たり障りのない内容で文を返すことにした。普通、男女が文のやりとりをするのに、最初っから姫本人が書くというのは少ない。

 大抵は、取り次ぎの女房が文を代筆するのが普通だ。

 そして、早蕨に帝と関白殿下からの文を渡した時、「ひ、姫さまっ!」と早蕨が引きつった声を上げた。

「なによ。早蕨」

「こ、これは……帝の宸筆です。流石に、宸筆にてお文を頂いては、女房の私が文をお返しすることは出来ませんわ」

 声が震えている。

 まさかあ。帝なんて、滅多な事では宸筆で書くことはないのよ? それなのに、私宛に宸筆とかいうのは、本当にやめて欲しい!

「ちょっと、鬼ちゃん、お文を見せて。僕、帝の手跡おてをしってるから」

 陽が、御簾の下から手を差し出す。

 帝からの文を渡すと、陽も、震える声でいう。

「……鬼ちゃん。これ、紛れもなく、帝の宸筆だよ。しかも……すぐにでも、入内させたいようなことが書いてある。流石に、僕だって、帝にお仕えする身だから……、帝が、こういうことを思し召しているとなると……」

「ちょっと、待って! いきなり、おかしいわよ! うん。こうなったら、私、出家するわ! それが一番、みんなに迷惑が掛からないでしょう。うん。出家するっ! 早蕨、うちの菩提寺に行くわよ!」

 私は、立ち上がった。

 関白殿下にしたって、父様の就職のことを言うのは、まったく、酷い話だし。横暴だから、出家する―――ということにしてしまおう!

「ちょっと、鬼ちゃん!」

「ごめんね、陽。でも、もう、いろんなことが面倒だわ。出家すれば、モテもなにも無いでしょう。早蕨、ここに書いた仕度をして頂戴」

 私は、早蕨に、メモを書いた。

『敵を欺くにはまず味方から。ここでは出家したことにするから、ほとぼりが冷めるまで居られるような、縁もゆかりもない小さな邸を探して頂戴』

 もし、私が、どこかへ身を隠したのが陽にバレたら、陽だって、関白殿下と帝二人がかりで問い詰められたら、きっと、話すしかないものね。

 出家も良いけど、『鬼憑きの姫』って事で、一度二度断られてるから、まず、出家は無理。

 だとしたら、これが、私の最善策なのよ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里
恋愛
社交界デビューの日。 訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。 後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。 それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。

処理中です...