鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第三章 千年に一度のモテ期到来? 

18 腹の虫が、邪魔をする

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「関白殿下、夜更けに申し訳ありません」

 部屋へ入ると、関白殿下がたきしめていた香に満ちていた。

 うっとりするほど上品な薫りだ。

 掛金を外すために廊下近くに寄っていた関白殿下は、小袖一枚のしどけない姿で、もちろん、烏帽子は被ったままではあったけど(烏帽子とか冠を外すのは、とても恥ずかしいことなので、眠るときまで被っている)、艶かしくて、私は、夜更けに来たことを早くも後悔し始めた。

「方違えを冒して、帰った甲斐があったかな」

 関白殿下は、やんわり笑いながら、私を部屋の奥へと誘う。

 お休みのところだったのだろう。しとね(寝床)が用意されていて、落ち着かない気分になった。

「申し訳ありません、お休みだったのですね……」

「いや、かまわないよ。恋歌を贈った人が夜更けに訪ねてくれるなんて、嬉しいことだからね」

 言われてみれば、凄いシチュエーションだ。

 殿方は、方違えを冒してまで女の所へ行き―――女は、薄衣を纏っただけの格好で、男の寝所を訪ねている……。

 こ、これはマズいシチュエーションだわっ!

「おや、甘い香りがするけれど……」

「あ、そうなんです……姫さまが、唐菓子を下さって。関白殿下がお好きだと伺いましたので」

「私が好きだから、わざわざ持ってきてくれたの?」

 関白殿下は、大殿油おおとなぶらに火をつけようとするけど、普段なさらないので勝手がわからないらしい。

「すぐに、お暇しますから、灯りは……危ないですし」

 私が申し出ると、関白殿下は、くっくっとおかしそうに笑う。なにか、変なこと言ったかしら、私!

「私は、あなたに、男としてみられていないようだね……つくづく思い知ったよ。こんな、暗がりの中、ともに、こんな格好で……こんなに近くに居るのに、あなたは、全く、私を警戒もしないとは」

「だ……だって、関白殿下のような立派な方が、私に、一目惚れ? なさるなんと思えませんけど……」

 言葉が言い終わらないうちに、私は、関白殿下に抱き寄せられてしまう。

「殿下っ!」

 関白殿下の、体温が、薄衣越しに伝わる。

 意外に……、固い肉の付いた、立派な身体だと言うことが解って、そういえば、馬を難なく乗りこなして、嵐の中を山科から帰る方だったと思い出した。

「こういうことを、警戒なさらなかったの?」

 ふふ、と関白殿下が笑う。やっぱり、本気なのかどうか、私にはよく解らない。

 関白殿下が、私の首に顔を埋める。

「……この間と違う薫りだ」

 良く覚えていること! と悪態を吐こうと思ったのに、付けなかった。

 関白殿下の大きな手が、私の頬を捕らえたと思ったら、いつの間にか、口づけされていたのだ。

 最初は、ただ、触れるだけで離れたのに、びっくりして、動きが固まってしまったら、今度は、深く口づけられる。舌先で唇を舐められた時に、私は、初めて、背中が震えて、思い切り関白殿下の腕の中で暴れてしまった。

 胸が高鳴って、息も苦しくて、何が何だか、訳がわからなくなっていく。

 このまま、私、関白殿下と床を共にしてしまうの? どうしよう! 

 焦って、殆どパニックになった私の耳に、緊迫感のない音が聞こえてきた。


 ぐう~。


 腹の虫……。

 いや、私じゃないわよ! 私、ずーっと、唐菓子片手にガールズトークでお腹いっぱいだから!(むしろ多少胸焼け中)

 と、いうことは?

「あ……山吹。いまの、聞いてしまった? あーあ、今からって言う時に、腹の虫に邪魔されたのは初めてだよ」

 はは、と関白殿下は笑う。いまので、関白殿下の男心が意気消沈したらしい。助かった。有難う腹の虫!

「もしかして、なにも召し上がっていないのですか?」

「うん……そうだなあ、朝餉は食べたよ。ただ、今日は、あなたから文をもらったからね。呼ばれていた宴にも出ず、真面目に曹司で仕事をしてから、無理無理ここに来たんだ」

 こちらは、おなか一杯唐菓子を頂いて済みません。

「あ、そうだ。唐菓子……召し上がりません? このままでは、腹の虫も可哀想ですから」

「ああ。そうだね。折角君が持ってきてくれたんだから、食べようか………ねぇ、私に食べさせて貰える?」

 関白殿下は、ふふ、と笑う。

「童みたいなことを言うんですね」

 なんだか、ちょっと可愛いわ、なんて思いながら唐菓子を摘まんで、関白殿下の口許に運ぶ。

 その腕を、捕まれた。

 関白殿下は、そのまま、唐菓子を召し上がる。

 放して、貰いたいんだけどなあ……。

 と、思ったら、私の指先を、ぺろっと舐めた。

「殿下っ!」

「蜜が付いているでしょう?」

 しれっと関白殿下は言う。気がついたら、ガッチリ腰は捕らえられているし、全く、ピンチを脱していなかった!

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