108 / 186
第五章 後宮からの逃走
7.バッタ二百匹事件
しおりを挟むあの帝……私に、山吹という呼び名を与えて、宮中にまでお召しになった、あの帝が、私を呪ってる。
顔を知ってる人に呪われるのは、ちょっと、辛いなあ。
「でも、なぜ……あの方が、山科の姫さまを呪わなければならないのです?」
小鬼は、首を傾げた。
「さあ、それは、君の主のほうがご存知なんじゃないか? なにか、事を起こすんだろう? それなら、私は、関白として、見過ごせない。
帝が、私の敵かも、しれないが……それ以上に私は、あの方の関白だ。
事実を確認した上で、国が乱れないような対応を取らなければならないんだよ。それは、解るね? 継春」
いつになく、関白殿下は、真面目だ。
小鬼も、表情を引き締めて、私の膝からはなれて、
「はい」
と答えた。
「しかし、手っ取り早くあの方が、君を呪ってると、認めて……呪詛を取り止めてくれないかなあ……」
うん、それ、割りと急務です。
「まあ、鷹峯院で、なにか解るかもしれないし、鬼の君も、色々と探っておいでなのだろうから……」
「ええ! 一刻も早く、鷹峯院へ参ります!」
思わず立ち上がりかけた私を、関白殿下が片手を上げて制した。
「ちょっと、まちなさい」
「え?」
戸惑う私を他所に、関白殿下は、おもむろによこになって、私の膝を枕にしてしまった。
「この、緊急時に!」
心の声が、思わず漏れてしまったじゃないか!
しかし、関白殿下は、引かない。
「だって継春だけ、ずるいでしょう?」
「いや、そーじゃなくて、ですね!」
「なあに?」
「まずは、私の呪いを解くのが最優先ですっ!」
構わずに立ち上がった私の膝から、関白殿下の頭が落ちる。
不意討ちに、関白殿下の頭が、床を打つ。
ガコン、と鈍い音が響いて、烏帽子がズレた。
「なにするんだい、もう!」
関白殿下はぷりぷりと怒っていたが、私も、容赦はしない。
「まずは、私の呪いを解くのが最優先!」
「ちょっとくらい、膝枕してくれてもいいじゃない。源大臣邸なら、私が馬で送ってあげるから」
「牛車で行きますわよ!小鬼も、早蕨も、中将もいるんですからね」
と、関白殿下の表情が曇った。
「継春と、ベタベタしながら行くのか。そんなに、そいつが良いの? 高御座の中に、バッタを二百匹も放り込んで、しこたま怒られた馬鹿だよ? そいつは!」
高御座と言ったら、帝のご座所じゃない! 一体、どんなイタズラよ!
小鬼も、一体、どういう生活してるのよ!
……ん? もしかして、小鬼ったら、結構、年上?
「あれは、私ではなく、主がやったイタズラだ! しかし、なんで、関白、あなたがそれを知っているんだ!」
……主って、鬼の君ですよね……?
「だから、交換日記やってたでしょうが。鷹峯院が主上だったころ!
一緒に、皇后宮の花園の奥に、幽霊が出るって聞いて、肝試しもして、しこたま怒られたこともあったのに!
薄情者め!」
「えーあー! あった! 確かに肝試ししたら、あれだ、秋ちゃん、びゃーびゃー泣いて!」
秋ちゃん?
「秋ちゃん! 懐かしいなあ。そう呼んでたの、継春だけだもんねえ。
ああ、山吹。私の幼名が、秋丸というんだ。こっちは、春丸。
秋春コンビで何時も一緒に、童殿上してたんだよ。もう、私たちはいたずらが酷くて、オイダサレたけどね!」
童殿上って、行儀見習いの為に入るとこですよね?
なのに、追い出されていいのか?
大体、なんで、幼馴染みなんだろう?
橘氏で、鬼の君のそば仕えならば、身分は高い方なんだろうけど。
「肝試し、怖かったなあ。ほら、昔、自害した内親王の霊が出て、来るもの来るもの、殺すだとか……」
「ああ、あれは、あんたのじい様に、すごい怒られたなあ」
「本当に、嵯峨野の太閤が、あんなに怒ることなんかなかったなあ」
なに、しみじみしてるんだか。
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる