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第五章 後宮からの逃走

8.山吹を、頼んだよ

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 小鬼と関白殿下が、まさかの幼馴染みだったのはともかく。

「お二方の、思い出話は、ちょっと興味深いのですけど、そろそろ、源大臣邸へ向かいませんと」

 なんだか昔話に、花を咲かせる二人の間に割って入る。

「ああ、そうだね。継春が護衛に付いてるなら、まあ。安心だけど……。
 継春、山吹に指一本触れたら怒るからね!」

「触れませんよ! 大体、秋ちゃんも、我が主も、なんで、この、姫がいいんです?
 行動は無茶苦茶だし、顔は十人前、その上、実家が裕福って、わけでも、ないし」

 心底不思議そうに、小鬼がいう。

 ふん! 悪うございましたね! 十人前で!

「継春は、解らないんだなあ、お前、見る目無いから」

「なんだと? なんで、私が、見る目がないなんて言われなきゃならないんだ」

「見る目ないからだよ。山吹の良さは、見た目やステータスじゃないからね」

「それ以外に、なにかあります?」

 小鬼は、不思議そうに首を傾げた。

「ふふ、お前、一度二度、本気で誰かに恋して見ると良いよ。
 恋は良いよ? 当世で、恋の一つ二つしていない男なんて、考えられないね。
 私の見る目は、確かだよ?
 山吹は、見た目は普通だけど、心映えが良い。なんだかんだ、優しいし、思いやりに溢れていて、機転が利く。
 でなければ、鬼の君は、無事に今まで逃げてないよ」

 本人の目の前で誉め殺しにされるなんて、酷い羞恥プレイだ。

「さあて、継春。私とお前、それと山吹は、今回、手を組むことが出来ると思わないかい?」

「まあ、出来るとおもうが」

「では、決まりだ。もし、お前が主と連絡がとれるなら、私の意向を伝えてくれ。
 本懐を、遂げられるにしても、政が乱れないような配慮が、必要だ。
 それを踏まえて話がしたい。場所は任せる」

 関白殿下は、鬼の君が、鷹峯院においでだと思っている。

 あるいは、この山科の私の邸にいるのではないかと。

「それと、継春。……これは、私の守り刀だ。お前に託そう」

 関白殿下は、懐から刀を取り出した。

 関白殿下らしくもない、飾り気のない鞘に入った、小さな刀だった。

「山吹を、頼んだよ? この事件、恐らく、山吹がすべての解決の鍵になる」

 真剣な眼差しの関白殿下と、小鬼は、ぎゅっと手を握りあった。

「山科の姫は、私が、必ず守る」

「心強いよ」

 しばらくぶりに会ったのだろうけど、お二方は、かなり、お互いを信用なさっているようすだ。

 なんだか、男の人の友情って、良いなあと、私がほんわかしていると、関白殿下が私に向いた。

「鷹峯院は、ちょっと……というか、かなーり変な方だけど、悪い方ではないんだ。
 とにかく、無理はしないように、行ってくるんだよ?」

 そして素早い動きで私を腕の中に引き寄せて、ぎゅっと抱き締めてから、

「心配だけれども」

 と小さく呟いて、そっと、私の頬に口づけした。

 ああっ!

 油断も隙もないっ!

 小鬼が見てるのに!

 だけど、関白殿下は、しばらく、私を解放してくれなかった。
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