鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第五章 後宮からの逃走

23.僕の童貞を君に捧げる

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「早良……ね。仕方がない、解りましたよ」

 嵯峨野の太閤は、パチンと扇を鳴らした。それを聞いた女房が、するすると動く。

 毎度の事ながら、女房達は、こうやって何を言われずとも合図一つで動くのだから、すごい事だと思う。しかも、これが、的外れなことをしないというのも素晴らしい。

 その為には、主の会話に気を配り、些細なご様子までもよく観察していなければならない。

 たとえば……少し、主が喉が渇いたと思ったら、『そろそろ、なにかお持ち致しましょうか』と声を掛ける。何かと言っても、持ってくるのが出来るのは、大体が水とか白湯だけど。

「しかし、院の御所様は、随分と、その山科の姫がお気に召したようですね」

「えっ?」

 思わず、素っ頓狂な声を上げて仕舞った。だって、嵯峨野の太閤が、変なことを言うんだもの!

「気に入っていなければ……この話は、聞かせないでしょう」

「そうねぇ。確かに、気に入っちゃったわね。だって、将来の義理の娘なんですからね! ここは、呪いを一発で解いて、なにかと断りづらい雰囲気を作らないとマズイわよね。だって、懐仁やすひと、本当に女っ気なくて、アタシ、ずーっとマジで心配してたんだから」

「父親がコレだからじゃないんですか?」

「外祖父がシスコンだからかもね!?」

 二人はにらみ合う。

 不毛……不毛すぎる。シスコンVSオネェって……どっちが買っても、全く美味しくない。

「それで……院の御所様がまた、女の世話なんかしたら、拗ねるんじゃないですか? ……というか、今まで、一人の女も寄せ付けてないの? 春丸、そこはどうなんだい?」

 小鬼は、びくっと肩を震わせてから申し上げる。

「たしかに、主は、全く、女っ気はありません……おそらく、その、拝察するに……その、ですね。きっと、今まで、女性に触れたことは、無いのかと……」

「えーっ! ちょっと、アンタ、何してんのよ! なんで、八年の流浪の生活を慰めるのに女を宛がったりしなかったわけ? 信じらんないわ!」

 いや、それもどうかと……。

「いえ、主は、流浪の生活であればこそ、そのあたりを謹んでおいででした。なぜならば、主は、必ず高御座に戻ると思し召しておいででしたので、そこかしこに『ご落胤』が居るような事になれば、後々、争いの種になると仰せでしたし……后にはたったお一人しかお迎えしないと決めておいででしたので、その方に、ある意味操立てして……」

 嫌な予感。

「それって、もしかしてぇ?」

 鷹峯院の声が弾んでる。

「はい、もしかします」

「やーんっ! 凄いわよ! 懐仁やすひとったら、僕の童貞を君に捧げるって! ウケルー」

 ………やめて。ホント、重すぎる!

「なんだか、当世男子にはあるまじき禁欲ぶりで、僧侶かなんかみたいだけど……」

「そうですよ、当世男子でしたら、認知しない子供の百人やそこら居たっておかしくありませんわっ!」

「いや、そんなに居るヤツは聞いたことがない」

 嵯峨野の太閤さま、厳しい。

「だけど、凄いわねぇ……あの子、迎えにくるわよー。三日夜の餅もって、迎えにくるわよー」

 怖いっ!

「なんで、私なんですか? それに、鷹峯院も、私なんかがムスメで良いんですか? 私、山科の鄙で育った、田舎娘ですよ? 家だって、身分は低いし……」

「んー? じゃあ、どこかの養女になる?」

 また、あっさりと!

「ここんとこ、ずーっと立后されてるのって、藤原だから、別の家に頼もうか?」

「い、いえ結構です!」

「アラー、遠慮しなくって良いのよ? アタシは、懐仁やすひとが幸せになるんだったら、それで良いんだから。アナタ、アタシの懐仁やすひとが不幸になっても良いの? アナタが、懐仁やすひとを救わない限り、あの子は、幸せにならないのよ?」

 鷹峯院は、真剣だった。私も、背筋が伸びる。

「鬼の君の幸せって……何ですか?」

 もし、私に出来ることならば、手伝いたい。だって、ずっと、汚名を着たままで過ごしておいでだったのよ?

 だから、その分、幸せになって頂きたいわ。

懐仁やすひとの幸せ。それはね?」

 鷹峯院が微笑む。なんだか、化粧の濃い初老の女装家は、神々しいほど美しく見えた。





「アナタがあの子と結婚するだけよ?」

 なんで、そうなるんだっ!

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