立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0003.石牢からの脱出

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「俺も分からんが、単に食料がないからではなく、別の理由かもしれない。」
「宗教的な理由とかか。何にせよ、ろくでもない奴らだな。」
 奴らが次にいつ来てもおかしくないと聞いて、俺は今までの情報を手早く整理して脱出に備える事にした。石牢から出た後は螺旋階段しかなさそうだ。階段を上った後にどうする。最初の部屋から石牢までの間に扉が3つか4つあったことを思い出す。それらの扉が開かなかったら、最初の部屋まで戻ってどうにかするしかないな。最初の部屋には何があった。窓らしきものはあった気がする。確か分厚いカーテンがかかっていた。あれを開けてみれば脱出の糸口が何かあるかもしれない。
「おい。どうやって脱出するんだ。おい。」
 健が作戦を考えている間もスーツの男はしつこく聞いてくる。まあ、お互い命がけだから必死になるのはしょうがない。だが、可哀そうだが、俺の秘策は人に教えることはできないんだ。
「とりあえず、奴らが来たら俺は脱出を試みる。そうしたら奴らも混乱するはずだ。だから、そのタイミングを逃さずにあんたらも隙をみて脱出しろ。」
 スーツの男達にも同情するが、今はこの説明で精一杯だ。
「暴れたら、奴らに目を潰されるぞ。」
 スーツの男は俺の説明が腑に落ちないようだった。そうしている間に上から近づいてくる足音が聞こえてきた。誰かが階段を下りてくるようだ。
「奴らだ。」
 階段から降りてきたフードの男達の人数は5人だった。厳戒態勢をとっているのか歩く姿勢にも隙がない。5人のうちの1人は手に大皿のようなものを持っている。皿の上にはこげ茶色と黒色の中間位の色をした謎の物体が載っている。肉なのか。少し腹が減っているが見た目からしてまったく食欲をそそらない。そして別の1人は薄汚れた細長い花瓶のようなものを持っている。恐らく水が入っているのだろう。
 5人の真ん中にいる屈強な男が身振りで指示を出すと、フードの男達のうちの1人が石牢に近寄り、不器用そうな手つきで鍵を開けた。これで石牢の小扉が開く。最大のチャンスだ。
 そう分かった瞬間、健は、石牢の外にある唯一の光源である4つのたいまつに向けて見えない青い音をとばした。健のとばした音が届くとたいまつの炎は激しく揺れて一瞬だけ抗ったが耐えきれずにすぐに全部消えて周囲は闇に包まれた。
 いきなりとばされた異世界でチート能力はもらえなかったが、実は現実世界では、健は音を操れる立日一族の末裔だったのだ。ただ、一族の能力はその使用が固く禁じられており、能力の存在自体が人に知られることは決して許されていなかった。その昔、一族の能力を知って利用しようとした権力者との血を洗う戦いで一族は大半が命を落としたという歴史に起因する。それでも秘密を知った者を何とか抹殺し、かろうじて平和を勝ち取ったという苦難の歴史がある。
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