立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0061.曲者との駆け引き

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「何だ。何が言いたい。」
 健は構えを崩さずに静かに問う。黒い仮面の男は、大袈裟に両手を上げながら饒舌に話し始めた。
「実は、昨日、奴隷を手に入れたんで一晩中楽しんできてね。思った以上に上質だったんで眠くならずに、ずっと楽しめたよ。この後もまたたっぷりと楽しむ予定なんだが。」
 黒い仮面の下から舌なめずりする音が聞こえる。健は、これ以上は話す意味がないと判断し、魔法の短剣の光の刃を伸ばし、黒い仮面を鋭く突いた。黒い仮面の男は、紙一重でその突きを躱すと、また大袈裟に手を振って制止してきた。
「すまない、話がそれた。奴隷とお楽しみ中にお前を倒して欲しいと何度も懇願されてね。奴隷の頼みなんぞ聞いてやる必要はないが、少し興味が湧いてきたんで来てみたら、おっと。」
 健は、黒い仮面の男の話に耳を貸さずに、続けて鋭く突いたが、これも紙一重で躱された。だが、健は、超感覚で黒い仮面の男の動きを完全に把握できるので、躱されたことはまったく気にならない。2回の攻撃で黒い仮面の男の動きを完全に理解してしまった。
「なるほど。」
 健はもう勝負が見えたので、つい呟いてしまった。
「そろそろまずそうだな。見に来てみたら、とんでもない化け物がいたんで、俺は退散しますよ。」
 その言葉が終わりきらないうちに、健は魔法の短剣から伸ばした光の刃で、黒い仮面の男を斬った。黒い仮面の男は煙のように消え去ったかのように見えたが、ドサッと音がして何かが雪の上に落ちる。黒い仮面の男の右腕だった。
「逃したか。相当の曲者だったな。」
 遠く離れた別の場所に逃げ去った黒い仮面の男は左腕で切断された右腕の根元から溢れ出る血を抑えながら罵りのうめき声を出した。
「畜生。やっぱり見に行くべきじゃなかったか。この代償はあの女にたっぷりと支払ってもらおう。」
 そう言うと、黒い仮面の男は左腕でマントを音を立てて翻すとその場から消え去った。
 洞窟の入口には火の精が健達の様子を見に来ていた。健が黒い仮面の男を撃退するのを見て浮かれている。
「やったな、健。楽勝だったじゃんか。」
「いや、そうでもない。アイツは、こっちに隙ができないか様子を見ながら何かを狙っていたようだった。隙を与えずに攻撃をしていたから撃退できたが、そうでなければ何か厄介なことをしてきたかもしれん。」
 口ではそう説明したものの、健は心の中では、超感覚のおかげで相手に何かをさせる隙を与えることは絶対になかったと感じていた。その顔は自信に満ち溢れていた。
「へー、オイラには全然分からん。まあとにかく怪しい奴を追い払えて万々歳だ。」
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