赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

文字の大きさ
6 / 92
黒い髪の弟

6 シンの夢

しおりを挟む

 過去の記憶を思い出そうとすると、シンは真っ暗な闇に包まれる。
 いつもそうだ。そして一つの場面が思い浮かぶ。覚えている限り一番最初の記憶。

 彼は暗い場所に横たわっている。どこからかぽたぽたと水音がする。音はすぐ近くで一定の間隔で響く。
 体は鉛のように重く、手足は何かで押さえつけられていて身動きが取れない。言葉というものを知らないけれど、口からは音も出ない。目に見えない重い何かが喉を塞いでいて、声を出す事が出来ないのだ。

 苦しい……。怖い……。
 ここはどこだろう?
 僕は誰で、何をしているんだろう。何も見えないし、話せない。体も動かせないし、聞えるのは水音だけ。
 誰か、僕をここから助け出してほしい。シンが願うのはそれだけだった。


 次に思い出せる記憶は、見知らぬ誰かの顔だ。

『いいかい?』

 そうシンに問いかける。何を聞いてきたのだろう。その表情はひどくあいまいにかすんでいるけれど、とても悲しそうなのは分かる。深い意味も分からずシンがこくりと頷くと、その人は彼の額に手を置き……。

 ーーーそして視界は再び暗転する。

 何か、大事な事を忘れてしまっている。覚えている事は断片でしかなく、それはシンをひどく不安にさせていた。何を忘れてしまったんだろう?思い出したいような、忘れたままにしておきたいようなバランスの悪い気持ち。
 父や母や兄と一緒に住むようになってから、シンはその不安を意識の底に追いやって、ふたをしてしまった。


 ある日、シンは兄と一緒に屋敷を抜け出そうとして、木から落ちてしまった。落下した衝撃で頭を打ち、彼の体は動かなくなった。

 痛い……!
 怖い……!

 状況が、過去のあの記憶とよく似ていた。

「シン!」

 シンを呼ぶ兄の声が遠くなる。目の前が暗くなって彼は意識を失った。

***

 ぽたぽたと水音がする。
 あの記憶の場面と同じだ。だが、それはいつもと違っていた。部屋は真っ暗ではなく、小さなろうそくの灯りがともされていた。
 首を音のする方にどうにか動かしてみると、音はシンの手の先から出ている事に気づいた。彼の左手に少し大きな傷があってそこから出血している。
 彼は横たわっている台から怪我をしている手を突き出すようにしていて、その手から流れる血が台の下に落ちてる。ぽたぽたという音はシンの手の先から流れる血の音だった。

 どうしよう、とシンは思う。
 こんなに血が流れたら……僕は死んでしまう。

 漠然とそう思いながら、手を動かそうとしたが、まったく動かせなかった。助けを呼ぼうとして声も出ない事に気づく。手も口も見えない何かで押さえつけられている。かろうじて首を動かすと、彼は白い服を一枚着せられていて、手と口には何もなかったが、足にははっきりと目に見える物が存在していた。
 両足をそろえて、足首の部分で金属の枷がはめられていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

狼領主は俺を抱いて眠りたい

明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。 素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...