赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

文字の大きさ
34 / 92
幕間(六年前)

2 黒の谷2

しおりを挟む
(sideジェイク)

「二十……二十一か?」

 目の前に現れた真っ黒い四つ足の獣のような生き物を剣で切り捨て、とどめを刺す。
 強さは大したことのない獣だが、数が多い。ついでに上空には無数の鳥が旋回している。こちらもたかが鳥と侮れない。暴風と共に突っ込んで来て、火を吐いたり鋭いかぎ爪で皮膚をえぐろうとする。もっとも吐く炎は雨によってかなり威力を失っていたが、それでも倒すタイミングをつかむまでは多少の火傷を負った。

「二十五っす……!」

 マゴットが獣を倒して得意げにこっちを振り返る。

「お前と張り合ってねえ」

 倒した敵の数を数えるのは俺の癖だ。無意識によくやっている。

「マゴット、前に出過ぎるな。魔法の届く範囲を考えろ!」

 隊長の怒号が飛ぶ。
 魔法使いの防御魔法の範囲内で戦い、かつ治療師を守らなければいけないのはチーム戦における騎士の基本中の基本だが、マゴットの気持ちも分かる。この暴風で位置を把握するのは危ういし、多数の魔物を見ると血が騒ぐ。

「すみません!隊長!」
「セラ嬢は俺が守りますよ!」

 格好つけて治療師に言ったが、彼女は俺に目もくれず
「あなた方を魔法で守っているのは私です」と冷静に返された。そりゃそうだな。

「それよりユーシス様が魔法攻撃をなさいます。騎士の方々、伏せてください」
「え?」

 見れば分厚い魔法書を広げたユーシスが、ブツブツと何かを唱えている。
 分厚くて重そうだと思った赤い本は手のひらの少し上の宙に浮かび、ページに印された魔法の呪文が空へと溶けていくように見えた。

「ジェイク、マゴット、伏せろ!」

 隊長の声と同時にセラ嬢と地面に伏せる。
 直後、谷に轟音が響いて地面が揺れ、耳当て付きの簡易兜を装備していても鼓膜に響いた。背中に熱風がかかる。

「……っぐ、何だ今の、魔法かよ」
「ユーシス様の攻撃魔法です、上空の妖鳥を攻撃なさったようです」

 セラ嬢がずれた眼鏡をかけなおす。やっぱり美人だ。
 見れば飛び回っていた鳥たちは一匹もいなくなっていた。生き残った四つ足の獣も魔法をおそれて散り散りに逃げていく。魔法の影響か、雨と風も弱まったような気がした。

「視界がよくなったな」

「鳥を一掃した。攻撃魔法を撃つときは巻き込まれないよう気をつけてくれ」

 ユーシスは涼しい顔で魔法書をパラパラ捲っている。そう言う事は撃つ前に言えよ。

「ジェイク、マゴット、セラ嬢も無事か?」

 隊長が血塗れの剣を手に近づいてきた。さすが隊長、無傷な上に返り血も浴びていない。雨に流されたのかもしれないが。

「隊長、あの魔法使いからは距離を取った方が良いのでは?」
「……そうだな。勘のいいジェイクはともかく、マゴットは少し離れていろ」

 後方の敵を撃退していたジオが戻ってきた。

「さすがユーシス様、敵の数がかなり減りましたね」
「からかわないでくれ。君には分かるだろう。強敵が出てくるのはこれからさ」

 ユーシスはどことなく嬉しそうに見えた。殺戮を好まない隊長とは逆のタイプだ。
 俺はユーシスの気持ちが少しだけ分かる。あんな威力の魔法攻撃をぶっ放せたらさぞかし楽しいだろう。まあ俺は魔法は全然駄目だから、想像でしかないが。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...