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土曜日、午後6時
5 手作り弁当
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康哉の後について部屋を出た。
廊下の突き当たりは一階から三階までの吹き抜けになっていて、正面に王都の街並みと巨大な噴水、美しい彫像や植えこみが見える。
吹き抜けに噴水、彫像、それにこの形……。スケールと豪華さが違いすぎてはいるけど、配置はルーシェンのいた魔法村にすごく似ていた。
俺が立っているのは、例えるならゾンビの女の人に遭遇した二階部分の廊下だ。
思わずゾンビがいないか確認する。
だけど、もちろんゾンビなんていなくて、明るく豪華な廊下や吹き抜けには、マントを羽織った兵士や魔法使い、ドレス姿の女性やエプロン姿のメイドさん?が忙しそうに歩いているだけだった。
「修平、こっちだ」
康哉は吹き抜けに沿うように配置されている螺旋階段を上がり、三階に向かった。当然三階にもドラゴンゾンビはいなかった。そっくりな扉があってぎょっとしたけど。
「ここ、綺麗だろ?」
三階の廊下の端から外に出ると、美しい花の咲く庭園があった。
遊歩道と変わった形の植物が(大きさは普通だ)迷路のように配置され、所々に石造りのテーブルと椅子が置いてある。先客が何人かいて、食べたり飲んだり景色を眺めたり、思い思いに過ごしてる。
「ああ。綺麗だ」
「王宮にはこういった庭園が百近くあるらしい。上を見てみろよ」
康哉に言われて真上を見ると、垂直に伸びる王宮の黄金色の壁から、所々何かが飛び出していた。
上にある庭園では滝が流れているらしく、虹がかかっている。その間を白い生き物が飛んでいく。
「すげー……。俺、もっと上に行ってみたいな」
「一般人が無許可で入れるのは、三階までらしいぜ」
三階か。
如月かルーシェンに頼んで許可を貰えないかな。上からの眺めは最高だろうな。
三階の庭園の眺めもそれなりに綺麗だった。
グリモフ邸やヴァネッサさんの家やおばちゃんの働いているラブホテルがどこにあるのか探そうと思ったけど、よく分からなかった。
太陽が沈んで、街に灯りがともりはじめ、庭園もライトアップされたからだ。
「修平、食べようぜ」
康哉が向かったテーブルには、風呂敷包みと光る石の入った瓶が置いてあった。コップと飲み物の入ったかごも。
「先に兵士に頼んで運んでもらったんだ」
康哉がほどいた風呂敷包みの中からは、おせち料理に使うような重箱が出てきた。
あれ?
なんで康哉の家の弁当がこんな所にあるんだ?
「俺は一日早く王都に着いたから、お前との待ち合わせの時間に合わせて弁当作ったんだ。異世界の素材だけど、出来るだけ和食に近い味付けにした」
「……康哉、お前、料理できるのか?」
康哉の家にはお手伝いさんがいて、料理は全部その人がやってるんじゃなかったのか?
「まあ普通程度には」
そう言って広げられた弁当は、俺には到底作れないほど完璧な仕上がりだった。
「うま……」
野菜を肉で巻いたおかずとか、ちらし寿司によく似たご飯を少しずつフォークで口に運ぶ。
素材は違うけど、本当に日本で食べていた料理に近い。それも時々お昼に食べていた康哉の弁当そのものだ。
「魚はちょっと難しくてさ。この世界の魚は毒を持っている種類が多くて、なかなか売られていないし、あっても高いんだ」
康哉が料理についていろいろ話してくれる。でもなんだか胸がいっぱいで、あまり頭に入らなかった。
あの弁当……本当はこいつが作ってたんだ。でも、自分ではほとんど食べている所を見なかった。女の子に弁当もらったとか、家政婦の料理は食べる気がしないとか言っていつも俺にくれてたよな。
「やっぱり口に合わなかったか?これでも旨いと絶賛されたんだが」
「いや、すごく美味しい」
鈍い俺でもようやく分かった。
康哉が弁当くれるようになったの、俺の母さんが亡くなってからだ。
あの頃は父さんや姉ちゃんが交代で晩飯作ってくれて、昼食は購買でパンを買ってた。家族には感謝してるけど、正直何を食べても美味しいと感じなくて、サッカー部も辞めてしまって、すごく体重が落ちた。それから、しばらくして康哉が弁当くれるようになったんだ。
俺に食わす為……だよな。
そんな事全然知らなかった。それどころか、俺の好きな子や他の女の子にもモテて、毎日家政婦さんから豪華な弁当をもらえる康哉を少しだけ恨んでた。
「ありがとう……」
「気にするな。好きなだけ食え」
康哉は特に表情を変える事なくそう言うと、瓶に飲み物を注いで渡してくれた。麦茶……じゃないよな。でもそんな味のする飲み物は、弁当に合う。
空腹と感動で一心不乱に飲み食いする俺を、康哉は笑いながら見ていた。
「探しましたよ、松田さん、岬さん」
話しかけられて、俺と康哉は同時に顔を上げた。
疲れた顔をしてこっちに歩いて来たのは、ほぼ一週間ぶりに会うメガネの男、如月隼人だった。
廊下の突き当たりは一階から三階までの吹き抜けになっていて、正面に王都の街並みと巨大な噴水、美しい彫像や植えこみが見える。
吹き抜けに噴水、彫像、それにこの形……。スケールと豪華さが違いすぎてはいるけど、配置はルーシェンのいた魔法村にすごく似ていた。
俺が立っているのは、例えるならゾンビの女の人に遭遇した二階部分の廊下だ。
思わずゾンビがいないか確認する。
だけど、もちろんゾンビなんていなくて、明るく豪華な廊下や吹き抜けには、マントを羽織った兵士や魔法使い、ドレス姿の女性やエプロン姿のメイドさん?が忙しそうに歩いているだけだった。
「修平、こっちだ」
康哉は吹き抜けに沿うように配置されている螺旋階段を上がり、三階に向かった。当然三階にもドラゴンゾンビはいなかった。そっくりな扉があってぎょっとしたけど。
「ここ、綺麗だろ?」
三階の廊下の端から外に出ると、美しい花の咲く庭園があった。
遊歩道と変わった形の植物が(大きさは普通だ)迷路のように配置され、所々に石造りのテーブルと椅子が置いてある。先客が何人かいて、食べたり飲んだり景色を眺めたり、思い思いに過ごしてる。
「ああ。綺麗だ」
「王宮にはこういった庭園が百近くあるらしい。上を見てみろよ」
康哉に言われて真上を見ると、垂直に伸びる王宮の黄金色の壁から、所々何かが飛び出していた。
上にある庭園では滝が流れているらしく、虹がかかっている。その間を白い生き物が飛んでいく。
「すげー……。俺、もっと上に行ってみたいな」
「一般人が無許可で入れるのは、三階までらしいぜ」
三階か。
如月かルーシェンに頼んで許可を貰えないかな。上からの眺めは最高だろうな。
三階の庭園の眺めもそれなりに綺麗だった。
グリモフ邸やヴァネッサさんの家やおばちゃんの働いているラブホテルがどこにあるのか探そうと思ったけど、よく分からなかった。
太陽が沈んで、街に灯りがともりはじめ、庭園もライトアップされたからだ。
「修平、食べようぜ」
康哉が向かったテーブルには、風呂敷包みと光る石の入った瓶が置いてあった。コップと飲み物の入ったかごも。
「先に兵士に頼んで運んでもらったんだ」
康哉がほどいた風呂敷包みの中からは、おせち料理に使うような重箱が出てきた。
あれ?
なんで康哉の家の弁当がこんな所にあるんだ?
「俺は一日早く王都に着いたから、お前との待ち合わせの時間に合わせて弁当作ったんだ。異世界の素材だけど、出来るだけ和食に近い味付けにした」
「……康哉、お前、料理できるのか?」
康哉の家にはお手伝いさんがいて、料理は全部その人がやってるんじゃなかったのか?
「まあ普通程度には」
そう言って広げられた弁当は、俺には到底作れないほど完璧な仕上がりだった。
「うま……」
野菜を肉で巻いたおかずとか、ちらし寿司によく似たご飯を少しずつフォークで口に運ぶ。
素材は違うけど、本当に日本で食べていた料理に近い。それも時々お昼に食べていた康哉の弁当そのものだ。
「魚はちょっと難しくてさ。この世界の魚は毒を持っている種類が多くて、なかなか売られていないし、あっても高いんだ」
康哉が料理についていろいろ話してくれる。でもなんだか胸がいっぱいで、あまり頭に入らなかった。
あの弁当……本当はこいつが作ってたんだ。でも、自分ではほとんど食べている所を見なかった。女の子に弁当もらったとか、家政婦の料理は食べる気がしないとか言っていつも俺にくれてたよな。
「やっぱり口に合わなかったか?これでも旨いと絶賛されたんだが」
「いや、すごく美味しい」
鈍い俺でもようやく分かった。
康哉が弁当くれるようになったの、俺の母さんが亡くなってからだ。
あの頃は父さんや姉ちゃんが交代で晩飯作ってくれて、昼食は購買でパンを買ってた。家族には感謝してるけど、正直何を食べても美味しいと感じなくて、サッカー部も辞めてしまって、すごく体重が落ちた。それから、しばらくして康哉が弁当くれるようになったんだ。
俺に食わす為……だよな。
そんな事全然知らなかった。それどころか、俺の好きな子や他の女の子にもモテて、毎日家政婦さんから豪華な弁当をもらえる康哉を少しだけ恨んでた。
「ありがとう……」
「気にするな。好きなだけ食え」
康哉は特に表情を変える事なくそう言うと、瓶に飲み物を注いで渡してくれた。麦茶……じゃないよな。でもそんな味のする飲み物は、弁当に合う。
空腹と感動で一心不乱に飲み食いする俺を、康哉は笑いながら見ていた。
「探しましたよ、松田さん、岬さん」
話しかけられて、俺と康哉は同時に顔を上げた。
疲れた顔をしてこっちに歩いて来たのは、ほぼ一週間ぶりに会うメガネの男、如月隼人だった。
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