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ep7.神官と聖騎士団
5 海
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「海に入ってみたいな」
「なりません。海は危険です。どんな魔物が潜んでいるか分からない」
「じゃあ少しだけ近づいてみてもいい?」
「しかし神子さまに何かあれば……」
「お願い」
最初は反対していたアルバートとロジェさんも、俺がしつこく言ったので海の近くまで連れて行ってくれることになった。二人とも剣を抜いて警戒しながら進んでる。
海は俺の想像と少し違ってた。
俺の思う海は、前世でまだ小さかった頃に両親と眺めた青い海。空には白い雲、穏やかな波が打ち寄せ、遠くに小さな船が浮かんでる。健康になったら泳いでみたいとずっと思ってた。
目の前の海は暗い空を写して底が見えない。砂浜はなくてずっと岩が続いてる。波は穏やかだけど、魚がいるかどうかは分からない。少し離れた場所に石の何かが建てられていて、文字が彫られてる。
「あれは石碑のようですね」
二人が石碑を調べているうちに、服の裾を持ち上げて海水に足を浸してみた。水はひんやりしていたけど、魔法の闇に覆われていたにしては綺麗だ。魚はいないかな。底はそれほど深くなさそう。
そのままパシャパシャしていたらアルバートとロジェさんが振り向いて変な声を上げた。
「カナ!」
「かなめ様!」
「ど、どうしたの?」
アルバートが慌てて走ってきて俺を抱き上げる。
「毒があるかもしれない海に不用意に入るとは……!」
「大丈夫だったよ。毒があっても解毒魔法使えると思うし」
それに思ったより海水は汚れていなかった、という言葉はアルの顔色をみて飲み込んだ。すごく怒ってる。
ロジェさんが急いで俺の靴を脱がし、足を自分の着ていたマントで包む。
「すぐに塔に戻って聖水で清めましょう。アルバート、お前も靴が濡れてる」
「……ごめんなさい」
抱えられて灯台まで戻る間、俺はずっと暗闇の中の海を眺めていた。いつかあの海を誰でも泳げるくらい綺麗にしたい。魔法の闇をもっと遠ざけて、魔物は全部退治する。それから、アルバートと浅い海で海水をかけ合ったり泳いだりしたいな。
***
「かなめ様がご無事で本当に安堵いたしました」
「ロジェさん、ごめんね」
「いいえ、かなめ様のなさることに間違いはないと分かっているのですが……心配のあまり取り乱してしまい申し訳ありません」
「俺は間違えることもたくさんあるから気にせず注意して」
「かしこまりました」
灯台に戻って新しい服に着替えたあと、椅子に座ってロジェさんに足を洗ってもらってる。何だか申し訳なくて自分が恥ずかしい。自分でやると言ったけど、ロジェさんは全然ひかなかった。アルバートは足を洗いに行ってて、灯台守りのおじいちゃんやその家族が心配そうに見守ってる。
俺の足にはどこも変なところないんだけど、闇に覆われた海がみんなにとってはよほど不浄なものに思えるみたいだ。
ロジェさんは少し考えたあと、小声で続けた。
「かなめ様、アルバートをどうか許してあげてください」
「えっ?」
「昔から神官や王族相手でもあまり態度を変えない男でした。さすがに神子さまがお相手なら、と思ったのですが……」
「大丈夫。気にしてないよ」
「それは良かった。根はいい奴なんです。ただ、態度に現すのが苦手なだけで、かなめ様のことも決して崇拝していないわけではありません」
「崇拝はしてないと思うけど」
「そ、そんなことは……」
正直に言うと、崇拝されていない方が楽だから嬉しい。みんなに崇められるより、一人くらい気楽に話せたり怒ったりする人がいてくれた方が安心する。
「ロジェさんはアルバートと長い付き合いなの?」
「二年前にアルバートが第七部隊に入隊した頃からの付き合いです。期間は短くても、何度か同じ任務をこなして仲良くなりました。アルバートは新人の中ではかなり優秀で、実力はあっても家柄が伴わない者が多い中、実力があり、家柄もよくて顔もいいアルバートは一目置かれていましたね。本人は少々捻くれていますが」
ロジェさんが語るアルバートの話は新鮮だった。仲が良くていいなぁ。俺も同僚みたいなポジションだったら良かった。
足を綺麗に拭いてもらって新しい靴を履く。サイズがピッタリだ。俺のために探してくれたのかな。
「ありがとう」
「神子さま、お食事の用意ができております。こちらへ運びましょう」
「いいよ。俺も食堂でみんなと食べたいから」
新しい靴を履いて二階にいくと、お風呂上がりみたいなアルバートに遭遇した。
「もうお風呂に入ったの?」
「お前の鳥に汚されたから洗っただけだ」
アルバートの持っている籠の中にはよく見るとおもちがくつろいでいた。地下道にいた頃より綺麗になってる。
「おもち! どこに行ってたの?」
「こいつも呑気に海で泳いでたらしい。ご主人と同じだな」
「なんかごめん」
「洗って回復しておいたから安心しろ」
籠の中で安心しきって寝ているおもちとは対照的に、アルバートの手にはつつかれた跡がいっぱい残ってた。ムスッとしてるけど、やっぱりアルバートは優しい。
「なりません。海は危険です。どんな魔物が潜んでいるか分からない」
「じゃあ少しだけ近づいてみてもいい?」
「しかし神子さまに何かあれば……」
「お願い」
最初は反対していたアルバートとロジェさんも、俺がしつこく言ったので海の近くまで連れて行ってくれることになった。二人とも剣を抜いて警戒しながら進んでる。
海は俺の想像と少し違ってた。
俺の思う海は、前世でまだ小さかった頃に両親と眺めた青い海。空には白い雲、穏やかな波が打ち寄せ、遠くに小さな船が浮かんでる。健康になったら泳いでみたいとずっと思ってた。
目の前の海は暗い空を写して底が見えない。砂浜はなくてずっと岩が続いてる。波は穏やかだけど、魚がいるかどうかは分からない。少し離れた場所に石の何かが建てられていて、文字が彫られてる。
「あれは石碑のようですね」
二人が石碑を調べているうちに、服の裾を持ち上げて海水に足を浸してみた。水はひんやりしていたけど、魔法の闇に覆われていたにしては綺麗だ。魚はいないかな。底はそれほど深くなさそう。
そのままパシャパシャしていたらアルバートとロジェさんが振り向いて変な声を上げた。
「カナ!」
「かなめ様!」
「ど、どうしたの?」
アルバートが慌てて走ってきて俺を抱き上げる。
「毒があるかもしれない海に不用意に入るとは……!」
「大丈夫だったよ。毒があっても解毒魔法使えると思うし」
それに思ったより海水は汚れていなかった、という言葉はアルの顔色をみて飲み込んだ。すごく怒ってる。
ロジェさんが急いで俺の靴を脱がし、足を自分の着ていたマントで包む。
「すぐに塔に戻って聖水で清めましょう。アルバート、お前も靴が濡れてる」
「……ごめんなさい」
抱えられて灯台まで戻る間、俺はずっと暗闇の中の海を眺めていた。いつかあの海を誰でも泳げるくらい綺麗にしたい。魔法の闇をもっと遠ざけて、魔物は全部退治する。それから、アルバートと浅い海で海水をかけ合ったり泳いだりしたいな。
***
「かなめ様がご無事で本当に安堵いたしました」
「ロジェさん、ごめんね」
「いいえ、かなめ様のなさることに間違いはないと分かっているのですが……心配のあまり取り乱してしまい申し訳ありません」
「俺は間違えることもたくさんあるから気にせず注意して」
「かしこまりました」
灯台に戻って新しい服に着替えたあと、椅子に座ってロジェさんに足を洗ってもらってる。何だか申し訳なくて自分が恥ずかしい。自分でやると言ったけど、ロジェさんは全然ひかなかった。アルバートは足を洗いに行ってて、灯台守りのおじいちゃんやその家族が心配そうに見守ってる。
俺の足にはどこも変なところないんだけど、闇に覆われた海がみんなにとってはよほど不浄なものに思えるみたいだ。
ロジェさんは少し考えたあと、小声で続けた。
「かなめ様、アルバートをどうか許してあげてください」
「えっ?」
「昔から神官や王族相手でもあまり態度を変えない男でした。さすがに神子さまがお相手なら、と思ったのですが……」
「大丈夫。気にしてないよ」
「それは良かった。根はいい奴なんです。ただ、態度に現すのが苦手なだけで、かなめ様のことも決して崇拝していないわけではありません」
「崇拝はしてないと思うけど」
「そ、そんなことは……」
正直に言うと、崇拝されていない方が楽だから嬉しい。みんなに崇められるより、一人くらい気楽に話せたり怒ったりする人がいてくれた方が安心する。
「ロジェさんはアルバートと長い付き合いなの?」
「二年前にアルバートが第七部隊に入隊した頃からの付き合いです。期間は短くても、何度か同じ任務をこなして仲良くなりました。アルバートは新人の中ではかなり優秀で、実力はあっても家柄が伴わない者が多い中、実力があり、家柄もよくて顔もいいアルバートは一目置かれていましたね。本人は少々捻くれていますが」
ロジェさんが語るアルバートの話は新鮮だった。仲が良くていいなぁ。俺も同僚みたいなポジションだったら良かった。
足を綺麗に拭いてもらって新しい靴を履く。サイズがピッタリだ。俺のために探してくれたのかな。
「ありがとう」
「神子さま、お食事の用意ができております。こちらへ運びましょう」
「いいよ。俺も食堂でみんなと食べたいから」
新しい靴を履いて二階にいくと、お風呂上がりみたいなアルバートに遭遇した。
「もうお風呂に入ったの?」
「お前の鳥に汚されたから洗っただけだ」
アルバートの持っている籠の中にはよく見るとおもちがくつろいでいた。地下道にいた頃より綺麗になってる。
「おもち! どこに行ってたの?」
「こいつも呑気に海で泳いでたらしい。ご主人と同じだな」
「なんかごめん」
「洗って回復しておいたから安心しろ」
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