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ep7.神官と聖騎士団
6 ご飯とお風呂
しおりを挟む食堂のテーブルには素朴だけどたくさんの料理が並べられていた。この灯台でこんなに食料を使って大丈夫なのかな。きっと辺境に備蓄していた食料だと思うからあとでアルバートに相談してみよう。大神殿から食料やお金を送ってもらえるかもしれない。
俺の席だけ特別に設置されていたので、わがままを言ってアルバートとロジェさんの席の間に入れてもらった。遠慮していた灯台守のおじいさん夫婦や子供達も一緒に食事をして欲しいとお願いする。
「神子さまと聖騎士さまの給仕をする者が必要です」
「自分たちで食べられるから大丈夫」
というやりとりを繰り返し、なんとか説得に成功した。灯台守のお爺さんの息子さん夫婦は近くの村に物資を調達に行っているから不在だけど、憧れの大家族に近い夕食会になった。
「神子さま、エルトリアに光と恵みを与えてくださってありがとうございます」
食事の前にお爺さんがそう言って、みんな目を閉じて両手を胸の前で交差させる。俺は何を言うべきなのかわからなくてみんなを黙って見守っていた。お爺さんの目に涙が光って、俺も少し泣きそうになった。
「かなめ様、こちらをどうぞ。おすすめの果実水です。これはこの地方の代表的な煮込み料理、こちらは豆のパンです」
食事が始まると、淡々と食べているアルバートとは逆に、ロジェさんはいろいろな料理、お酒や飲み物を勧めてくれる。ロジェさんはおしゃべりで、俺はもちろんアルバート、灯台守のお爺さんや子供達にも話しかけるから食事はとても楽しかった。初めて聞く話がいっぱいで、聖騎士の仕事の話は子供達も興味津々で聞いていた。
「ジャック隊長ってそんなに怖いの?」
「それはもう。厳しさでは聖騎士団一だと思いますよ。顔が怖いのは第一部隊のトレアム隊長ですが」
「確かにそうかも」
大神殿を守っているレイ隊長の強面の顔を思い出す。ああ見えて涙脆いんだよな。
「トレアム家は初代聖騎士の方を輩出した家系とか。一度お会いしたいものです」
灯台守のお爺さんがそう言って、昔のアルのことを思い出した。昔のアルは俺の専属護衛の資格を取るために、トレアム家の養子に入ったと言っていた。
「懐かしいな……」
今度俺もレイ隊長の実家に連れて行ってもらおうかな。もしかしたらアルの私物とか残されているかも。無理かな……八百年も経っているんだし……。
「聖騎士様と神子さまは結婚してるって本当なの?」
男の子が無邪気な笑顔で質問をしてきたので、慌てて感傷的な気持ちを追い払った。
「そうだよ」
「神子さまがすごく美しいから聖騎士様が好きになったんでしょう?」
「そ、それは……」
俺が口ごもっていると、アルバートがにこやかな笑みで続けた。
「そうです。初めてお会いした神子さまがあまりにお美しいので、司祭さまにお願いして結婚相手に選んでいただいたのです」
子供達がきゃあきゃあ歓声を上げてる。アルバート、平然と嘘がつけるってすごいな。
***
夕食会は楽しく終了し、片付けも手伝わなくていいと全力で止められて、綺麗なお湯のあるお風呂場に送り出された。普段みんなが使っているお風呂場とは違って、儀式用の聖水を管理している部屋みたいだ。人が一人入れるくらいのお風呂に腰くらいまでのお湯がはられてる。イルケデニアスにいた頃は温かいお風呂に入れなかったからすごく嬉しい。
髪も顔も体も洗って、ついでに着ていた下着も洗って干しておく。腰くらいまでのお湯に浸かると、数本の燭台に灯りがともされていて、いい香りのする植物が飾られてるからかとてもリラックスできた。
着替えは肌触りのいい白い服に、まともな下着が用意されていた。やっぱりエリンの準備してしていた下着って特別だったんだ。そうだよな、アルバートが変なエロ下着はいてるのなんて見たことない。
脱衣所で着替えていると誰かの声が聞こえてきた。慌ててキョロキョロ見回しても誰も部屋にいない。それでおもちの能力だと気づいた。
「……どうする? 俺としてはナラミテの砦にしばらく滞在して欲しいが、お前が嫌なら」
これはロジェさんの声だ。
「ジャック隊長は重症なのか?」
「隊長は魔力も強いし呪いは今のところ抑えられてる。だが、聖騎士たちは全員どこかに呪いを受けているし、あまり長期間放置すれば再起不能になる者も出るだろう。俺が呪いを受けずに済んだのは、かなめ様に魔法をかけていただいたおかげだ。毒の雨の影響も受けなかった。アルバート、お前も同じだろ?」
「ああ。足の呪いは完全に無くなったよ。第一や第三部隊はどうだ?」
「王都に出没した魔物や呪術師との戦いでかなり疲弊しているらしい。だが、第一部隊がナラミテに向かうというのは本当で、噂通り王族を護衛しているという話だ」
王族を護衛?
「かなめ様が戻ったという噂を聞きつけたんだろう」
「アルバート、気をつけろ。国王は近いうちに法令を変えると噂されてる」
ロジェさんはそこで声量をかなり落とした。
「おそらく神子さまについての制度を何か変更するつもりだ」
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