転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep7.神官と聖騎士団

7 続けて欲しいな

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 俺についての何かを変えると聞いて怖くなった。八百年前の王族も俺に命令ばかりしていた。どんなに神子の魔力が強くても国王の命令には逆らえない。それは隣国サデの王様に会った時も感じたけど。

 脱衣所で立ち尽くしていると、扉をノックする音がした。

「神子さま、お湯加減はいかがですか?」
「あっ、ありがとうございます。もうあがりました」

 お婆さんにお礼を言ってお風呂場から出た時には二人の声は聞こえなくなっていた。

***

「ロジェさんは寝ないの?」
「私は夜間の見回りをいたします」
「俺が結界を強化したから眠っても大丈夫だよ」
「かなめ様、聖騎士は眠らずに任務にあたることはよくあるのです。かなめ様はゆっくりお休みくださいね」
「でも……」

「聖騎士様、お二人ともお部屋をご用意いたしておりますのでお休みください。私と妻で夜通し起きております。年寄りは普段からなかなか眠れませんし、魔法の闇を見張るのは灯台守の仕事です。それに神子さまがいらっしゃった奇跡のような夜に眠るなどとてもできそうにありませんのでお気になさらず。何か異変があればすぐにお知らせいたします」

「分かりました。グリフォンもいることですし、お二人に任せて我々は休みましょう」
「よろしくお願いします」
「ただ、私の部屋は必要ありません。私はかなめ様の伴侶なので、同じ部屋で警護にあたります」

 アルバートがそう締めくくったので、ロジェさんもお爺さんも
「同じ部屋に聖騎士様がいてくだされば安心ですな」
「アルバート、よろしく」
 と納得していたけど、みんな本当に警護だと思っているんだろうな。名ばかりの伴侶だと言えばそうなんだけど。

***

「明日は早いからもう寝ろ」

 部屋に二人きりになるとアルバートが素の状態に戻った。

「アルは?」
「禊ぎの部屋ってところで風呂にでも入ってくる。おもちを置いておくから糞をしないように言い聞かせておけよ」
「うん」

 アルバートがお風呂に入っている間におもちと遊ぶ。手でトンネルを作ると通り抜けてくれたり、手のひらを転がったり、肩に向かって飛んでくれたりして楽しい。

「おもち、さっきは何で会話を教えてくれたんだ?」
「ピ?」

 おもちは全然わからないという顔をしてる。

「そう言えば海はどうだった?」
「ピィ」
「いつか泳げるようになりたいよな」
「ピィピィ」

 アルバートが戻ってくると、おもちはさっと籠の中に潜り込んでしまった。俺よりお世話してもらってるのにアルバートに全然懐いてなくて不思議だ。

「おかえり」
「まだ起きていたのか」
「うん」

 アルバートが呪文を唱えると、部屋の蝋燭の炎が半分以下になって暗くなった。

「ベッド、一つだけど」
「問題ない。お前の隣で寝る」
「……うん」

 暗闇でもお風呂上がりでもアルバートはかっこよかった。かっこいいだけじゃない。優しくて頼りになって……上手く言えないけど安心する。心の奥底できっと昔のアルと重ねて見てるんだ。それは今のアルバートに失礼なことかもしれないけどやめられない。そばにいられるだけで嬉しくて気持ちが上がる。

 ベッドに腰掛けたアルバートに触れようか悩んでいたら、こっちを振り向いた。

「灯台守のじいさんのことは勝手に祖父のように思っていたが、喜んでいるとやはり嬉しいな」

 アルバート、無表情だったけど喜んでいたのか。

「これも神子さまのお力のおかげです。海を出現させた時には敬服いたしました」

 大袈裟に胸を両手の前で交差させる。誰もいないのに儀礼的だとからかわれてる気分になる。

「海は隠れていただけであったんだよ」
「私はこれまで波の音も聞いたことがありませんでした。海があんな色をしていたとは」
「本当はもっと青くて綺麗だと思う」
「いつか見てみたいものです」
「俺も」

 アルバートは俺の手を取って指先に唇を押し当てた。胸が苦しくなる。ただの聖騎士の忠誠の証なのに。

「今日の契約終了?」
「神子さまがお望みなら続けますが」

 アルバートが笑って俺の腰を引き寄せる。至近距離でじっと見つめられて、目が離せない。

「続けて欲しいな……」

 最後まで言い終わらないうちに唇を塞がれた。みぞおちのあたりにぞくぞくとした感覚が走り抜け、無意識に脚を擦り合わせる。アルバートのことが好きだ。ルーリーさんにも誰にも渡したくない。これは権力を利用していた昔の王様と同じなんだろうか。





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