転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep7.神官と聖騎士団

10 グリフォンで飛行

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 朝食をご馳走になったあと、準備ができればナラミテの街へ出発だ。
 アルバートとロジェさんがグリフォンのお世話をしている間に、俺は灯台にいる人たちに祝福を授けた。 
 
 祝福というのは、指先に簡単な防御魔法と回復魔法を集めて相手の額に触れる行為だ。魔力量は最小だから気休め程度の魔除けみたいなものなんだけど、神官や神子の祝福は人々に大人気だった。
 でも八百年前の記憶では、俺はほとんど庶民の前に姿を現さなかったし、俺が祝福を授けていたのは王族や貴族の限られた人だけ。だから一般の子供やお爺さんに祝福を授けるのは初めてだ。みんなすごく喜んでくれて嬉しい。

「かなめ様、出発の準備が整いました」

 ロジェさんとアルバートが二頭のグリフォンを従えて灯台前の広場にやって来たから、グリフォンの額にも触れる。

「ナラミテまでよろしくね」

 と伝えるとゼフィーもシンリーもクェッと鳴いて応えてくれた。

 灯台の人々が見守る中、アルバートに抱えられてグリフォンに乗せてもらう。
 グリフォンは見れば見るほど不思議な生き物だ。首の部分と前足は鳥なのに後ろ側はライオンみたいな動物の身体になってる。身体くらい大きな翼が生えていて、体温はすごく高い。二人も乗って大丈夫か不安になったけど、見た目より魔力が高くてすごく力が強いことが分かった。

「かなめ様、翼ではなく手綱をお待ちください。グリフォンは翼に触れられるのを嫌がりますので」

 後ろに乗ったアルバートが俺に手綱を握らせてくれる。これから空を飛ぶと思うと少しだけ怖い。ポケットに入っていたおもちが顔を出してゼフィーの頭の上にちょこんと飛び乗った。ゼフィーは気にしてなさそう。おもちのおかげで少し恐怖心が薄れた。

「神子さま、聖騎士さま、無事に王都に戻れるよう旅の無事をお祈りいたしております」
「みなさん、お世話になりました」
「灯台守の身分で神子さまのお世話ができたことを一生の心の支えにし、後世の者たちにも神子さまの偉業を伝えてまいります。どうかこれからもエルトリアをお守りください」

 灯台守の老夫婦、それに子供達がその場に膝をついて両手を胸の前で交差する。エルトリアの祈りのポーズだ。

「ありがとう。皆さまもお元気で」

 祈る人々に手をあげていたら、突然ゼフィーが地面を蹴って、身体ごと空に舞い上がった。

「うわぁ」

 後ろからアルバートが包むように俺を支えてくれる。でも怖くて目を閉じて手綱にしがみつくのに必死だった。
 空を飛ぶのは生まれて初めてで、想像していたよりずっと怖かった。身体が地面の方に引っ張られたり、ふわっと浮いたりして気持ち悪い。目を閉じているから風の音とゼフィーの翼の音しか聞こえない。

「かなめ様! 大丈夫ですか?」

 隣からロジェさんの叫ぶ声が聞こえる。反応する余裕がない。
 しばらく耐えていたら、急上昇と変な浮遊感は無くなって、あまり揺れなくなった。最小限の魔力で風に乗って飛行してる気がする。

「カナ、エルトリアの国が見渡せるぞ」

 アルバートの声で恐る恐る薄目を開けてみた。

「わぁ……」

 光に照らされた山々が見えた。隙間を縫うように流れる小川と低木のしげみ、所々に点在する建物。

「この辺りは辺境だから街は少ない。明るい方が王都だ」

 アルバートの言う通り、光の強い方角があった。日の光が遮られることなくさしている場所と言ったほうが正確だ。振り向くと、真っ黒な闇がエルトリアを取り囲んでいるのが分かる。あれが迫っていると考えたら、みんな怖いだろうな。

 横を見ると紫のグリフォンに乗ったロジェさんが、微笑んでこっちに手を振ってくれていた。変な例えだけど、子供の頃一度だけ家族で乗ったメリーゴーランドを思い出した。お兄ちゃんがいたらあんな感じなのかな。

 少しなごんでいたら、ゼフィーの頭に止まっていたおもちがぴょんと飛んで目の前から消えた。

「おもち!?」

 おもちの行方を目で追って真下を見てしまい、気が遠くなる。はるか地面の上に小さな建物がぽつぽつ見えてる。高い。怖い。

「カナ、大丈夫か? おもちなら気にするな。あいつには翼も魔力もある。気まぐれにどこかに行くのが習性だろ」
「うん……ここ、すごく高いね」
「空の上だからな」
「あとどのくらい?」

 聞くとアルバートは笑った。

「手がめちゃくちゃ震えてる。完璧な神子さまにも苦手なことってあるんだな」



 





 

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