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ep.1目覚め

8 魔法の誓約書

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 特別席で待っていたら、しばらくしてアルバートと、いかつい長身の男と、体格のいい渋い顔のお兄さんがそろってやって来た。
 アルバート以外の二人は同じような格好をしてる。白に金色の模様の入ったマントを身につけて、同じ模様の剣を持っていた。多分二人とも兵士だ。長身の男の人は三十代以上に見えるけど、全身傷だらけですごく強そう。顔も怖い。もう一人のお兄さんは、アルバートほどじゃないけど渋めのイケメン。
 ビビる俺をよそに二人は俺をみて硬直していた。しばらくして我にかえると、さっと俺の足もとに膝をつき片方の手を胸に当てた。

「み、神子さま……初めてお目にかかります……! 私は聖騎士第一部隊長のレイ=トレアムと申します。長年この大神殿と神子さまの警護をさせていただいております!」

 声が大きくて熊みたいな人だ。でも緊張してるのがわかる。顔が赤いし、声がうわずってる。

「レイさん、佐伯要といいます。いつも守ってくれてありがとうございます」

 お礼を言うと数秒変な沈黙があった。なんの沈黙だろ、これ。

「かなめ様、私は聖騎士第七部隊長のジャック=ワイス。国境と辺境の警備を担当しております」

「ジャックさんもありがとう。これからもよろしくお願いします」

 今度は変な沈黙はなかった。ジャック隊長がふふっと笑う。

「あの、皆さん立ってください」

 いつまでも挨拶のポーズをさせておくのも悪いのでそう言うと、二人とも立ち上がってすごくビシッとした姿勢をとった。兵士ってなんだか妙な迫力があるな。熊みたいな方がレイさんで、若いけど凄みがある人がジャックさん。さすが隊長をやってるだけある。戦ったら数秒で倒されそう。

「かなめ様、明日は第二から六までの隊長を紹介いたします。お二人とは顔を合わせる機会が多いと思い、来ていただきました」

 アルバートが丁寧な口調で教えてくれる。二人に比べたらアルバートはそれほどゴツくないな。身長も二人より低い。まぁ俺よりはずっと高いし、レイさんはそもそも二メートル以上あるけど。

「聖騎士は第七まであるんですか?」
「はい。アルバート様は結婚前は私の第七部隊に所属していました。部下の出世をもと上司として嬉しく思っています」

 ジャック隊長がアルバートに視線を送り、アルバートはちょっとだけ肩をすくめたみたいに思えた。きっと仲のいい上司と部下だったんだろうな。なんだか羨ましい。

「アルバート殿、かなめ様が屋上庭園を散策したいと仰せだ。護衛を頼む。レイ殿とジャック殿は結婚の祝賀祭の警備の強化について打ち合わせをお願いしたい」

 キリアン司祭様がそう言って、隊長二人はその場に残った。俺はアルバートと部屋に向かう。差し出された手をおずおずと握り、部屋までの長い廊下をエスコートしてもらった。あんなにお酒を飲んでいたのに、アルバートは少しも酔っているそぶりがない。少しお酒の匂いはするけど。

「アルバート一人に挨拶させてごめん。大変じゃなかった?」

 アルバートは俺をちらっと見たけど、特に何も言わなかった。でも歩くのが速いから足がもつれそうになる。

「も、もう少しゆっくり歩いて……」
「そう言えば、ずっと眠ってたんだったな」
「うん。ずっとベッドに寝ていたから」
「俺の見立てでは、眠っていたのではなく、魔法で時を止めていたに近いと思うんだが」
「えっ?」

 アルバートはそれ以上何も言わなかったけど、少し歩くスピードを落としてくれた。

「ありがとう」

 そのまま俺の部屋の前に到着する。アルバートが扉に手をかざすと、扉は開いた。広々とした部屋はさっきより日が傾いたせいか、蝋燭の灯りが輝きを増していた。外はもう夕方なのか、少し暗くなってる。

「部屋から屋上庭園に行けるの?」
「ああ」
「疲れたら休んでいていいよ。俺一人でも散歩してくるから」
「そうはいかない。神子の結婚相手は専属の護衛だ。常に盾となって神子を守る。それが仕事だ」

 神官たちと同じこと言ってる。仕事って言われるとなんだか辛いな。結婚って、愛し合ってる者同士が幸せな家庭を作るためにするものじゃないのかな。

(残念ながらお互いに選ぶ権利もなく結婚することになりました)

 式の時、アルバートがこう言っていたのを思い出す。きっと上からの指示で嫌だけど断れなかったんだろうな。

「もし、アルバートが嫌なら……」

 いつの間にかそばに来ていたアルバートに腰を抱き寄せられて、びっくりして言葉を飲み込む。

「嫌ならどうする? 他の相手と変えるのか?」

 もしかして怒らせたんだろうか。別にアルバートが嫌いなわけじゃないのに。

「ち、違うよ。仕事がたくさんあるんだったら、何か協力できるかと思って……」

「お前には悪いが離婚は出来ない。俺は結婚する時に魔法の誓約書に署名した。誓いを破れば罰が与えられる」
「誓約書……」

「だからお前の護衛となり命懸けでその身体を守らなければならない。それが契約だ」

 至近距離からアルバートが見下ろしてくるから、ドキドキして心臓がうるさい。何か恐ろしいことを言われるような気がして、怖くて耳を塞ぎたかった。

「もちろん死ぬまで神子を裏切ることは出来ない。それから……」

 アルバートが俺の髪を撫で、首や耳たぶに指を絡ませる。鋭い目で見つめられて言葉が出ない。

「誓いを守る証しとして定期的に神子の身体のどこかに口付けをしなければならない」
「え?」

 鼻が触れるくらいの至近距離でそう言われて身構える。でもアルバートはそんな俺を笑った。

「どこかと言っても聖騎士が誓いの口付けをするのは神子の手の甲と決まっているが」
「手の甲……」

 なんだ、そっか。ちょっと安心した。そうだよな、契約結婚なのに変なことを考えた自分が恥ずかしい。
 安心してアルバートを見上げたのに、その後の言葉は口付けに塞がれた。
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