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ep.1目覚め
9 屋上庭園
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一瞬なにが起こったのか分からなかった。キスされてると分かって、離れようと思ったけど力が出ない。抱きしめられたまま唇を塞がれてどくどくと心臓が高鳴る。さっきまでアルバートが飲んでいた甘いお酒の香りがした。
生まれて初めての感触で理解が追いつかない。どうしよう、どうしよう。アルバートとキスしてる。意識するとさらに身体中が熱くなった。どうしていいか分からなくて、息を止めたまま目を閉じてぎゅっと力を入れていると唇が離れた。
「ぷはっ……」
ようやく口をあけて呼吸が出来ると思ったのに、目を開けるとやっぱりアルバートが至近距離から見下ろしていた。恥ずかしすぎてうつむこうと思ったのに、顎を取られて動かせない。
「あ、アル……んっ」
アルバートの舌が簡単に唇をわって入り、俺の舌を絡めとった。
唇と舌を甘く丁寧に吸われて唾液も舐め取られて、恥ずかしくなるような水音がする。頭がぼうっとして、手足に力が入らない。腰を支えてもらっているからかろうじて立っていられる。
ようやく唇が離れたので、息を整えたけどまだ彼の腕の中に抱えられたままだ。大きな手のひらで頬に触れられ耳を撫でられると怖くなる。ずっとそうされていたいような、すぐに逃げ出したいような矛盾した気持ちが生まれて混乱した。
「あ、アルバート……」
「もうすぐ日没だ。散歩するなら日が沈む前に庭園に行こうか」
アルバートはそう言うと、俺を軽々と抱え上げた。
「お、下ろして。一人で歩けるよ」
抱き上げられると重病人に戻ったみたいな錯覚をしてしまうから嫌だ。それにドキドキしすぎて心臓に悪い。でもアルバートは鼻で笑った。
「お前の速度に合わせていると日が沈む」
そんなの、アルバートがキスなんかするからじゃないか。
そう思ったけど、口には出さずに黙り込んだ。実際にさっきは歩く速さを遅くしてもらったし、散歩に行きたいと言ってアルバートを護衛に呼び寄せたのも俺だ。もしかしたら怒っているのかも。
俺のこと嫌なのかな。でもそれならなんでキスなんかしたんだ。離婚されたくないから? もしそうだとしたらすごく悲しい。俺は、びっくりしたけど、そんなに嫌じゃなかったから。
アルバートに抱えられて大きな部屋の扉から外の広いテラスへ出る。オレンジ色の雲がミルクティーみたいな色の空に浮かんでいた。
綺麗だ。この世界も太陽は一つで、夕方の風景は同じなんだな。夕日が白い建物と屋根をオレンジ色に染めてる。空には大きな鳥が何羽か連なって飛んでいく。一度も見たことのない景色なのに、どこか懐かしさを覚える。
「さすがに首都は日没が綺麗だな」
アルバートがつぶやいた。そんなことを言うなんて意外だ。彼は景色とか、美しさとか高価なものとか、そういうことに興味がないのかと思っていたから。俺の視線に気づいたアルバートが、ちょっとバツの悪そうな顔をする。
「何か思い出しても泣くなよ。親しい人間がいなくなって景色が変わっても、同じ国に生きていた者の子孫たちだし、大神殿はちょっと居心地は悪いがお前は歓迎されている」
「アルバート……」
もしかして、気を遣ってくれてるのかな。
「俺、何年くらい寝ていたの? 驚かないから教えて欲しい。過去のこと、何も思い出してないから。俺は眠ってる間に一度死んで、生まれ変わったんじゃないかと思う」
アルバートはしばらく俺の顔を眺めた後、静かに告げた。
「八百年だ」
驚かないとは言ったけど、さすがにそんなに長いとは思っていなかった。目を見開いた俺を見て、アルバートはほら見ろという顔をした。
テラスにはテーブルと椅子がいくつか置いてあって、植え込みにはピンク色の花が咲いている。隣の部屋にも行けるみたいだ。奥に上へ続く石の螺旋階段もある。アルバートは俺を抱えたまま階段を登って屋上へと向かった。
屋上庭園はまるい屋根の一角に作られた憩いのスペースみたいになっていた。近くには小さな建物がある。あそこで天体観測とかするのかな。
アルバートに下ろしてもらって眺めのいい場所に走って行った。そこからはエルトリアの国の景色が一望できた。日が沈みかけているからはっきりとは見えないけど、建物が日本とは違う。近くにお城が見える。城壁になびく旗も。大神殿の周りは庭園と大木に囲まれていて、その周りには大きな家や道がびっしりと並んでいた。これはもう、大都市といっていいレベルじゃないか。
大神殿の周りには灯りを持った人々がたくさん行列を作ってる。神殿の庭で宴会をしている人たちも見えた。
「日没なのにたくさん人がいる」
「神子の結婚を祝ってる。三日三晩続くらしいぞ」
隣に来たアルバートが他人事のように言った。
生まれて初めての感触で理解が追いつかない。どうしよう、どうしよう。アルバートとキスしてる。意識するとさらに身体中が熱くなった。どうしていいか分からなくて、息を止めたまま目を閉じてぎゅっと力を入れていると唇が離れた。
「ぷはっ……」
ようやく口をあけて呼吸が出来ると思ったのに、目を開けるとやっぱりアルバートが至近距離から見下ろしていた。恥ずかしすぎてうつむこうと思ったのに、顎を取られて動かせない。
「あ、アル……んっ」
アルバートの舌が簡単に唇をわって入り、俺の舌を絡めとった。
唇と舌を甘く丁寧に吸われて唾液も舐め取られて、恥ずかしくなるような水音がする。頭がぼうっとして、手足に力が入らない。腰を支えてもらっているからかろうじて立っていられる。
ようやく唇が離れたので、息を整えたけどまだ彼の腕の中に抱えられたままだ。大きな手のひらで頬に触れられ耳を撫でられると怖くなる。ずっとそうされていたいような、すぐに逃げ出したいような矛盾した気持ちが生まれて混乱した。
「あ、アルバート……」
「もうすぐ日没だ。散歩するなら日が沈む前に庭園に行こうか」
アルバートはそう言うと、俺を軽々と抱え上げた。
「お、下ろして。一人で歩けるよ」
抱き上げられると重病人に戻ったみたいな錯覚をしてしまうから嫌だ。それにドキドキしすぎて心臓に悪い。でもアルバートは鼻で笑った。
「お前の速度に合わせていると日が沈む」
そんなの、アルバートがキスなんかするからじゃないか。
そう思ったけど、口には出さずに黙り込んだ。実際にさっきは歩く速さを遅くしてもらったし、散歩に行きたいと言ってアルバートを護衛に呼び寄せたのも俺だ。もしかしたら怒っているのかも。
俺のこと嫌なのかな。でもそれならなんでキスなんかしたんだ。離婚されたくないから? もしそうだとしたらすごく悲しい。俺は、びっくりしたけど、そんなに嫌じゃなかったから。
アルバートに抱えられて大きな部屋の扉から外の広いテラスへ出る。オレンジ色の雲がミルクティーみたいな色の空に浮かんでいた。
綺麗だ。この世界も太陽は一つで、夕方の風景は同じなんだな。夕日が白い建物と屋根をオレンジ色に染めてる。空には大きな鳥が何羽か連なって飛んでいく。一度も見たことのない景色なのに、どこか懐かしさを覚える。
「さすがに首都は日没が綺麗だな」
アルバートがつぶやいた。そんなことを言うなんて意外だ。彼は景色とか、美しさとか高価なものとか、そういうことに興味がないのかと思っていたから。俺の視線に気づいたアルバートが、ちょっとバツの悪そうな顔をする。
「何か思い出しても泣くなよ。親しい人間がいなくなって景色が変わっても、同じ国に生きていた者の子孫たちだし、大神殿はちょっと居心地は悪いがお前は歓迎されている」
「アルバート……」
もしかして、気を遣ってくれてるのかな。
「俺、何年くらい寝ていたの? 驚かないから教えて欲しい。過去のこと、何も思い出してないから。俺は眠ってる間に一度死んで、生まれ変わったんじゃないかと思う」
アルバートはしばらく俺の顔を眺めた後、静かに告げた。
「八百年だ」
驚かないとは言ったけど、さすがにそんなに長いとは思っていなかった。目を見開いた俺を見て、アルバートはほら見ろという顔をした。
テラスにはテーブルと椅子がいくつか置いてあって、植え込みにはピンク色の花が咲いている。隣の部屋にも行けるみたいだ。奥に上へ続く石の螺旋階段もある。アルバートは俺を抱えたまま階段を登って屋上へと向かった。
屋上庭園はまるい屋根の一角に作られた憩いのスペースみたいになっていた。近くには小さな建物がある。あそこで天体観測とかするのかな。
アルバートに下ろしてもらって眺めのいい場所に走って行った。そこからはエルトリアの国の景色が一望できた。日が沈みかけているからはっきりとは見えないけど、建物が日本とは違う。近くにお城が見える。城壁になびく旗も。大神殿の周りは庭園と大木に囲まれていて、その周りには大きな家や道がびっしりと並んでいた。これはもう、大都市といっていいレベルじゃないか。
大神殿の周りには灯りを持った人々がたくさん行列を作ってる。神殿の庭で宴会をしている人たちも見えた。
「日没なのにたくさん人がいる」
「神子の結婚を祝ってる。三日三晩続くらしいぞ」
隣に来たアルバートが他人事のように言った。
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