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ep.1目覚め
10 結婚式の夜
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「そろそろ戻ろう。身体を冷やすのは良くない」
暗くなっていく景色を眺めていたら、アルバートがそう言って手を差し出してくれた。もっと夜景を見ていたかったけど、ここでためらうと抱き上げられそうな気がして、抱き上げられたら再びキスされそうな気がして慌てて彼の手を掴む。
アルバートの手は大きくて、手のひらは硬い。左手の指には俺とお揃いの透明な指輪がはめられている。腕は細いのに筋肉がついていて力も強い。病気の時になりたいと憧れていた強い男の人そのものだ。
俺は神子さまの身体に転生して健康になれて嬉しいけど、俺の身体は細くて体重も軽そうだし、全然マッチョじゃない。アルバートがちょっと羨ましいな。健康になれただけで嬉しかったのに人間って欲深い。
そんなことを考えながら一緒に階段を降りて部屋まで戻る。部屋には誰もいないけど、たくさんの蝋燭の灯りが輝いていてほっとする明るさだ。部屋の中央のテーブルには瓶に入った飲み物と銀色の小さな器。それに焼き菓子みたいなお菓子も用意されていた。
「そろそろ大神殿は就寝の時刻だな。下の階では結婚の祝祭が夜通し行われるようだが、どうする?」
「アルバートは?」
「お前にあわせる」
「結婚式の夜って何したらいいの?」
夜通しの祝賀祭で何か儀式があるのかと思って聞くと、アルバートは部屋の中にある大きな天蓋付きのベッドを見た。この部屋にベッドは一つしかない。前世では恋人も友達もいなかった俺だけど、この時は瞬時にその意味を理解した。
「お、大きなベッドだね。二人でも十分眠れそう」
何言ってるんだ俺。落ち着け。
俺たち男同士だぞ。男同士ってどうするんだ? 同性愛者がいることは知ってるけど、そこまでの知識はない。男女とは違うよな、もちろん。そもそも男女の行為も漫画とかの薄い知識しかないんだけど。しかもここは異世界だし、俺は神子という立場だし、いろいろ未知の領域すぎる。キスしただけで動揺しまくったんだぞ。その先は怖い。それに、義務でされたくない。アルバートは経験豊富なんだろうか。愛がなくても平気なのかな。チラ見しても無表情すぎて何考えてるか全然分からない。
「結婚式の夜といえば」
アルバートがテーブルにある瓶を開け、中の液体を銀色の器に注いだ。
「祝いの酒を二人で飲み、その国の伝統的なお菓子を食べるのが習わしだ」
「そ、そうなんだ」
直接的な言葉を言われなくて少し安心する。銀色の器を渡されて二人で乾杯した。初日だからお酒を飲んで話すだけでいいんじゃないかな。お互いをもっと知ったほうがいいと思うし。
お酒を飲むのは初めてだから嬉しい。ずっと飲んでみたかったんだ。アルバートがくいっと飲み干すのを見て、俺も喉に流し込む。甘くて何か果物の香りが口いっぱいに広がった。美味しい。もう一杯飲もうとしたら止められた。
「この酒は飲みやすいが強い。無理しないほうがいい」
「もう一杯だけ」
ふわふわした気分になれて気持ちいいから二杯目を飲んだら、急にくらっときた。ふらつく俺をアルバートが支える。
「だから言っただろ」
耳元で低い声で囁かれて余計にくらくらした。
「も、もう寝ようかな。アルバートは部屋に戻っていいよ。俺一人で眠れるし」
「同じ部屋に眠らないと伴侶の意味がない」
「じゃあ俺が長椅子に寝るから」
「神子を長椅子に眠らせたら神殿を追い出される」
「でも……」
その時、部屋の扉がノックされて、心臓が飛び出しそうになった。扉の向こうからエリンの声がする。
「かなめ様、もうお休みになられましたか?」
返事をしようとしたらアルバートが俺を抱え上げた。
「神子さまはもうお休みになられています」
「……そうですか。アルバート殿もお疲れでしょうから早めにお休みください。神子さま、明日もどうか私たちに光をお与えくださいますように」
祈るようなエリンの声が聞こえ、それから靴音が遠ざかって行った。
「おやすみなさい。エリン」
そんな俺の呟きを聞き流して、アルバートはそのまま俺をベッドまで運んだ。俺をベッドに座らせると、俺の着ていた上着をゆっくりと脱がす。もしかしたらそのまま襲われるのかもと覚悟した。お酒も飲んでるし力では敵わない。さっきエリンに声をかけられた時、アルバートを振り切って部屋を出ることもできたのに俺はそうしなかった。
アルバートが靴を脱がせてくれて、髪についていた飾りを一つずつ丁寧に外してくれる。指が頬や耳に触れるたびドキドキする。
でも飾りを外したあとは横になるよう促されて、上から羽みたいに軽い布団をかけられた。アルバートはベッドの横にある椅子に座る。何もしないのかな。
アルバートが何か呪文を唱えると、部屋の蝋燭の灯りの大部分が消え、明るさが半分以下になった。
「俺、今日眠ったら明日も目が覚めるのかな。もしかしたらこれは死ぬ前に見てる夢なのかも」
「余計な心配するな。朝になったら起こしてやる」
「じゃあ眠るまで手を繋いでくれる?」
安心したのと、お酒にちょっと酔っていたせいで無性に甘えたい気分になっていた。アルバートはやれやれという顔をしたけど、それでも俺の手を握ってくれた。
この人は二人っきりの時は無愛想だけど、本当は優しい。愛はないのかもしれないけど、アルバートが結婚相手で良かった。
暗くなっていく景色を眺めていたら、アルバートがそう言って手を差し出してくれた。もっと夜景を見ていたかったけど、ここでためらうと抱き上げられそうな気がして、抱き上げられたら再びキスされそうな気がして慌てて彼の手を掴む。
アルバートの手は大きくて、手のひらは硬い。左手の指には俺とお揃いの透明な指輪がはめられている。腕は細いのに筋肉がついていて力も強い。病気の時になりたいと憧れていた強い男の人そのものだ。
俺は神子さまの身体に転生して健康になれて嬉しいけど、俺の身体は細くて体重も軽そうだし、全然マッチョじゃない。アルバートがちょっと羨ましいな。健康になれただけで嬉しかったのに人間って欲深い。
そんなことを考えながら一緒に階段を降りて部屋まで戻る。部屋には誰もいないけど、たくさんの蝋燭の灯りが輝いていてほっとする明るさだ。部屋の中央のテーブルには瓶に入った飲み物と銀色の小さな器。それに焼き菓子みたいなお菓子も用意されていた。
「そろそろ大神殿は就寝の時刻だな。下の階では結婚の祝祭が夜通し行われるようだが、どうする?」
「アルバートは?」
「お前にあわせる」
「結婚式の夜って何したらいいの?」
夜通しの祝賀祭で何か儀式があるのかと思って聞くと、アルバートは部屋の中にある大きな天蓋付きのベッドを見た。この部屋にベッドは一つしかない。前世では恋人も友達もいなかった俺だけど、この時は瞬時にその意味を理解した。
「お、大きなベッドだね。二人でも十分眠れそう」
何言ってるんだ俺。落ち着け。
俺たち男同士だぞ。男同士ってどうするんだ? 同性愛者がいることは知ってるけど、そこまでの知識はない。男女とは違うよな、もちろん。そもそも男女の行為も漫画とかの薄い知識しかないんだけど。しかもここは異世界だし、俺は神子という立場だし、いろいろ未知の領域すぎる。キスしただけで動揺しまくったんだぞ。その先は怖い。それに、義務でされたくない。アルバートは経験豊富なんだろうか。愛がなくても平気なのかな。チラ見しても無表情すぎて何考えてるか全然分からない。
「結婚式の夜といえば」
アルバートがテーブルにある瓶を開け、中の液体を銀色の器に注いだ。
「祝いの酒を二人で飲み、その国の伝統的なお菓子を食べるのが習わしだ」
「そ、そうなんだ」
直接的な言葉を言われなくて少し安心する。銀色の器を渡されて二人で乾杯した。初日だからお酒を飲んで話すだけでいいんじゃないかな。お互いをもっと知ったほうがいいと思うし。
お酒を飲むのは初めてだから嬉しい。ずっと飲んでみたかったんだ。アルバートがくいっと飲み干すのを見て、俺も喉に流し込む。甘くて何か果物の香りが口いっぱいに広がった。美味しい。もう一杯飲もうとしたら止められた。
「この酒は飲みやすいが強い。無理しないほうがいい」
「もう一杯だけ」
ふわふわした気分になれて気持ちいいから二杯目を飲んだら、急にくらっときた。ふらつく俺をアルバートが支える。
「だから言っただろ」
耳元で低い声で囁かれて余計にくらくらした。
「も、もう寝ようかな。アルバートは部屋に戻っていいよ。俺一人で眠れるし」
「同じ部屋に眠らないと伴侶の意味がない」
「じゃあ俺が長椅子に寝るから」
「神子を長椅子に眠らせたら神殿を追い出される」
「でも……」
その時、部屋の扉がノックされて、心臓が飛び出しそうになった。扉の向こうからエリンの声がする。
「かなめ様、もうお休みになられましたか?」
返事をしようとしたらアルバートが俺を抱え上げた。
「神子さまはもうお休みになられています」
「……そうですか。アルバート殿もお疲れでしょうから早めにお休みください。神子さま、明日もどうか私たちに光をお与えくださいますように」
祈るようなエリンの声が聞こえ、それから靴音が遠ざかって行った。
「おやすみなさい。エリン」
そんな俺の呟きを聞き流して、アルバートはそのまま俺をベッドまで運んだ。俺をベッドに座らせると、俺の着ていた上着をゆっくりと脱がす。もしかしたらそのまま襲われるのかもと覚悟した。お酒も飲んでるし力では敵わない。さっきエリンに声をかけられた時、アルバートを振り切って部屋を出ることもできたのに俺はそうしなかった。
アルバートが靴を脱がせてくれて、髪についていた飾りを一つずつ丁寧に外してくれる。指が頬や耳に触れるたびドキドキする。
でも飾りを外したあとは横になるよう促されて、上から羽みたいに軽い布団をかけられた。アルバートはベッドの横にある椅子に座る。何もしないのかな。
アルバートが何か呪文を唱えると、部屋の蝋燭の灯りの大部分が消え、明るさが半分以下になった。
「俺、今日眠ったら明日も目が覚めるのかな。もしかしたらこれは死ぬ前に見てる夢なのかも」
「余計な心配するな。朝になったら起こしてやる」
「じゃあ眠るまで手を繋いでくれる?」
安心したのと、お酒にちょっと酔っていたせいで無性に甘えたい気分になっていた。アルバートはやれやれという顔をしたけど、それでも俺の手を握ってくれた。
この人は二人っきりの時は無愛想だけど、本当は優しい。愛はないのかもしれないけど、アルバートが結婚相手で良かった。
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