転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep.1目覚め

11 無理なんだけど

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***

 トイレに行きたくなって夜中に目が覚めた。部屋はまだ暗い。電車の音が聞こえないから俺のアパートじゃなさそう。カーテンが見えるから病院かな。いつ個室に移れたんだろう。
 起きる前になんだか変な夢を見ていた。確か、すごくイケメンのお兄さんと結婚する夢。みこ様と呼ばれてチヤホヤされて、豪華な食事を食べたり、広いお風呂に入ったりする夢だった。食事とお風呂は分かるけど、俺って夢に見るくらい男が好きだったんだな。夢とはいえ、けっこうときめいたりして、キスなんかもしていたような。潜在意識に男とのキス願望があったなんて知らなかった。

 点滴も何もないから歩いてトイレに行けそうだ。いつもの病室じゃないのかな。

 起き上がってスリッパを探そうとしたけど、広すぎるベッドの下には白い靴しか見当たらなかった。カーテンを開けようとした自分の指に見慣れない指輪があることに気づいて急に頭がクリアになる。

 もしかして、夢じゃない?

 ベッドから降りて白い靴を履く。足元を照らすように低い位置に燭台の炎がたくさん輝いてる。広い部屋、豪華な調度品、天蓋付きのベッド、全て夢だと思っていた神子さまの部屋そのものだ。

 部屋には俺以外誰もいなくて、扉が三つ。一つは廊下に出る扉、反対側の扉はテラスから屋上庭園に行ける。三つ目の扉はどこに行くのか分からないけど。

「エルトリアだな、ここ」

 知らずに笑みがこぼれた。知らない国で初対面の男の人と結婚したのは夢じゃなかった。それでもあの病室で、思うように動かせない身体で一人寝ているよりずっと嬉しい。自由にトイレにも行ける。

 三つ目の扉がおそらくトイレだろうと判断して、俺はそっと扉を開けた。

 ハズレだった。灯りが少ないからはっきり見えないけど、瓶や鉢植えにたくさんの花や植物が飾られた部屋に出た。部屋の中央にはレースのカーテンが天井から垂れ下がってる。いい香りがするし水音もする。

 水音?

 おそるおそる近づくと、カーテンの内側に人影が見えた。ここはもしかして。

「どうした? 眠れないのか」
「うわ……!」

 叫び声をあげそうになった俺は伸びてきた手に口を塞がれた。暗くてあまり見えないけど、裸のアルバートがいる。

「おい、叫ぶな。叫ぶと神官が大勢部屋にやって来て俺は袋叩きにあう」

 あわててこくこくと頷いた。ここ、多分お風呂場だ。よく見れば俺が入ったのよりもっと小さいまるい浴槽がある。といっても四人くらい入れそうな広さだけど。

 叫ぶなと念押しされてようやく口が自由になった。

「二度と目覚めないとか心配していた割にすぐに起きたな」
「トイレに行きたくなって……」

 できるだけアルバートの裸を見ないように、部屋の天井のあたりに顔を向けてそう答える。夜中だし、蝋燭の灯りしかないとはいえ、至近距離なら見ようと思えば全部見えるから。

「トイレならそこだ」

 ええ、同じ室内? 無理なんだけど。

「アルバートがお風呂から上がるまで我慢するよ」
「天幕があるから気にするな」
「人がいると落ち着いてできないから」

 部屋に戻ろうとしたら背後でアルバートがお湯から上がる音がした。

「仕方ないな。俺が出ているから好きなだけ使え」
「あっ、ありがとう」

 良かった。本当は我慢の限界だったんだ。

 アルバートが身体を拭く白い布を持って部屋を出たのを確認して、トイレを探す。
 奥の方にあるこの椅子みたいなのがトイレなのかな。綺麗すぎて不安だ。のぼせた時に座るただの椅子とか、椅子みたいなオブジェかもしれないし。でも座るところに蓋があるし、あければ洋式トイレみたいな形に空洞があるし、他に部屋にそれっぽいものがないからこれのような気がする。それにしても、ちらっと見えたけどアルバートのお尻、引き締まっていて綺麗だったな。って何考えてるんだ俺は。

 本物のトイレか心配だったけど、とりあえず漏れそうだから用を足してスッキリする。もし違ってたら謝ろう。

「おい、まだか」
「うわ……!」

 叫びそうになってあわてて声を抑えた。いつのまにかアルバートが戻ってきている。一応腰に布を巻いてるけど、あとは裸。髪は濡れてるし彫像みたいにスタイルがいい。

「神子さまってそういう下着穿いてるんだな」

 薄くて透け透けの下着見られた……。俺の方が服着てるのに裸のアルバートより恥ずかしい気がするの何でなんだ。

「何で急に戻って来るんだよ!」
「叫ぶなって言ってるだろ」

 焦って下着をあげようとしたら、アルバートが柄杓ひしゃくにお湯を入れて持って来た。

「洗ってやる」
「いや、いい!」

 エルトリアではトイレの後は紙で拭かずに洗うらしい。でもみんなが洗ってもらうわけじゃないよな。神子さまだから? 偉い人ってそうなの?
 なんとかアルバートの好意を丁重にお断りして、ついでにお風呂場から追い出して自分で洗った。お風呂から出るとアルバートが俺を見て笑っていた。笑うと年相応に若く見える。

「何で笑ってるんだよ。早く服着ろよ!」
「いや、八百年寝ると、トイレの作法も忘れるんだな」
「あんまり笑うと叫ぶぞ」
「それはやめてくれ。神官には嫌われてる」
「何でだよ」
「あいつらの大事な神子さまを俺が奪ったからさ。結婚しろと強要したくせに勝手な奴らだ」
「断ればよかったのに」

 悔しくてそう言うと、アルバートは大きな手で俺の両頬をむにゅっと挟んだ。

「風呂掃除してくるから先に寝とけ」

 アルバートは優しいと思ってたけど、俺は完全におちょくられている気がする。





 

 

 
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