ポメラニアン魔王

カム

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二、人間界の暮らし

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「願い……」

タケルはそう言って少しだけ頬に熱を集めた。

「俺の願いは……誰かの一番になること、かな」

なんだそれは。

「子供の頃からずっと、誰かの特別な存在になりたかった。両親とも姉ちゃんとも仲良いし、家族は大好きだけど……やっぱり誰かを好きになって、そしてその相手からも一番好きになってもらえたらいいよな。それで幸せな家庭を築いて、子供は無理だけど、かわりに犬とか猫をたくさん飼って、植物なんかも育てたりして楽しく暮らすんだ。そんな奇跡、ないかな。ないよな。俺何言ってんだ、ポメ相手に」

人間の願いといえば、不老不死か大金持ちだと思っていたが。

「だってほら、ポメは神様の使いだから分かると思うけど、俺は男が好きだし」

知らんぞ。

「でも、相手は友達だと思ってるのに、俺は好きとか……相手に悪いし、気持ち悪いとか思われるし。かといって女の子になりたい訳じゃないし。だから両思いなんて俺には無理だよな、って」

ふむ。

「なるほど、よく分かった。地味だがその願い、叶えてや……」
「あっ、やっぱりいい!いいです」
「何?」
「いや、無理矢理叶えてもらうと、相手に悪いし……俺が欲しいのはもっとこう……」

ええい、煮え切らぬ奴め。

「もう良い。貴様の願いなど知らぬわ。さっさと食事の用意でもするがいい。肉を用意しろ。それまでコタツで眠る。邪魔するな」

「あっ、ポメ」

ごちゃごちゃ言うタケルを無視して、私はコタツに潜り込んだ。


……誰かの一番か。

魔力を持たず、相手を魅了する術も知らず、地味な願いを奇跡と呼ぶとは、哀れな生き物よ。

哀れは私も同じか。

頬を染めたタケルの表情が脳裏に焼きついて、勇者に刺された胸の傷がじくじくと痛んだ。

***

ひと眠りすると夕刻になっていた。
西日が部屋を赤く染めている。
逢魔が時、心躍る時間だ。
コタツから出て軽く身体を動かす。

隣の部屋でタケルが書物を読み、何かを書いていた。

「何をしているのだ」

近寄っていき、脚に飛び乗って書物を覗き見たが、今までに見たことのない文字で理解不能だった。
やはり翻訳するほどの魔力は戻っていないようだ。
私が書物を調査しているので、タケルは文字の記入を諦め、背を撫でてきた。

「ポメ、やっぱり喋れるんだな」
「魔族を見たことはないのか?高等な魔族なら話も出来るし姿も変えられる」
「魔族……?そんなのまでいるのか。じゃあ妖精とか妖怪とか、サンタクロースも本当に」
「呼び名は変わっても同じようなものだ」
「それは、黙っていた方がいいんだよな?ポメの事も」

タケルが神妙な顔で聞く為、私ももっともらしい顔で頷く。
この姿では到底勇者のパーティーとは戦えない。力が戻るまで潜伏していた方がいいだろう。

「私の事を話せば、お前のもとを去らねばならん。願いも叶えることは出来ぬ」

「分かったよ。できる限り誰にも言わないでいるよ。願いは期待してないけど、ポメ可愛いから」

つくづく変わった男だ、とタケルの顔を見ながら思った。
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