【本編完結、番外編更新】オークの島〜外れスキルで追放された侯爵令息と白銀の少女〜

丸井もち

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・ダンジョンへ

君のために

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「俺も行きたかったな」
 ノエルが先頭を跳ねるうさぎに愚痴をこぼした。
 なにせ、一番行きたがっていた本人が留守番なのだ。

「あんたに鍵を開ける力があるなら連れて行くわよ」
「ありません。すいません」
 鍵は雨ざらしになっており、サビがひどいという。
 ましてや、鍵もないけれど、セリムのスキル『分解』があれば壊せるのではないかというのだ。

 なので、必然的にスキルを持っているセリムと、場所を知っているうさぎの組み合わせになった。

 こんな事態でなければ、ノエルも一緒に行けるのだが、アダリヤが起きて暴走したら、うさぎの小さな眷属たちでは止められないという。

 つまり、ストッパー役である。

「俺がいるより、絶対、セリムがいたほうが喜ぶと思うけど」
「鍵を開けるスキルのない自分を恨むことね」

 ダンジョンに行く前に、アダリヤの顔がみたいというセリムに、うさぎは舌打ちしながらも、連れてきてくれた。

 今までは、『レディの家に了解もなく押し掛けるなんて野蛮』と言われ、来たことがなかったのだ。
 
「あそこよ」
 うさぎが顔を向けて、自分の洞穴を指し示した。

 そこには、子うさぎに囲まれて、くの字に丸まり眠っているアダリヤがいた。
 目の周りが赤くなっているのは、泣いていたからだろう。

 自分が、一緒に本土で父親を探そう、と即答していたら。
 自分が、何も責任のない、ただのセリムであったら。
 自分が、アダリヤの拠り所になれていたら。

 こんなふうに泣かずに済んだのだろうか。

ーー僕は、人を泣かせてばっかりだ。あの時、母も泣いていた。

 侯爵家にいる母を救うことは、追放されたセリムでは、もう、できないかもしれない。

 だが、彼女を救うことは、まだ、できるはずだ。

「うさぎ、行こうか」

「おい、セリム」
 背後にいた、うさぎの方を向いて出発しようと声をかけると、反対側から、声をかけられた。

 振り返ると、ノエルがウインクをして何かを取り出した。

「これ持っていけよ!」

 手渡されたのは、鍋だった。



 ダンジョンは島の西側に位置する。
 直線距離だと近いのだが、ほぼ獣道になるという。
 ダンジョンでは、何があるかわからない。
 何なら、剣以外にも、盾として使えるからと、鍋まで持たされているので、力は温存しておきたい。

 それは、うさぎも同じらしく、遠回りして、平坦な道を行くことになった。

 ピリピリしているうさぎとの、歩いて20分程の道のり。ふたりはお互いに黙ったまま進んでいた。

 しかし、セリムには、ダンジョンに到着するまでに、うさぎに聞いておきたいことがあった。

「なあ、アダリヤについて、うさぎの知ってることを教えてくれないか」
「なんで、あたしがあんたに教えないといけないの」
 うさぎの返答はそっけないものだった。

 それもそうだ。警戒している相手に、そうやすやすと身内のことを話せるはずもない。

「僕は、あの子を守りたいと思ってる」
「あんたに守れるとは思えないわね」
 即答だった。
 
「守れるか、守れないかは、やってみないとわからないじゃないか」
 うさぎは振り返った。赤い目がセリムをジッと見つめた。

 見定められているのだと、セリムにはわかった。
 セリムが、アダリヤを託すに値するのか、値踏みされているのだ。

「知らないと、守れない」
 実際、正体がよくわからない彼女を、どう守ればいいのか、今のセリムには、確信が持てなかった。

 そして、彼女を守るためにも、うさぎの信頼を得ておきたかった。

 どうも、初対面の時から、セリムがコルマール侯爵家の人間というだけで、うさぎからは、信頼されていないように感じているのだ。

 うさぎは、何かコルマール侯爵家に恨みでもあるのだろうか。見当がつかなかった。

「本人に聞けばいいでしょ」
 なおも、うさぎはセリムを鼻であしらった。

「あの子の学力で、全部が知れると思うか?」
 アダリヤは、いくつかわからない、見た目は10代前半だが、話していると、弟のシオンより幼い話し方をする。

 それに、セリムはアダリヤの主観の話ではなく、そばにいたうさぎの客観的な視点で話が聞きたかった。

「……仕方ないわね」
 うさぎは、これでもう何回目かわからない、ため息をついた。

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