19 / 35
19
しおりを挟む
「このように遅い時間に尋ねてきたと思ったら、随分と興奮しているようだな。息子よ」
「これが怒らずにいられると!? レイに何を言った!」
「尋ねてくるなり何を言い出すかと思えば、ただ結婚祝いを持って行っただけだが?」
レイが屋敷の何処にも見当たらないと知らせが来たのは日も暮れようと傾き出したころだった。ブルック教授の元へレイが居ないか確認を取り屋敷に戻る。
報告を聞くと、正面玄関からは誰も出た記録はないため、屋敷内の何処かに居るものと考えていたと言う。屋敷の者にはレイを一人にしないように言ってある。何故そうなったのか、それは昼間に父が尋ねてきたからだと言う。一時間程の面会だったようだが、その後レイは考え込んだ風で、一人にしてくれと言われ離れたと言う。
「そうだな。ああ、例の薬について話した。素晴らしい成果だ。まさか知らなかったのか? 本人から記憶はほぼ戻ったと聞いたのだが」
ニヤリと口の端を持ち上げる父の姿に、ギリリと拳を握りしめた。
「記憶が無いからと何も知らせていなかったのか? それはお前のミスだろう、私のせいじゃない。……まさか弟の事も黙っていたのではないだろうな?」
「っ! それはっ」
「彼女の記憶は極一部については綺麗に消えていた。お前はこれ幸いと黙っていた。違うか?」
父の問に答えることが出来ない。
レイがレニオスの事も、研究に携わっていた事も忘れていたのには気が付いていた。
黙っていたのは思い出せばアイツに傷付けられた事も思い出してしまうと思ったからだ。
「行先は知っているし、万が一に備えて部下を貼り付けている。少し話す時間はあるだろう? 」
そう言って座るように促され、渋々ソファに腰掛けた。
「レイニー・ブラウン。アリハラで農業を営む夫婦の間に生まれた今年二十六歳。十四の頃ビズマー病で両親を亡くしその後奨学金制度を使い大学まで出ている。生活は苦しかったろう。入学してからも複数の場所で深夜まで働いていた。そしてビズマーの研究を始め、ヨハン・ブルック氏とも知り合っている。大学で随分と世話になったようだ。交友関係は、控えよう。特に後暗いことは無さそうだ。……私は医者ではないが彼女は精神的にも一杯だったのでは無いか? その原因の一旦は、申し訳なくも私のもう1人の息子にもあるようだが」
「……どこまで知っているのです」
「あの馬鹿が彼女の研究データを盗んだのではと気付いてすぐだ。レニオスと彼女は同じ時期に入学している。最初にアレがやらかした時は学校から報告を貰っていた。まあ、彼女を悪く言うものだったがな。これでも年間かなりの額、寄付しているからね」
勿論独自に調べ直したが、と言葉を続けた。
「アレは昔から小狡い所があったがそれはお前が相手だからだと思っていた」
「レニアスは、私に対して劣等感を持っているようでした」
「妾腹だとしても変わらずに接したつもりだったが」
「……私よりも上位に立ちたい。勉強も仕事も。データを盗んだのは、それが自分の功績になると思ったのでしょう」
「……アレの処分は決めてある。アレの母親とも別れた」
父の言葉に少なからず驚いた。
私の母が亡くなり三年、そろそろ後妻に迎える頃かと思っていたから。
「いいのですか」
「お前の母ラティーシャは何も言わずに外の女を認めてくれた。たが、その場所はラティーシャのものだ。外に女を囲った私が言うことでは無いかもしれないが、それとこれとは別と考えていた。勿論、お互い理解した上での割り切った関係だ。それでもレニアレが息子であることには変わりない」
「……」
「五年、それまでに事業をお前に引き継ぐ。遺産の配分も決めた。遺言書も書き換え顧問弁護士に預けている。」
アンダーソンの名を名乗る事は絶対にない。そう言ってどこか遠い目をした。
「ラニアス、言葉は大事だ。伝えることも伝えられることも。小さなすれ違いは大きくなりやがて溝になる。私とラティーシャの様に。迎えに行った時、あの生真面目な義娘に恋人などできていないといいねぇ」
「 レイに限ってありえないっ! 」
レイと話した父は、その時の様子からもしかしたら突発的に飛び出す可能性もあると、屋敷から街へ降りる道に人を張り付かせていた。
予想通りレイは着の身着のまま、小さなバッグひとつ持って走って行ったという。その後鉄道に乗りこんだと。
「……鉄道? 一体何処へ」
「部下の報告ではティンバーまで買っている。念の為に後を追わせてはいるが」
「……ティンバー」
「汽車へ乗った時間、乗り継ぎを考えると到着は明日の夕刻頃だろう」
父にレイの行き先を聞き、直ぐにブルック氏の元へ向かった。遅い時間のためか既に研究室の明かりは落ちていた。
ブルック氏に会うことを諦めきれず、警備室へ回り彼がまだ校内にいるかどうかを確認した、幸いにもまだ彼は帰宅しておらず、その場で彼を待つことにした。
「これが怒らずにいられると!? レイに何を言った!」
「尋ねてくるなり何を言い出すかと思えば、ただ結婚祝いを持って行っただけだが?」
レイが屋敷の何処にも見当たらないと知らせが来たのは日も暮れようと傾き出したころだった。ブルック教授の元へレイが居ないか確認を取り屋敷に戻る。
報告を聞くと、正面玄関からは誰も出た記録はないため、屋敷内の何処かに居るものと考えていたと言う。屋敷の者にはレイを一人にしないように言ってある。何故そうなったのか、それは昼間に父が尋ねてきたからだと言う。一時間程の面会だったようだが、その後レイは考え込んだ風で、一人にしてくれと言われ離れたと言う。
「そうだな。ああ、例の薬について話した。素晴らしい成果だ。まさか知らなかったのか? 本人から記憶はほぼ戻ったと聞いたのだが」
ニヤリと口の端を持ち上げる父の姿に、ギリリと拳を握りしめた。
「記憶が無いからと何も知らせていなかったのか? それはお前のミスだろう、私のせいじゃない。……まさか弟の事も黙っていたのではないだろうな?」
「っ! それはっ」
「彼女の記憶は極一部については綺麗に消えていた。お前はこれ幸いと黙っていた。違うか?」
父の問に答えることが出来ない。
レイがレニオスの事も、研究に携わっていた事も忘れていたのには気が付いていた。
黙っていたのは思い出せばアイツに傷付けられた事も思い出してしまうと思ったからだ。
「行先は知っているし、万が一に備えて部下を貼り付けている。少し話す時間はあるだろう? 」
そう言って座るように促され、渋々ソファに腰掛けた。
「レイニー・ブラウン。アリハラで農業を営む夫婦の間に生まれた今年二十六歳。十四の頃ビズマー病で両親を亡くしその後奨学金制度を使い大学まで出ている。生活は苦しかったろう。入学してからも複数の場所で深夜まで働いていた。そしてビズマーの研究を始め、ヨハン・ブルック氏とも知り合っている。大学で随分と世話になったようだ。交友関係は、控えよう。特に後暗いことは無さそうだ。……私は医者ではないが彼女は精神的にも一杯だったのでは無いか? その原因の一旦は、申し訳なくも私のもう1人の息子にもあるようだが」
「……どこまで知っているのです」
「あの馬鹿が彼女の研究データを盗んだのではと気付いてすぐだ。レニオスと彼女は同じ時期に入学している。最初にアレがやらかした時は学校から報告を貰っていた。まあ、彼女を悪く言うものだったがな。これでも年間かなりの額、寄付しているからね」
勿論独自に調べ直したが、と言葉を続けた。
「アレは昔から小狡い所があったがそれはお前が相手だからだと思っていた」
「レニアスは、私に対して劣等感を持っているようでした」
「妾腹だとしても変わらずに接したつもりだったが」
「……私よりも上位に立ちたい。勉強も仕事も。データを盗んだのは、それが自分の功績になると思ったのでしょう」
「……アレの処分は決めてある。アレの母親とも別れた」
父の言葉に少なからず驚いた。
私の母が亡くなり三年、そろそろ後妻に迎える頃かと思っていたから。
「いいのですか」
「お前の母ラティーシャは何も言わずに外の女を認めてくれた。たが、その場所はラティーシャのものだ。外に女を囲った私が言うことでは無いかもしれないが、それとこれとは別と考えていた。勿論、お互い理解した上での割り切った関係だ。それでもレニアレが息子であることには変わりない」
「……」
「五年、それまでに事業をお前に引き継ぐ。遺産の配分も決めた。遺言書も書き換え顧問弁護士に預けている。」
アンダーソンの名を名乗る事は絶対にない。そう言ってどこか遠い目をした。
「ラニアス、言葉は大事だ。伝えることも伝えられることも。小さなすれ違いは大きくなりやがて溝になる。私とラティーシャの様に。迎えに行った時、あの生真面目な義娘に恋人などできていないといいねぇ」
「 レイに限ってありえないっ! 」
レイと話した父は、その時の様子からもしかしたら突発的に飛び出す可能性もあると、屋敷から街へ降りる道に人を張り付かせていた。
予想通りレイは着の身着のまま、小さなバッグひとつ持って走って行ったという。その後鉄道に乗りこんだと。
「……鉄道? 一体何処へ」
「部下の報告ではティンバーまで買っている。念の為に後を追わせてはいるが」
「……ティンバー」
「汽車へ乗った時間、乗り継ぎを考えると到着は明日の夕刻頃だろう」
父にレイの行き先を聞き、直ぐにブルック氏の元へ向かった。遅い時間のためか既に研究室の明かりは落ちていた。
ブルック氏に会うことを諦めきれず、警備室へ回り彼がまだ校内にいるかどうかを確認した、幸いにもまだ彼は帰宅しておらず、その場で彼を待つことにした。
0
あなたにおすすめの小説
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。
禁断の関係かもしれないが、それが?
しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。
公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。
そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。
カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。
しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。
兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる