私の可愛い妖精

ゆか

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14(フランツ)

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幸せな日々は瞬く間に過ぎていった。


愛するアルレイシアと婚姻を結び、子まで生まれた。


将来この子はラットンを継ぐ。アルレイシアとの婚姻の唯一の条件だ。

アルレイシアもほっとしたのかジェミニを産んでからはより穏やかに、柔らかく笑う様になった。

毎日抱きしめて眠り、愛する妻の隣で目覚める。

この上なく幸せな日々だ。


「フランツ様、お帰りをお待ちしています」


「ああ、なるべく早く戻るよ」


少し寂しそうなアルレイシアと息子に別れを告げて私は取引のため隣国へ立った。


旅は順調にに工程を終え帰路についた。


自領まで残り二日ほどだった。

前日の雨でぬかるんでいた為慎重に進んだ。

何かが聞こえた気がし、窓を開け放ち耳を澄ませた。

私だけではなく護衛の騎士達も警戒していた。


周囲は雨に濡れている筈なのにどこからか何かが転がるような乾いた音が聞こえたのだ。


「・・・・・!崩れるぞ!急いでここを抜けるんだ!」


馭者が慌ててムチを振るい走らせる。先に行けるものは先に急がせたが、それは突然起こった。


全身を激しく打ち付けられ、気がつけばどこかに倒れていた。

すぐ側には土砂の山、間に合わなかったのだと気が付く。

酷い耳鳴りがする中、まだどこかであの音が聞こえる気がし、激しく痛む体で這うように大きな木の側へと身を寄せる。すぐ脇を第二波の土砂が滑って行き、私の意識はそこで途切れた。



幾度か意識が浮き上がり、見知らぬ天井を見た。

その度に愛しい妻の顔が浮かび、帰らなければと思った。私がしっかりと目を覚ましたのは事故から十日もたった頃だった。




身体中ギシギシと軋み、頭はまるで岩でも乗せているように重かった。

事故の後なかなか発見されず、私は随分離れた場所で地元住民に発見された。

全身を強く打ち、生死の境をさ迷っていたらしい。

兄が派遣してくれた医師の治療を受けながら、私は妻の事を考えていた。



私がこんな事になりどれだけ心配しただろう。泣いているだろうか。腹の子は無事だろうかと。


兄の使いにアルレイシアがどうしているかを聞いた。

兄や義姉はアルレイシアに私の生存を伝えていなかった。

万が一私が死んでしまったらアルレイシアも腹の子も参ってしまうと、伝えていなかった。


いてもたってもいられず、ベッドから体を起こした。


早く帰ってあげないと。

帰って、無事な姿を見せて安心させてあげないと。


アルレイシアにはすぐに無事を伝えると言っていたが、私は無理を言い馬車の手配を頼んだ。

アルレイシアは兄の屋敷で療養していると言う。早くて二日、怪我のことを考えれば倍以上の時間を掛けたいと言われたが可能な限り急がせた。



早く、早く。

私がいない間に付け入られてしまうかもしれない。






婚姻後、私はクラウム伯爵に尋ねた。


アルレイシアを誰と結ばせるつもりだったのかと。

少し考え伯爵は言った。

「アルレイシアの子は貴族との間にもうけなければならない。そのあ後は、好きな男と会おうと、相手が平民だろうと私も侯爵も許すつもりだった」と。


アルレイシアには元々気を寄せていた相手がいた。それも平民のだ。

それが誰だかはすぐに分かった。

アルレイシアが会う中にいる平民の男は一人しかいない。


グラブス商会の会頭、ヤン・グラブスだ。


アルレイシアは彼を『おじ様』と呼び年に三度は会っている。会えばヤンは必ず瓶に詰めた『キャンディー』を持参した。


そう、彼が頻繁にクラウム邸に足を運んでいたのは、伯爵に会っていたわけでも商談でもない。アルレイシアに会いに来ていたのだ。


あの日ヤンが私に見返りとして要求したのはエリストロ家が独占していた東国の商材のひとつ、砂糖だった。


東国の砂糖は料理や菓子に使うには高価すぎる。何故使い勝手の悪い砂糖なのか。あの時はわからなかったが、今ならわかる。

アルレイシアはあの東国の砂糖菓子をとても気に入っている。あれはヤンがアルレイシアのために作ったのだ。


アルレイシアの私への気持ちに嘘はない。共に居てそれは分かるが、心配で堪らない。



─── 一度手放せば二度と手には入らないぞ



伯爵は彼の執着を知っている。あれは伯爵なりの警告だった。







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