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16(フランツ)
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数日を兄の元ですごし、その後は自分の屋敷へアルレイシアとジェミニを連れ戻った。
アルレイシアはヤンに会えなかったことを言っていたが、私が帰ってきたことを知り、邪魔をしないように帰ったと伝えれば、納得してくれた。
ヤンが渡したアルレイシアの菓子は中身を入れ替えそっとアルレイシアの元に戻した。
彼のしたことは許せないが、二人の間には私の知らない時間がありアルレイシアはヤンを慕っている。それがどのような気持ちであれ、壊す事は出来なかった。
そして半年が経ち、アルレイシアは男児を出産した。
アルレイシアによく似た愛らしい赤子だ。
半年ほどゆっくりと療養したアルレイシアは幸せそうに微笑むが、時折ふと寂しそうな表情を浮かべる。
声をかければ消えてしまうその表情の理由を、私はわかっている。
「アルレイシア、手紙が届いているよ」
「・・・おじ様からだわ!」
途端に輝く様な笑顔を見せ、アルレイシアはそっと封を切る。
アルレイシアが手紙を読む姿を見つめながら思う。
何を思い、感じているのか。
「・・・・・・・とてもお忙しいのね」
「どうしたんだい?」
「東国との取引で暫くあちらへ行かれるのですって。来週には立つと」
あの日の事でヤンに与えた罰、それはアルレイシアから離れること。
正規の手続きを取り処罰しても良かったが、それはしなかった。グラブス商会はエリストロ家だけではなくアルレイシアの生家であるクラウム伯爵家とも繋がりがある。その商会の会頭が取引のある貴族家の妻に懸想し害そうとしたなど、揉み消そうとしても揉み消しきれるものでは無い。
何よりアルレイシアの気持ちを考えればそれは出来なかった。
だから、私は兄に頼み伝を借りた。エリストロ家と取引のある東国の商会へヤンを送る為に。
「東国はとても遠い所ですわ」
東国へは船で二ヶ月はかかる。ヤンの東国行きがここまで時間がかかったのは向こうとの根回しに時間がかかったからだ。
「・・・・・アルレイシアは、ヤンととても仲がいいんだね。妬けてしまうよ」
アルレイシアは顔を上げるとふふっと笑った。
「妬くだなんて、嬉しいですわ」
「君も妬いてくれる事があると嬉しいんだけど」
「あら、わたくしだって妬きます。妬くどころか通り越して腹が立つ事も」
「それは、何かしてしまっただろうか?」
「フランツ様は変わらずわたくしを気遣ってくださいます」
私は共に参加する社交の場ではアルレイシアから目を離さない。アルレイシアが一人で何も出来ない訳では無く、私が心配だ堪らないのだ。私が離れる時は必ず信頼出来る誰かに預けなくては安心出来なかった。
「フランツ様はわたくしとヘンリク様が会わないように気わわ回してしてくださっているのでしょうけれど、わたくしにだって不満はあります」
「アルレイシア、どんな不満か教えてくれないか」
私はアルレイシアの座る足元に膝をつき手を取りキスをする。
怒った顔でも困った顔でもない。相変わらずニッコリと優しい笑顔を浮かべている。
「カーリンズ子爵令嬢に、ディヒス伯爵令嬢」
アルレイシアのの口から出た名に首を傾げるしかない。二人の家とは確かに取引があり、夜会でもそれぞれの当主と話すことがあるが令嬢達とは頼まれ一、二度踊った事がある程度でそれ以外の交流はない。
「フランツ様の第二夫人として伯爵家に入るかもしれないからよろしくお願いいたしますと、ご本人からご挨拶がありましたの」
「──はっ!?何だそれは!私はそんなことはしない!アルレイシアだけだ!!」
アルレイシアの口から出た言葉に只只驚いた。
出会ってからこれまで、これからだって私にはアルレイシアだけだ。
それなのに何故そんな話になる。
「直ぐに両家に厳重に抗議して」
「フランツ様」
「アルレイシア、本当に違う。私が愛しているのは君だけだ」
「フランツ様」
「君以外に触れていないし誘ってもいない」
「ええ、分かっております」
「アルレイシア、本当に」
「おじ様が教えて下さいましたから」
「な、に、、、?」
「フランツ様がわたくしを好き過ぎて、サンドラ様にお願いしてヘンリク様と引き離していた事です」
「──・・・・は」
「わたくしに不利な噂が広がらないように助けた下さいました」
「アル、、、」
「第一子をラットンの後継と認めて下さり、その後子が生まれなくとも第二夫人や愛人を持たないと父と約束して下さいました」
「・・・知って」
「フランツ様が戻らず憔悴するわたくしにおじ様が教えて下さいました。そんなに愛した人を一人にする事は無い、だから、大丈夫ですよと」
知っていたのか。
あの男と別れさせるためにサンドラに金を渡していたことを。
「・・・・すまない」
「何故謝るのですか?」
「あの男が君に酷く接する原因のひとつになった。君が苦しんでいると知っていても、別れさせたかった」
「でも、今はとても幸せなんです。だから謝って欲しくはありません」
「アルレイシア」
「だから言ってやりましたの。もしそうなるのならフランツ様と御一緒にいらして?って。そうしたらあなたが正妻ですって」
「・・・・・っ!アルレイシア!」
それはつまり、愛人や第二夫人を作ればアルレイシアは私の元を去ると言っているのだ。
「フランツ様との婚約が決まった日、お父様から言われたのです。もしまた辛い夫婦生活を送るような事になったら、次は懐も広く、絶対に裏切らない男を世話してやると」
まさかクラウム伯爵がアルレイシアにそんな事を言っていたとは知らなかった。
絶対に裏切らない男とは、恐らくヤンだ。
全身から血が抜けていくような思いだった。そんな私を見てアルレイシアは心配そうな顔をする。
「でも、そんな事にはならないと信じておりますのよ?」
アルレイシアは私の手を握り隣に座るように促す。
そっと肩を抱くとアルレイシアはスルリと私の胸に入り込んだ。
「だってわたくしはもうフランツ様無しでは生きていけませんもの。誰よりもお慕いしています」
「アルレイシア、私もだよ。誰よりも愛している。君を一生をかけて幸せに、笑顔でいられる様に、その心まで守ってみせる」
二度とあんな悲しい涙は流させたりはしたくない。
私は今一度この胸に誓った。
アルレイシアはヤンに会えなかったことを言っていたが、私が帰ってきたことを知り、邪魔をしないように帰ったと伝えれば、納得してくれた。
ヤンが渡したアルレイシアの菓子は中身を入れ替えそっとアルレイシアの元に戻した。
彼のしたことは許せないが、二人の間には私の知らない時間がありアルレイシアはヤンを慕っている。それがどのような気持ちであれ、壊す事は出来なかった。
そして半年が経ち、アルレイシアは男児を出産した。
アルレイシアによく似た愛らしい赤子だ。
半年ほどゆっくりと療養したアルレイシアは幸せそうに微笑むが、時折ふと寂しそうな表情を浮かべる。
声をかければ消えてしまうその表情の理由を、私はわかっている。
「アルレイシア、手紙が届いているよ」
「・・・おじ様からだわ!」
途端に輝く様な笑顔を見せ、アルレイシアはそっと封を切る。
アルレイシアが手紙を読む姿を見つめながら思う。
何を思い、感じているのか。
「・・・・・・・とてもお忙しいのね」
「どうしたんだい?」
「東国との取引で暫くあちらへ行かれるのですって。来週には立つと」
あの日の事でヤンに与えた罰、それはアルレイシアから離れること。
正規の手続きを取り処罰しても良かったが、それはしなかった。グラブス商会はエリストロ家だけではなくアルレイシアの生家であるクラウム伯爵家とも繋がりがある。その商会の会頭が取引のある貴族家の妻に懸想し害そうとしたなど、揉み消そうとしても揉み消しきれるものでは無い。
何よりアルレイシアの気持ちを考えればそれは出来なかった。
だから、私は兄に頼み伝を借りた。エリストロ家と取引のある東国の商会へヤンを送る為に。
「東国はとても遠い所ですわ」
東国へは船で二ヶ月はかかる。ヤンの東国行きがここまで時間がかかったのは向こうとの根回しに時間がかかったからだ。
「・・・・・アルレイシアは、ヤンととても仲がいいんだね。妬けてしまうよ」
アルレイシアは顔を上げるとふふっと笑った。
「妬くだなんて、嬉しいですわ」
「君も妬いてくれる事があると嬉しいんだけど」
「あら、わたくしだって妬きます。妬くどころか通り越して腹が立つ事も」
「それは、何かしてしまっただろうか?」
「フランツ様は変わらずわたくしを気遣ってくださいます」
私は共に参加する社交の場ではアルレイシアから目を離さない。アルレイシアが一人で何も出来ない訳では無く、私が心配だ堪らないのだ。私が離れる時は必ず信頼出来る誰かに預けなくては安心出来なかった。
「フランツ様はわたくしとヘンリク様が会わないように気わわ回してしてくださっているのでしょうけれど、わたくしにだって不満はあります」
「アルレイシア、どんな不満か教えてくれないか」
私はアルレイシアの座る足元に膝をつき手を取りキスをする。
怒った顔でも困った顔でもない。相変わらずニッコリと優しい笑顔を浮かべている。
「カーリンズ子爵令嬢に、ディヒス伯爵令嬢」
アルレイシアのの口から出た名に首を傾げるしかない。二人の家とは確かに取引があり、夜会でもそれぞれの当主と話すことがあるが令嬢達とは頼まれ一、二度踊った事がある程度でそれ以外の交流はない。
「フランツ様の第二夫人として伯爵家に入るかもしれないからよろしくお願いいたしますと、ご本人からご挨拶がありましたの」
「──はっ!?何だそれは!私はそんなことはしない!アルレイシアだけだ!!」
アルレイシアの口から出た言葉に只只驚いた。
出会ってからこれまで、これからだって私にはアルレイシアだけだ。
それなのに何故そんな話になる。
「直ぐに両家に厳重に抗議して」
「フランツ様」
「アルレイシア、本当に違う。私が愛しているのは君だけだ」
「フランツ様」
「君以外に触れていないし誘ってもいない」
「ええ、分かっております」
「アルレイシア、本当に」
「おじ様が教えて下さいましたから」
「な、に、、、?」
「フランツ様がわたくしを好き過ぎて、サンドラ様にお願いしてヘンリク様と引き離していた事です」
「──・・・・は」
「わたくしに不利な噂が広がらないように助けた下さいました」
「アル、、、」
「第一子をラットンの後継と認めて下さり、その後子が生まれなくとも第二夫人や愛人を持たないと父と約束して下さいました」
「・・・知って」
「フランツ様が戻らず憔悴するわたくしにおじ様が教えて下さいました。そんなに愛した人を一人にする事は無い、だから、大丈夫ですよと」
知っていたのか。
あの男と別れさせるためにサンドラに金を渡していたことを。
「・・・・すまない」
「何故謝るのですか?」
「あの男が君に酷く接する原因のひとつになった。君が苦しんでいると知っていても、別れさせたかった」
「でも、今はとても幸せなんです。だから謝って欲しくはありません」
「アルレイシア」
「だから言ってやりましたの。もしそうなるのならフランツ様と御一緒にいらして?って。そうしたらあなたが正妻ですって」
「・・・・・っ!アルレイシア!」
それはつまり、愛人や第二夫人を作ればアルレイシアは私の元を去ると言っているのだ。
「フランツ様との婚約が決まった日、お父様から言われたのです。もしまた辛い夫婦生活を送るような事になったら、次は懐も広く、絶対に裏切らない男を世話してやると」
まさかクラウム伯爵がアルレイシアにそんな事を言っていたとは知らなかった。
絶対に裏切らない男とは、恐らくヤンだ。
全身から血が抜けていくような思いだった。そんな私を見てアルレイシアは心配そうな顔をする。
「でも、そんな事にはならないと信じておりますのよ?」
アルレイシアは私の手を握り隣に座るように促す。
そっと肩を抱くとアルレイシアはスルリと私の胸に入り込んだ。
「だってわたくしはもうフランツ様無しでは生きていけませんもの。誰よりもお慕いしています」
「アルレイシア、私もだよ。誰よりも愛している。君を一生をかけて幸せに、笑顔でいられる様に、その心まで守ってみせる」
二度とあんな悲しい涙は流させたりはしたくない。
私は今一度この胸に誓った。
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