恋愛なんて全く興味ない俺と幼馴染が同じ家で暮らしたら 〜お互いを知り尽くした幼馴染との快適生活〜

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第4話 今日……優志の部屋で

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「私これも食べたいなぁ!」

 優志の高校からの帰り道には、ちょうど大きめのスーパーがある。
 家にも徒歩五分ほどで帰れるため、買い物が必要になったら、平日の夕方にそのスーパーに寄るのが優志の日常になっていた。

「これも食べたいなぁ!」
「それ払うの俺だなぁ」
「よろしくー」

 優志のカゴに『簡単! 美味しい中華丼ができる!』と書かれた商品を突っ込んだ結衣は、再びどこかへ走り出していく。

 部活終了後。
 結衣のせいで食事の量が二倍になることを思い出した優志は帰りにスーパーに寄っていた。当然結衣もだ。

「……何も言わずに帰ってやろうか」

 今更ながら、これから結衣に無償で飯を食わせてやらないといけないことに少しだけ腹が立ってくる。

「……まあ、いいけどな」

 家がないのに、食費だけは充分にあったとは思えない。
 結衣は何も言わないし、優志も詮索はしないが。

 何回も来てるスーパーで子供のようにはしゃぐ結衣を見ていたら、とても怒る気にはならなかった。

 このお金も、別に自分で稼いだものではないし。

「ねぇねぇ」
「ん?」
「これも買ってー」

 振り返ると、優志のカゴにはダバーっと大量のお菓子が追加された。
 一気に腕に重量が伝わってくる。

「カゴもう一つ持ってきていい?」
「その代わりお前を置いてく」
「大丈夫大丈夫私が持つから」
「お前に持たせたらダメだろうが」
「持ってくるね~」

 人の話を聞かない結衣は再び旅立っていく。

「……家で働かせないとダメだな」

 ほぼ結衣の買い物で埋まったカゴを眺めながら、何とかして居候代を回収する方向で考える優志だった。


 ◇◆◇◆◇


「ふー、ごちそうさまー」
「……ごちそうさま」

 午後七時頃。
 その日買ってきた食材で作った夕飯を食べ終え、二人は両手を合わせた。

 帰ってきた時、優志はいつもより金額の多いレシートを見て、結衣をどうにかして働かせてやろうと考えていた。
 が、結果的にはその企みは必要なかった。

 優志が何も言わずとも、結衣がせっせと働き、いつの間にか夕飯ができていたからだ。
 優志が着替えや明日の準備をしている間の出来事だった。

 中身が変わったのか疑ったが、同じく一人暮らしをしていた結衣が自分で家事をするのは、別に不思議なことでもなかった。

「美味しかったって言ってみて」
「せめて質問にしろよ」
「酷評されたらやる気なくすもん」
「美味かったよ」

 優志が素直に答えると、結衣は意外そうに驚いた後、照れ笑いした。

「え、えぇ~? 人のこと褒めれるんだゆーしって」
「お前が言えって言ったくせに」

 なんだこいつ、と幼馴染の珍しい姿を眺めていると、その幼馴染は笑いながら食器を片付け始める。

「ふふん、料理が楽しみになっちゃうなぁ」
「いつもあんな自由に買い物できると思うなよ」
「食材は必要なものだから」

 運んだ先でもすぐに食器を洗い始める結衣。
 不自然なほどにテキパキ働く結衣を見ていると、ありがたいと思うとともに、家政婦でも雇った気分になってくる。

 自分の食器を片付けながら、結衣の隣に立つ。

「結衣」
「うぇ?」
「着替えてこい」

 制服姿の結衣にそう言うと、結衣は不思議そうな顔で優志の方を見る。

「…………メイド服に?」
「アホか。いつまで制服着てんだって話ししてんだよ」
「あ……そっか」

 部屋着姿の優志と自分を見比べて、結衣は今気づいたように言う。

「でもいいよ。洗ってからで」
「食器くらい俺が洗えばいいだろ」
「……ゆーしって食器洗いフェチだったっけ?」
「お前を食器洗い係にしてやろうか?」

 結衣がふざけたことを言っている間に、スポンジを奪い取り、手に持っていた食器も奪う。
 結衣はぽかーんとした顔で立っている。

「……え、なんか、悪巧みしてる?」
「もうそろそろ追い出す時期か」
「いや冗談冗談……でも、なんか優しいから」

 まだスポンジと食器を奪われた体勢のまま優志の隣に立っている結衣は、淡々と食器を洗う優志を見てそう言う。

「お前、今日買い物のあと罪悪感あったろ」
「へ?」
「具体的にはレジで俺が金払ってる時さすがにやりすぎたと思ったろ」
「……え、えぇ? 別に……」
「だからその分今日から働きまくってチャラにしようとしてたんだろ」

 結衣は中途半端に否定しようとしていたが、それが図星だった時の反応だということくらい優志は知っていた。

「これがメンタリズムだ」
「メンタリズムかぁ……」
「合ってただろ」
「……いや、え~」

 肯定したくないのか、拗ねたような顔で結衣は体を揺らす。

「別に働くなら働くでいいけど」
「え、うん……」
「この家で働いても金出ないし。ただ居候しに来ただけなら、どっちの仕事とか決めずに過ごしといた方が、気楽じゃねーの」

 帰るまで優志は、家での立場を平等にするためにも、結衣のことを働きアリにするつもりだった。

 ただ、実際に自分の休みも忘れてテキパキ働く結衣を見ていると、違和感の方が勝った。

「でも、ほら、さすがに居候だし、私にも、迷惑掛けてるかもっていう、罪悪感みたいな感情がさ……」
「親戚でもないのに家に転がり込まれた時点で何しても取り返せないくらい迷惑だから気にすんな」
「そっかー、取り返せないかぁ……」
「取り返したいならここから出てく方法考えろ」

 元々家事全般なんて、長年の一人暮らしで既に習慣になって面倒くささも抜けきっている。
 優志にとっては、別に働いても働かなくても変わらないというのが嘘偽りない本音だった。

「ってか、迷惑なんて気にすんなよ。……お前のせいじゃないんだから」

 そんなことを気にされるくらいなら、何も気にしないいつも通りの結衣が家にいた方が気楽でいい。

「……そ、そっか」
「わかったら着替えてこい馬鹿」
「……ゆーし優しく――」
「わかったら着替えてこい馬鹿」
「馬鹿は風邪ひかないからいいもん」

 そうして照れ隠しで言葉を繰り替えす優志を、結衣は嬉しそうに見ていた。


 優志が食器を洗い終えた後。

 リビングに戻ると、部屋着に着替えた結衣はソファの上で猫のように丸くなっていた。
 テレビを見る目はウトウトしている。

「おやすみ」
「ちょっ、さすがにまだ寝ないって! 電気消さないで電気! 寝ちゃうから!」

 寝ればいいだろ、と思いながら一度消した照明を点けると、結衣は物申したそうな顔でずんずん近づいてくる。

「というか……私このままだと今日もソファなんだけど~?」
「今寝そうだったし相性いいんだろ」
「相性はいいけど、ゆーしの家なら布団あるじゃん」
「出すのがめんどいから実質ない」
「私用の布団買いに行こうよ」
「その分働かせるぞ」
「あれ……? さっき言ってたのは……?」

 「優しいゆーしは幻……?」と呟く結衣。

 布団に関しては、暇な時に出してやろうとは思っていたけど。
 結衣が文句を言うということは、あのソファで毎日はキツいということなんだろう。

「……寝にくいしなあのソファ」
「わかってるじゃーん」
「……まあ、探せばどっかにはあるだろうから……出してやるよ」
「やったー」

 「寝る時にな」と言って優志は一旦自分の部屋に戻ろうとする。

 しかし、後ろを見ると、無言で結衣がついてきていた。
 まだ何か言いたいらしい。

「どした」
「あー……」
「どした」
「……ちょっと待って、言うか迷うから」
「結論出たら言ってくれ」
「あ、言う言う! 待って待って!」

 階段を上ろうとする足を止めて振り返る。
 すると結衣は普段見せないような、照れを誤魔化せないという様子の顔で。

「今日……優志の部屋で、寝てもいいかな」
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