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それはまさに青天の霹靂だった 4
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それからアンディは、エンブレスト伯爵邸を侍女達と共に綺麗にしたり、料理長と共に豪華なフルコースのメニューを考えたり、いつも通りロザリアの話し相手になったりと、忙しい日々を過ごしていた。
そして、ついに迎えた約束の日の朝。
伯爵邸にやって来たのは、綺麗な茶色の長い髪を紺色のリボンで後ろに束ねた、絵画のようにとても美しい青年。
彼こそが、女好きで有名なリュドウィック第一王子であった。
その側には、何故か女嫌いとして有名な赤髪短髪のオズワルド•ウェリントン騎士団長も、不機嫌な顔を滲ませて立っており、先に出迎えたアンディを睨んでいた。
「…お待ちしておりました、リュドウィック殿下。そしてウェリントン騎士団長様」
「ああ。確か、君がこのエンブレスト伯爵家の執事かな?…ふむ。不躾な事を言うけれど、君、女性に間違われる事ってないかい?」
「あ、あはは…。ないですね、殿下…。はは…」
リュドウィックに男装執事だという事を見抜かれそうになって、アンディは咄嗟に苦笑いを浮かべた。
女だと気付かれてしまったら、リュドウィックに口説かれてしまう上に、オズワルドがさらに怪訝な顔を向けられてしまうだろう。
あくまで今回の目的は、リュドウィックを警戒しつつ、少しでもいいからロザリアの男嫌いを克服する事だ。
リュドウィックがすぐに手を出す可能性はあれど、今までやってきた婚約者候補とは女性の扱い方が違うかもしれないと、アンディは踏んでいるのだ。
そしてゆくゆくは、ロザリアが男性嫌いを克服したのちに、本気で好きになった男性と結婚し、彼女が幸せになってくれればいいと思っている。
とりあえず、アンディは早速、リュドウィックとオズワルドを伯爵邸の応接間へと誘導する事にした。
「では、ただいまから応接間へとご案内いたします。そちらで、エンブレスト伯爵とロザリア様が、ソファに座ってお待ちしておりますので」
「そうか。ありがとう、執事くん。それで、お名前を聞いても?これから仲良くするんだし、俺は男を口説く趣味はないからね」
「はぁ…。では、アンディとお呼び下さい、殿下。姓は一応ありますが、僕の実家は少し複雑であるが故、詮索はあまりされたくないので」
「ふはっ!分かったよ、アンディくん。これ以上は聞かないでおくよ。でも、もし何かあった場合には、君の事を王族権限で調べられるって事は承知しておいて。この名前だけでもどこの家出身なのかはいくつか推測出来るからね」
「!?…はぁ、そうですか…」
リュドウィックの発言に思わず動揺してしまい、アンディは一瞬身体を硬直させたが、すぐに元に戻って応接間の扉を開いた。
不自然だったかもしれないと心配になったが、どうやらリュドウィックは気にしていない様子。
なんとか案内出来たと思ってアンディが安堵の息を軽く漏らすと、さっきまで黙っていたオズワルドがふいに、アンディにこう声をかけてきた。
「…アンディ、と言ったか?殿下が申し訳ない事をした。あと、ここまで誘導してくれて助かった」
「あ。はい、とんでもございません。騎士団長様もお忙しい中、こちらにお越し下さり頂きありがとうございます。…しかし、まさか貴方様が殿下と共に来て下さるとは、思ってもおらず…」
「いや、それは別に構わない。ただ単に、護衛がてら勝手に付いてきたってだけだ。…そして、最初に君を睨んでしまったのも、『殿下の気になるご令嬢』が玄関で待ち構えてるんじゃないかと警戒しての事だ。まぁ、そういうのは無かった様だがな…」
「はぁ…」
オズワルドのどこか意味深な発言に、アンディは眉根を寄せて考える。
そして、とある答えに辿り着いたのか、アンディは咄嗟にこう尋ねてみた。
「あ、あの!騎士団長様。も、もしや『ロザリア様が殿下の容姿や地位目当てかどうか』を確かめるために、殿下に同行したのでしょうか?」
「おっ!さすが執事ってだけあって、聡いな、アンディ殿は。まぁ、少なくとも俺は殿下の護衛でもあるんだ。だから、なるべく苦手意識の少ない、なおかつ護ってもいいと思える令嬢かどうかを見極めたくてな」
「はぁ…。だから、その条件でロザリア様を見極めようという事ですか。…でも、きっとロザリア様も貴方と同じ考えで、殿下を見ていると思いますよ。…なにせ貴方と同じように、彼女も男嫌いですから」
「えっ!?…まぁ、そう言われれば確かに…」
ロザリアが男嫌いである事に驚いたオズワルドは、目の前でリュドウィックと話しているロザリアを見て、納得の声をあげた。
笑顔でリュドウィックが話しかけているのに、どこかぎこちない笑みを浮かべて小さく頷くロザリア。
普通の令嬢であれば、目をハートにして顔を赤らめながら、王子との会話に花を咲かせるのが正しい反応のはずだ。
けれど、ロザリアの対応はあまりにも普通とかけ離れている。きっとこの状況を見て、オズワルドも彼女の男嫌いを理解してくれた事だろう。
「安心して下さい、騎士団長様。少なくとも、ロザリア様は貴方が嫌うタイプのご令嬢ではありませんので。ただ…男嫌いゆえ、暴言の一つか二つ吐いてしまう恐れはありますが…。そこは僕が何とかしますので」
「ふむ、それを聞いて少し安心した。…けれど、アンディ殿も男だろう?君が彼女の側にいてもいいのか?」
「ええ。幼馴染ゆえ、一緒に育ってきた仲ですので。ロザリア様は、エンブレスト伯爵と僕以外の、男という男を嫌っているのです。もちろん、殿下はロザリア様の苦手としている方ですし、すぐに手を出しそうで僕は警戒していますが。…でも、少しでも彼女には他の男性を好きになって貰い、ゆくゆくは幸せな結婚をして欲しいとも思ってますから」
「ふーん…まぁ、この件について、これ以上は口を出さないでおこう。ただし、俺が言うのもなんだが、決してロザリア嬢を失望させないようにな」
「はい、承知しました」
ロザリアについて軽い会話をしたあと、アンディとオズワルドは応接間の中へと顔を向ける。
まだリュドウィックとロザリアの間に流れる空気は悪いけれど、『いつか気兼ねなくロザリア様が男性と話せますように』と、アンディは心の中で願ったのであった。
そして、ついに迎えた約束の日の朝。
伯爵邸にやって来たのは、綺麗な茶色の長い髪を紺色のリボンで後ろに束ねた、絵画のようにとても美しい青年。
彼こそが、女好きで有名なリュドウィック第一王子であった。
その側には、何故か女嫌いとして有名な赤髪短髪のオズワルド•ウェリントン騎士団長も、不機嫌な顔を滲ませて立っており、先に出迎えたアンディを睨んでいた。
「…お待ちしておりました、リュドウィック殿下。そしてウェリントン騎士団長様」
「ああ。確か、君がこのエンブレスト伯爵家の執事かな?…ふむ。不躾な事を言うけれど、君、女性に間違われる事ってないかい?」
「あ、あはは…。ないですね、殿下…。はは…」
リュドウィックに男装執事だという事を見抜かれそうになって、アンディは咄嗟に苦笑いを浮かべた。
女だと気付かれてしまったら、リュドウィックに口説かれてしまう上に、オズワルドがさらに怪訝な顔を向けられてしまうだろう。
あくまで今回の目的は、リュドウィックを警戒しつつ、少しでもいいからロザリアの男嫌いを克服する事だ。
リュドウィックがすぐに手を出す可能性はあれど、今までやってきた婚約者候補とは女性の扱い方が違うかもしれないと、アンディは踏んでいるのだ。
そしてゆくゆくは、ロザリアが男性嫌いを克服したのちに、本気で好きになった男性と結婚し、彼女が幸せになってくれればいいと思っている。
とりあえず、アンディは早速、リュドウィックとオズワルドを伯爵邸の応接間へと誘導する事にした。
「では、ただいまから応接間へとご案内いたします。そちらで、エンブレスト伯爵とロザリア様が、ソファに座ってお待ちしておりますので」
「そうか。ありがとう、執事くん。それで、お名前を聞いても?これから仲良くするんだし、俺は男を口説く趣味はないからね」
「はぁ…。では、アンディとお呼び下さい、殿下。姓は一応ありますが、僕の実家は少し複雑であるが故、詮索はあまりされたくないので」
「ふはっ!分かったよ、アンディくん。これ以上は聞かないでおくよ。でも、もし何かあった場合には、君の事を王族権限で調べられるって事は承知しておいて。この名前だけでもどこの家出身なのかはいくつか推測出来るからね」
「!?…はぁ、そうですか…」
リュドウィックの発言に思わず動揺してしまい、アンディは一瞬身体を硬直させたが、すぐに元に戻って応接間の扉を開いた。
不自然だったかもしれないと心配になったが、どうやらリュドウィックは気にしていない様子。
なんとか案内出来たと思ってアンディが安堵の息を軽く漏らすと、さっきまで黙っていたオズワルドがふいに、アンディにこう声をかけてきた。
「…アンディ、と言ったか?殿下が申し訳ない事をした。あと、ここまで誘導してくれて助かった」
「あ。はい、とんでもございません。騎士団長様もお忙しい中、こちらにお越し下さり頂きありがとうございます。…しかし、まさか貴方様が殿下と共に来て下さるとは、思ってもおらず…」
「いや、それは別に構わない。ただ単に、護衛がてら勝手に付いてきたってだけだ。…そして、最初に君を睨んでしまったのも、『殿下の気になるご令嬢』が玄関で待ち構えてるんじゃないかと警戒しての事だ。まぁ、そういうのは無かった様だがな…」
「はぁ…」
オズワルドのどこか意味深な発言に、アンディは眉根を寄せて考える。
そして、とある答えに辿り着いたのか、アンディは咄嗟にこう尋ねてみた。
「あ、あの!騎士団長様。も、もしや『ロザリア様が殿下の容姿や地位目当てかどうか』を確かめるために、殿下に同行したのでしょうか?」
「おっ!さすが執事ってだけあって、聡いな、アンディ殿は。まぁ、少なくとも俺は殿下の護衛でもあるんだ。だから、なるべく苦手意識の少ない、なおかつ護ってもいいと思える令嬢かどうかを見極めたくてな」
「はぁ…。だから、その条件でロザリア様を見極めようという事ですか。…でも、きっとロザリア様も貴方と同じ考えで、殿下を見ていると思いますよ。…なにせ貴方と同じように、彼女も男嫌いですから」
「えっ!?…まぁ、そう言われれば確かに…」
ロザリアが男嫌いである事に驚いたオズワルドは、目の前でリュドウィックと話しているロザリアを見て、納得の声をあげた。
笑顔でリュドウィックが話しかけているのに、どこかぎこちない笑みを浮かべて小さく頷くロザリア。
普通の令嬢であれば、目をハートにして顔を赤らめながら、王子との会話に花を咲かせるのが正しい反応のはずだ。
けれど、ロザリアの対応はあまりにも普通とかけ離れている。きっとこの状況を見て、オズワルドも彼女の男嫌いを理解してくれた事だろう。
「安心して下さい、騎士団長様。少なくとも、ロザリア様は貴方が嫌うタイプのご令嬢ではありませんので。ただ…男嫌いゆえ、暴言の一つか二つ吐いてしまう恐れはありますが…。そこは僕が何とかしますので」
「ふむ、それを聞いて少し安心した。…けれど、アンディ殿も男だろう?君が彼女の側にいてもいいのか?」
「ええ。幼馴染ゆえ、一緒に育ってきた仲ですので。ロザリア様は、エンブレスト伯爵と僕以外の、男という男を嫌っているのです。もちろん、殿下はロザリア様の苦手としている方ですし、すぐに手を出しそうで僕は警戒していますが。…でも、少しでも彼女には他の男性を好きになって貰い、ゆくゆくは幸せな結婚をして欲しいとも思ってますから」
「ふーん…まぁ、この件について、これ以上は口を出さないでおこう。ただし、俺が言うのもなんだが、決してロザリア嬢を失望させないようにな」
「はい、承知しました」
ロザリアについて軽い会話をしたあと、アンディとオズワルドは応接間の中へと顔を向ける。
まだリュドウィックとロザリアの間に流れる空気は悪いけれど、『いつか気兼ねなくロザリア様が男性と話せますように』と、アンディは心の中で願ったのであった。
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