訳あり男装執事は、女嫌いの騎士団長に愛され口説かれる

九重ネズ

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男嫌い令嬢・ロザリアの苦悩と変化 (ロザリアside)

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 エンブレスト伯爵家の男嫌い令嬢・ロザリアは、とある状況に困っていた。
 それは、3日前に夜会で知り合ったセレスタイン国の第一王子・リュドウィックと、エンブレスト伯爵邸の応接間で話し合っているというものだ。
 しかもロザリアの隣には、実父であるエンブレスト伯爵がいるため、ここでリュドウィックを貶す事も出来ない。

 正直に言って、リュドウィックは見た目通りに軽薄っぽい男だった。
 ロザリアに対して明らかに下心を持っていると感じるうえ、声も他の令息と同じように甘ったるい。
 きっと彼も、ロザリアの見た目に惑わされてボロを出すだろう。と、そう踏んでいたはずだったのだが…。

「さて、思う存分ロザリア嬢を堪能できたので、ここからはエンブレスト伯爵と貿易について話し合いをしたいと思っているんだけど、ロザリア嬢はどうしたいかい?まだここに残るかい?」
「…えっ!?」

 突然、色恋以外の話を振られ、ロザリアは大きく目を見開いた。
 まさか、ロザリアがいるこの状況で、リュドウィックが仕事の話をするとは思わなかったのだ。
 しかし、エンブレスト伯爵が行っている事業について、とても気になっていたのも事実である。
 そのため、ロザリアは意を決してリュドウィックにこう返事をした。

「…の、残ります!そろそろお父様の仕事も、少し学んでおきたいと思ってますので…!」
「おっ!さすがはエンブレスト伯爵自慢のご令嬢だね。でも今から話す事は、君が分からない事だらけだと思うけれど、ついて来れるかい?」
「は、はい!それでも喰らい付いて聞きますので!」

 先ほどまで青白い顔をしていたロザリアが、今はイキイキとした顔で自分に向かって話しかけてくる。
 それがリュドウィックにとって嬉しくて、彼は大きな笑い声をあげた。

「ふははっ!うんうん!じゃあ、始めちゃうね。ではエンブレスト伯爵、よろしくお願いするよ」
「はい。…ロザリア、決してあまり無理をしないようにな」
「分かりました、お父様」

 ロザリアが頷いたとほぼ同時に、リュドウィックは早速、エンブレスト伯爵と貿易の件について話し始めた。

「さて、まずは隣国にあるカタリナ共和国の特産品について。あそこでは、ドレスに使われる最高級品『銀の繭』が生産されているんだが、伯爵にはもう少し取引量を増やして欲しいと思っている。なにせ、二ヶ月後に母である王妃の生誕祭が催されているため、それに使うドレスに『銀の繭』をふんだんに使用したいのだ。…可能か?」
「はい。ですが、予算というものがございまして、今はこのぐらいの量とお値段で『銀の繭』を取り寄せております。もし取引量を増やしたいのであれば…」
「……」

 正直に言って、やはり話の内容にあまりついていけなかった。
 ロザリアは『銀の繭』という最高級品の糸がカタリナ共和国で作られている事は知っていたけれど、やはり貿易の件については知らない事だらけで、頭が痛くなってくる。
 でも、もしかしたら将来エンブレスト伯爵家を継いで貿易に携わる事もあるかもしれないと思い、彼女は下唇を噛みながら、必死に頷いて話を聞いていた。

「では、次の取引に移ろうと思うんだけれど…。ロザリア嬢、下唇を噛んで耐えているようだけど、大丈夫かい?もしかしたら、そのうち血が出てしまうかもしれない。そしたら、君の顔に傷がついて痛そうだなって思って、逆に俺が泣きたくなってしまうよ」
「…はっ!あ、えと…その…」

 まさかリュドウィックが自分の変化に気付いていたとは思わず、ロザリアは口を開けて目を泳がせた。
 今までお見合いをしてきた令息は、自分の事にしか興味がない人ばかりで、ロザリアの変化に気づく人なんて誰もいなかった。
 けれど、リュドウィックは彼女が怪我しそうな事にも気付き、しかも心配の声をかけて眉根を下げている。
 それがどこか嬉しくて、ロザリアは泣きそうになりながらお礼を言った。

「…リュドウィック殿下、ありがとうございます。そして、ご心配おかけしました。ただ、必死に話について行こうとしたら、無意識に唇を噛んでしまって…」
「うんうん、頑張って聞いてたんだね。ロザリア嬢はとっても偉いなぁ。やっぱり女の子は傷一つない可愛い顔でいなくちゃだしね!…あー、このままロザリア嬢を抱きしめてチュッチュしたいなぁ…。君のお父上がここにいるから今は無理だけど、いつか婚約者になれたら、いっぱいくっついてイチャイチャしようね♡」
「…はは…はい…」

 やはり、リュドウィックは軽率な女好き男だったと、改めて理解したロザリア。
 さっきまで仕事が出来るいい男だと思ったのに、この変わり身の早さに、吐き気まで催してくる。

 別にまたリュドウィックと会ってもいいとは少し思えたけれど、これから多分一生男性の好意には答えられそうにないなと悟ったロザリアなのであった。
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