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23. 緊迫①

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「ファンって……そんなんじゃないと思いますけどね」
「またまたそんなこと言って。たった二週間で俺のファン沢山取られちゃったんですけど?」
「そんなつもりないんですってば」

 フィリさんと一緒に行動するようになってすぐに気が付いたが、彼は隊内でかなり人気があるようだった。周りの隊員たちより少し小柄で可愛らしい顔立ちに柔和な雰囲気。けれど話してみると意外とさっぱりした性格で、仕事もてきぱきとこなす。知り合って間もない俺ですら彼にファンが大勢いるのは納得できた。

「副隊長の奴隷がどんなやつかって、みんな好奇心で見にきてるだけですよ」

 俺がウィルので副隊長に奴隷の首輪を付けられている話はいつの間にか隊内に広まっていた。食堂なんかへ行くとじろじろと見られてしまうから正直居心地が悪い。注目を集めてしまうことを避けてかウィルもあまり声を掛けてくれないし。

「好奇心だけならいいけど、そうじゃないやつもいっぱいいるよ。好意でも悪意でも、何かあったら俺たち腕力じゃ勝てっこないんだからさ。気をつけよう」
「た、確かに……」

 "悪意"には少し心当たりがあった。変な入隊の仕方をしてしまった俺たちに対して嫌味を言ったり嫌がらせの様なことをしてくる奴らが少しだけいる。「副隊長のお気に入りだからって調子にのるなよ」なんて、俺たちが望んで入隊したわけじゃないのにひどい言われ様だ。

 黙って考え込んでしまった俺に、フィリさんが明るい声をかける。

「そろそろ休憩でしょ? 一緒にご飯行こうよ」
「はい。これだけ片付けたら行くんで少し待っててもらえますか」
「了解。表で待ってるよ」

 俺が手にしていた救急箱を掲げて見せると、フィリさんはひらりと手を振って窓枠の外へ消えていった。そうとなれば待たせてはおけない。俺は出していた包帯や器具などを救急箱に仕舞い込み、棚の決められた位置へ戻した。午後は別の隊員がこの部屋の担当だ。
 診察室の中をあらかた見渡し問題がないことを確認すると、俺は自分の荷物を持って急いで部屋を出た。

 ぱたぱたと小走りで廊下を進み、フィリさんの待つ表の入り口に向かう。
 倉庫の前を通りかかったその時、いきなり倉庫の扉が開いたのを目にとめた瞬間、俺は左腕をぐいと引かれ倉庫の中に引き倒された。
 俺を倉庫に引き込んだ何者かは扉を閉めると、後ろ手にガチャリと鍵をかけた。

「いたた……一体何なんだよ」

 したたかに打ちつけた腕をさすりながら見上げると、そこに居たのは数日前俺に「調子にのるな」とありがたい忠告をしてきた男だった。
 ウィルと同じくらいの高身長だが、厚い筋肉をまとっているのか身体はひと回り大きい。恐らく魔力を持たない一般兵だろう。

「よお、フォーゲル。お前らの使ったカラクリが分かったから聞いてもらおうと思って。なぁ、ゲルト」

 男が俺の背後に目配せをする。上半身を持ち上げて振り返ると、そこにはもうひとりの男がいた。ゲルトと呼ばれたその男は腕に大きな青い痣がある。十中八九こっちは魔力持ちだ。
 それに見上げたその顔には見覚えがあった。数日前、訓練中に怪我をしたとかで診察室にやってきて俺が治療をした男だ。能力に気付かれては困ると極力接触を避けようと気を付けていたのに、ぐいぐいと距離を縮めてくるし「どこからきたのか」とか「普段は何をしているのか」なんていう個人的な質問ばかりしてきて辟易していた。
 その二人がどうして、揃って俺を倉庫に引き摺り込むような真似をしているんだ。

「お前、魔術師を誘惑する魔物かなんかだろ?」

 背後から身体を捉えられ、首を掴まれて顎を持ち上げるように無理やり上を向かされる。急所を晒されて僅かな恐怖心が顔をもたげた。
 逆さまに見えた男の顔はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。





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