26 / 29
24. 緊迫②
「俺が魔物? 訳のわからない言い掛かりはやめてくれ!」
首を掴まれた手を両手で引き剥がそうとするがびくともしない。しかも、扉の近くにいた男がもがこうとする俺の両足を押さえつけた。
「おかしいと思ったんだよ。シュナイダー副隊長ともあろうお方がいきなり田舎者を二人も連れてきたと思ったら、あからさまに贔屓し始めたからな。エヴァン、俺たちの読み通りで間違いなさそうだぜ」
頭上の男が俺の足元へ向けて声を掛けた。
「やっぱりな。ゲルトにお前の話を聞いてピンときたんだ。地元の伝承に魔術師を誘惑して精気を吸い上げる魔物の話があってな。お前、その魔物だろう」
「はあ? そんなわけないだろ! 俺は普通の人間だってば!」
「普通の人間? 普通の人間からこんなにいい匂いがするわけないだろう。それにお前に触っているとすごく心地がいいんだ。そうやって魔術師を誘惑してるんだろ?」
背後の男が俺の上半身を抱き上げ、首筋に顔を埋める。思い切り息を吸い込まれる感触にぞわぞわして全身に鳥肌が立った。首を掴んでいた手はそのまま俺の首筋をなぞり、反対の手のひらで服越しに胸を弄られる。
「や、やめろッ、離せってば」
「副隊長を楽しませてやってんだろ? 俺らも相手してくれよ。俺の精気分けてやるからさ……ってエヴァンは楽しむだけか」
「俺は魔術師じゃないから"心地いい"とかはわからねぇけど、こんだけ顔が良ければなんでもいいわ」
「やだ、離せよ! 誰かっ……んんッ」
大声を上げようとした口を大きな手のひらで覆われる。広げられた足の間にエヴァンと呼ばれた男が座り込み、俺のスラックスのベルトに手をかけた。ーーいくら鈍いと言われる俺でも、こいつらが何をしようとしているかは流石に分かる。
気を付けろとは言われてたけど、まさかこんなことになるなんて。エリート揃いの王立騎士団第一部隊の隊員にこんな乱暴者がいるなんてどうなってるんだ。
ばたばたとがむしゃらに動かした足が男の顔に当たり大きな身体が一瞬だけぐらりと揺れたが、その隙に逃げられるかといえば全然そんなことはなくて、あっという間に足首を掴まれて制圧される。
「いってぇな! 暴れてんじゃねぇぞ」
エヴァンが拳を握り、大きく振りかぶった。
やばい、殴られる。衝撃に備えて歯を食いしばり、ぎゅっと目を瞑った。
けれどいくら待っても拳が振り下されることはなくて、それどころか背後から俺を押さえつけていた腕も弛んできた。
不審に思って目を開くと、エヴァンが背後から髪を鷲掴みにされていた。ゆっくりと目線を上に移動すると、そこには冷え切った表情で男たちを見下ろすシュナイダー副隊長が立っていた。いつの間に? どうして? 色んな疑問が頭に浮かぶ。
「貴様ら、何か言い訳はあるか?」
「副隊長……これは、その……」
全く温度を感じさせないシュナイダーの声色に男たちが怯え始める。背後にいるゲルトに至ってはガタガタと震えていた。
「処分が決まるまで自室待機だ。逃げようだなどと思うなよ」
「ふ、副隊長! 魔物を庇うんですか! アンタこいつに誑かされて……」
ゲルトの言葉に、シュナイダーは嘲るような笑みを浮かべた。
「こいつが魔物だって? 馬鹿も休み休み言え。こいつはれっきとした人間だし、人を誘惑するような力もない。お前たちの勘違いだ」
「けど……!」
「そんなくだらないことしか言えないのならとっとと部屋へ戻れ。不快だ」
声を荒げているわけでもないのに、シュナイダーの言葉は有無を言わさない強制力を持っているようだった。顔も上げられなくなった二人は黙り込み、いそいそと逃げるように倉庫を出て行った。
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)