愛にならなかったから

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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岸本航平

第2話 運命の人を探さなきゃ

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翌日、航平はいつもの如くパチンコに負け、腹いせにセフレである亜美の元へと向かっていた。

亜美とは昔バイト先が一緒で、その頃から肉体関係だけが継続している。

小洒落たマンションの201号室のドアノブを、慣れた手つきで回す。

「はぁ~負けた負けた、ツイてないわ」

「今日はいくら負けたの?」

そう聞いてきた亜美は、ダボダボのパーカーに身を包み、ベッド横たわっていた。
短すぎるショートパンツからは黒色のパンティがはみ出ている。

「5万やられた、最悪だ」

「随分やられたね」

航平はそのまま亜美のいるベッドに横たわり、亜美に抱きつく。

亜美はそんな航平の頭を撫で、優しく語りかける。

「最近は彼女とうまくいってるの?」

「うまくいってないよ。結婚願望が強過ぎて、正直疲れた」

「年齢も年齢だからね。女性はやっぱ焦っちゃうんじゃない?」

「ん~分かるけど、結婚したら生活がガラッと変わるんだよ。そう簡単に決められないと思わない?だって家計のことを考えたら、パチンコなんてやってられないし、お小遣い制とかになったら、もう何を楽しみに生きれば良いか分かんないよ。亜美と会うのだって、リスクが大きくなる」

「もし航平くんが結婚したとしたら、私は流石に会わないよ」

「でしょ?それは流石にシンドいなぁ。亜美にはセフレが沢山いると思うけど、俺は亜美しかいないから」

「彼女がいるなら、他にいらなくない?」

「そう思いたいけど、息抜きする場所が必要なんだよ」

「ふーん、まぁ私は予定が空いてるときは、利用してもらって構わないけどさ」

亜美はパーカー脱ぎ出した。
豊満な胸が黒いブラジャーに締め付けられている。

「するんでしょ?」

「もちろん」

航平は亜美を抱きしめた。

~~~~~~~~~~

二人は薄暗くなった部屋で横になり、宙を見つめていた。

「亜美はさ、結婚願望とかないよね?」

「ん、あるよ」

「え?あんの?」

「あるよ、白馬の王子様が現れるのを待ってる」

「なんだそれ」

まさか亜美からこんなセリフが聞けるとは、、
航平は思わず笑ってしまった。

「似合わないでしょ?」

「うん、似合わない。結婚願望なんてないと思ってたし、今が楽しければそれで良いって感じだと思ってた」

「まぁ、今が楽しければそれで良いとは思ってるよ。でもそれは、白馬の王子様が現れるまでの間ね」

「もし白馬の王子様が現れたら、俺とも会わなくなるの?」

「うん、セフレとは縁を切るよ」

即答する亜美に、航平は少し寂しかった。

「白馬の王子様が現れる予定はあるの?」

「今のところ、ないね。ないし、結局現れないんじゃないかとも思ってる。でも妥協してそこらへんの男と結婚して、無理して一生を終えるくらいなら一人で良いやと思う。一人だったら、こうやって好き放題生きていても、別に良いしね」

航平は亜美の言葉に強く頷いた。

「分かる分かる!俺もそう思う。運命の人と出会えないなら、結婚なんてしなくても良いよな。結婚したいって言って、焦ってる奴って、想像力に欠けてるんだと思うわ。結婚生活に夢見過ぎ。もっとちゃんと想像してみろよ、地獄だぞって、、、、恵にも言ってやりたいな」

「そうだよね、絶対大変だよ。でも結婚生活に夢見ちゃうのも分からなくはない。運命の人と結婚出来たら、幸せなんだろうなぁって思う。そろそろ私も、ちゃんと運命の人を探さなきゃダメなのかもね」

亜美は珍しく何かを悟ったように呟いた。
そして少し間をおいて、航平へと質問する。

「航平くんはさ、今の彼女さんは運命の人じゃないの?」

そう聞かれて航平は即答出来なかった。

「、、、ん~、結婚しても良いとは思ってるけど、それこそ自由がなくなるのは嫌だし、正直亜美みたいな美人に言い寄られたりなんかしたら、俺はそっちを選んじゃうかもしれない。そりゃ7年も付き合ってるから、もう家族みたいなものなのかもしれないけど、今結婚しようとは思わないかな」

「ふーん、そうなんだ。じゃあきっと運命の人じゃないんだね」

亜美の言葉が航平の胸に刺さる。

「そうか、、、そうなのかもしれない」

「ああ、ごめん。別に彼女さんを悪く言うつもりはないよ」

航平の声色が低くなったのを感じて、亜美は気を遣ってくれたようだった。

「いやいや、大丈夫。俺も運命の人を探さなきゃな」

「でも、彼女さんは結婚したいって言ってるんでしょ?もう7年も付き合ってるなら、別れるのは至難の業になると思う。別れるなら早い方が彼女のためにもなると思うよ」

「そうだよな」

航平はそう言いながら服を着た。

「そろそろ帰るわ」

「うん、じゃあね」

ガチャン

外へと出ると、もう夜だった。

恵から[夕飯どうする?]とメッセージがきていた。

運命の人を探そうと思ったが、別れるのが惜しいとも思った。

自分が悪い人間だってことは十分に承知している。

しかし、これは俺の人生だ。

俺にとって一番良い未来を掴みたい。

[夕飯いる]

メッセージを送信すると、すぐに返信が来た。

[何が良い?」

[何でも良い]

[カレーでも良い?]

[うん]

何でも良いって言ってるだろ。

そう心の中で呟き、少しだけイラっとする航平がいた。
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