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熱風の闘技場編

第44話 強者の戦い

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戦いを終えたツグルに、皆が労いの言葉をかける。
そんな中ムーが分析を口にした。

ムー「闇の魔力を体内に留めながら戦うことが出来たのか、なるほど」

ツグル「自分でも何が起こったのか分からなかった」

ムー「だろうな、黒化する事でパワー、スピード、耐久力、全てにブーストがかかったんだと思う。変形させたら魔力行使でアウトだったろうけどな」

ツグル「黒化でとどめることにするよ」

変形させなくて良かったと心から思った。。。

ズミ「さぁて、そろそろ俺の出番かな?」

タチキ「お前予選にすら出てないだろ!!」

ズミの冗談に全力でツッコミを入れるタチキ、それに溜息をつくキャノン。


「続いての対戦は、カナメルvsドンテキーラ!!」


闘技場内のアナウンスを聞き、カナメルが生意気に笑う。

カナメル「Bグループの生き残りの男か?体格はタクティスさん並だったね」

トゥール「お?カナメル、ビビってんのかぁ??」

カナメル「なわけないだろ。ツグルよく見ておけ、身体能力だけが戦いじゃないってことを見せてやる」

ツグル「期待しておく」

カナメルはなんだか楽しそうである。

階段から行けば良いものを、わざわざマントを翻しながら飛び降りるカナメル。
客席からは歓声があがる。

トゥール「あいつ無駄にエンターテイナーだよな」

フルネス「ヘイスレイブの炎のマント。彼は戦場でもあんな感じだったぞ」

ムー「そーゆー奴だ、魔法も見た目の良いものばかりだろ?人を殺める力に美しさなんて誰も求めてないってな」

確かに、出会ってから間もなくても分かる。彼はそういう奴だ。






闘技場には明らかに体格の違う二人が向かい合っている。
客観的に見ても、カナメルが勝てるような相手ではない。

ドンテキーラという男はBグループにてタクティスと同等の体格をした大男である。
情報によると、この闘技大会の常連で、彼の戦いぶりを見に来るファンもいるとのことだ。

「カナメルvsドンテキーラ、スタート!!」

開始の合図が響き渡るが、二人は動こうとしない。

ドンテキーラ「こんな小柄の小僧に本気を出すわけにもいかねぇよなぁ。予選ではその体格を活かして隠れてたんだろ?悪いことは言わねぇ、棄権しろ小僧」

カナメル「予選ではその体格を活かしてボッコボコに出来たんだろうけど、今はそうはいかない。せっかくあんたを見に来てるファンのためにも棄権した方が良いよ、おっさん」

カナメルの挑発に顔を真っ赤にするドンテキーラ。

ドンテキーラ「後悔してもしらねぇぞ!!!小僧!!!!!」

ドンテキーラはドスドスと音を立てながら、重い身体で走り出す。

ドンテキーラ「ふん!!!!」

ドンテキーラのラリアットをカナメルはニヤリと笑いながら片手で躱した、次の瞬間、大男は何かに躓いたかのように横転してしまう。

セリア「え!凄い!何が起きたんでしょう?」

ムー「はははは!!!なるほどな、予選もあーやって勝ち上がったわけだ。一切の攻撃を受けず、一切の攻撃を仕掛けず」

ムーは大笑いをしている。なかなか見ないムーの表情に全員が驚く。

ダイス「どーゆーことだ?」

フルネス「確かに体格差、肉弾戦でのステータスはドンテキーラに分があるだろうが、今までありとあらゆる戦を乗り越えてきた彼には、戦闘のスキルがある」

モモ「戦闘のスキル??」

トゥール「あいつは間合いのプロだ、生粋の魔術師は懐に入られたらピンチなのさ、今までの経験からカナメルはそれをよく理解している」

ムー「トゥールと戦わせた時も、何度も首を取られてたなぁ。その度に魔法陣を仕掛けたり、罠を張って、先の先を予測して、間合いに誘い込むような戦い方をするようになった、あいつの成長速度は僕も太鼓判を押すさ」

ツグル「間合いに誘い込む、、、確かに」

ツグルはヘイスレイブの教会での戦いを思い出す。
あの時、火の小鳥達の隙間に飛び込んだ先で、燃え盛る火柱に見舞われた。
火柱を攻略した頃には目の前にカナメルの姿は無く、魔方陣と火の小鳥達に囲まれていた。

もしかすると、思えば火の小鳥達の隙間すら、ツグルを飛び込ませるための準備でしかなかったのかもしれない。
きっとそうに違いない。

今になってカナメルという男の強さを思い知ることになった。



カナメルはその後もドンテキーラの猛攻を片手でいなし、ドンテキーラは1人で体力を消耗していく。

ドンテキーラ「はぁ、はぁ、、、はぁ、、」

カナメル「あれ、俺まだ後悔してないけど?」

ドンテキーラ「この、、、小僧、、正々堂々戦いやがれ」

カナメル「別に卑怯なことはしてないよ、ただおっさんが一人で暴れてるだけ」



観客は誰も予想打にしていない状況に歓喜している。


遂にはドンテキーラは四つん這いになり、休息を取り始める。

ドンテキーラ「くそ、、、、、、どーなってやがる」

カナメル「疲れたでしょ?俺も疲れた。でもおっさんほど疲れてはいないよ。このまま戦っても状況が変わることはない、なんなら俺が一発お見舞いしてKOってことにもなりかねない。体調不良ってことで棄権した方が良いんじゃない?」

ドンテキーラ「、、、なめやがって!!!!!」

ドンテキーラは最後の力を振り絞り、カナメルの元へ走り出す。

カナメルは片方の口角を上げて生意気に笑う。

ドンテキーラのラリアットをサラリと躱し、脚をかける。ドンテキーラは大横転をし、そのまま立ち上がることはなかった。

「勝者!!カナメル!!!」

「ワァァアァァァァァァ!!!!!」

盛大な歓声を受けてカナメルは片手で歓声に答える。マントを翻し、わざわざ転送魔法で客席へと戻った。

ズミ「カッコ良いなぁ~」

ダイス「いやーちょ、マジでかっけぇ!!!マジでカッケェよ!!カナメルパイセン!!!」

カナメル「はいどーも」

カナメルはご満悦なご様子である。

トゥール「ドンテキーラも相手が悪かったなぁ、可哀想に」

カナメル「まぁね」

セリア「カナメルさんが勝ったということは、次はツグルvsカナメルさんじゃないですか?」

カナメル「そーなるね」

ツグル「楽しみだ」

カナメル「何度目かの再戦だな」

準決勝が楽しみなツグルであった。



「続いての対戦はトゥールvsタクティス!!」



モモ「おおおおおお!!!!どーなるのこの戦い」

ムー「ははははは!!こりゃ面白れぇな、見応えしかねぇ!!ははは」

ムーの大爆笑に全員が驚く。
ムーはこんなに笑う人だったのだろうか?トゥールと合流してからのムーはなんだかよく笑う。

ムーの言う通り見応えしかない戦いになりそうだ。

トゥール「よりにもよってタクティスかい!マージか、とりま行くかぁ」

タクティス「よろしく頼む」

二人は仲良く階段を降りていく。

カナメル「こんなにもギャラリーがいるんだ、もっと華々しくパフォーマンス出来ないものかね」

ムー「そんなこと考えてるのはてめぇぐらいだろうな」

カナメル「この大会の主催者的にも、観客的にも、俺たち闘士的にも、winwinなんだけどなぁ」

ダイス「いやぁ、やっぱパイセンの言うことは違いますね」

どうやらダイスは先ほどの戦いにて、カナメルに憧れを抱いたようである。




楽しそうに談話しながら闘技場の中心にやってきたトゥールとタクティスに、客席からはブーイングが起こる。

確かにこれから死闘を繰り広げる者の行為としては不自然である。カナメルの言うことは正しいのかもしれない。

身長はあるものの、筋力の差は歴然で、トゥールがひ弱に見える。
何故ならタクティスはこの会場の誰よりも大きいからである。

「トゥールvsタクティス、スタート!!」

開始の合図と共に二人の面持ちは真剣そのものに変わった。
そしてトゥールは準備体操を始め、タクティスは精神を統一しているように見える。

観客にとっては謎の時間だが、二人にとっては必要な時間なのだろうか?

トゥール「そろそろいいかぁ?タクティス」

タクティス「ああ、いつでも来い」

トゥール「はいよ」

そう言った瞬間、トゥールの姿が消えた。



タチキ「え!?消えましたけど!!あの~お巡りさん、ここに魔法使ってる人いますけど!!」

タチキは盛大に騒ぎ出す。

キャノン「本当に消えたな」


客席もざわざわとし出す。



ダイス「おい、でもなんか、タクティスのおっちゃんガードしてるぞ?」

モモ「本当だ!何してるんだろう」

ツグル「ガードしてるんだ、トゥールの蹴りを」

セリア「どーゆーこと?」

ダイスとモモ、セリアはポカンとしている。

フルネス「何故風もないのに土煙が上がっていると思う?トゥールが移動しているからさ」



よく見ると所々に残像のようなものが見える、その箇所に土煙が上がっている。



ムー「脳筋野郎が何故、行くぞ!じゃなく来い!と言ったか。それはこーなることが分かっていたからさ」

カナメル「あの怖さは実際に戦わなきゃ分からないもんだ」




目を凝らすと移動する瞬間と、タクティスに蹴りを入れる瞬間、トゥールの姿を確認出来る。

ツグル「魔法なしであの速度なのか?」

ムー「そうさ、魔法が加わるとあれの7倍は速くなる。気付いた時には皆死んでるってわけだ」

ズミ「神速の風トゥールは健在だなぁ」



タクティスは身体を縮めてトゥールの攻撃に耐えている、しかし、トゥールの回し蹴りに遂には膝をついてしまう。

タクティス「まだ見切れないか、、、」

トゥール「ふぅ、、疲れた。そろそろ見破られると思った」

トゥールは距離をとり、また消えた。
タクティスはキョロキョロしながらガードを続けている。

ダイス「なんでタクティスのおっちゃんは反撃しないんだ?」

フルネス「ガードをしなければ顎を蹴られる。ああ見えてトゥールの長い脚と凄まじいスピードから放たれる蹴りの威力は相当なものだ。タクティスさんだから耐えられているものの、あれが常人であれば一撃で気を失うだろうな」

モモ「どんなに屈強な人でも、流石に顎にクリーンヒットは意識が飛びますかね、、、」

ツグル「それにしても防戦一方だな」

ムー「それもいつまで続くかな。トゥール自身も薄々気付いているだろうが、脳筋野郎も反応してきてる。ただ防いでるわけじゃねぇってことだ」



防戦一方のタクティスだがムーの言う通り、ガードする方向をトゥールの攻撃に合わせている。

そして、突然タクティスが動き出し、大振りのストレートを叩き込む。するとトゥールの顔ギリギリで拳が止まり、一瞬二人の動きは止まった。

タクティスの拳はトゥールに当たっていないはずだが、トゥールは風圧で吹き飛んだ。


ズミ「あれこそ魔法のようだなぁ」

ダイス「おいおいおい、なんてパワーだよ!!風圧でトゥールさん吹き飛んだぞ!!」

トゥールのスピード、タクティスのパワーに一同の瞳孔は開いたままである。

カナメル「あんなのまともに食らえば、一撃でKOだろうね」

フルネス「タクティスさんが持久戦で倒れるか、トゥールが一発で倒されるか」

ツグル「目が離せない戦いだ、、、、」

これが魔法を使わずに繰り広げられているという事実にツグル達はもちろん、闘技場の観客全員がショーを楽しむような気持ちで見惚れている。

しかし、結末は意外と早くやってきた。

トゥールの高速の蹴りをタクティスは受け止め、脚を掴んだ。
そしてそのままぬいぐるみを扱うかのようにトゥールを地面に叩きつけ、そのままもう片方の手を振り上げる。

タクティスの勝利かと思われたその時、トゥールはタクティスの顔面に蹴りを入れ、体制を崩したタクティスの顎に華麗なる回し蹴りを食らわせる。

タクティスは巨体を浮かせ、地面に大の字に倒れた。

「勝者、トゥール!!!!」

「ウオオオオオオオオォォォォォオオオオ!!!」

観客のボルテージはマックスまで高まる。

トゥール「決めの一撃を狙っていたのは、俺も同じだったのさ。にしても疲れたなぁ、、、」

トゥールはタクティスの顔をペチペチと叩き、謝っている様子が窺える。

それでも起きない様子で、タクティスを担ごうとするも、タクティスの巨体を担ぐには力及ばず、遠くから「フルネス~!!!ヘルプ」と叫んでいる。
フルネスはやれやれと言わんばかりに階段を駆け下り、タクティスを軽々と担ぎ歩き始める。その後ろをあくびをしながら歩いていた。



トゥール「おつ~」

フルネス「持久戦にもつれ込むか、タクティスさんにやられるかだと思っていたが、まさかこうなるとはな」

トゥール「タクティスを倒すには顎か後頭部に強烈な一撃を食らわせるしか方法がないからな」

カナメル「まさかわざと脚を掴ませたのか?」

トゥール「なるほど!その手があったか」

カナメル「あれわざとじゃなかったの?わざとだと思った。俺がトゥールならわざと掴ませるなぁ」

トゥール「いやいや、数打てばチャンスが出来ると思って本気で蹴り続けたさ。でもタクティスの適応力が思ったよりも早くてビックリした~」

ムー「そうだとすれば、掴まれた後の瞬発力は流石だな」

強者の会話に入れない者達が聞き耳をたててその内容を理解しようとしている。
ツグルもその一人である。

興奮覚めやらぬ中、あと残っているのは、フルネス将軍とタカだ。

グレイス王国が誇る肉体派のフルネス将軍と、予選で一斉ワンパンKOを見せた強者タカの試合に、一同は期待を膨らませていた。






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