神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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ヘイスレイブ王国編

第33話 すれ違う心

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眩しい陽の光を直に浴びた眼球は、魂を抜かれたかのように瞬間的に機能を失う。

人間は継続的に刺激を与えると慣れて、それを刺激だと感じなくなるものらしい。それはもちろん人間関係や環境についても同じく、人間に備わっている能力である。

目が慣れる速度はとても早い。真っ暗闇の中でも数分で目は暗さに慣れる。そこから肌が焼けるような日差しの下に飛び出すと、また眼球は気を失うが、慣れてまたすぐに元気を取り戻す。


セリアは心地の良い風を浴びながら、眼球の明度の調節を待っていた。
眩しすぎて見えなくても、嫌な気はしないものだ。逆に暗くて見えないのは、なんか悔しい。

セリア「空?、、、」

そこは空中に浮いていた。

眼下を見渡すと、遥か下の方ではヘイスレイブの樹海の海がさらさらと風を感じているのが見える。

足元は透明な結界のようなもので形作られ、それは半径30mほどの円形のフィールドを形成していた。

このまま落ちてしまいそうな足元の透明度に、脚が竦んでしまう。
ジャンプして思いっきり蹴り付けたら、割れて下に落ちてしまうだろうか?そんなくだらないことを思いながら下を眺める。

下には黄金の城、ヘイスレイブ城がギラギラと輝きを放っている。

セリア「お城の上にこんな空間があったんだ!」

オダルジョー「そう、空中から迎撃するためにね」

何気ない独り言に答えを出され驚くセリアの前方に、大きなつばの魔女帽を目深にかぶる女が立っている。

セリア「オダルジョーさん、よろしくお願いします!」

オダルジョー「はーい、よろしく」

オダルジョーは気怠そうにあくびをしながら答える。

オダルジョー「君って特別なんだよね」

セリア「え?」

オダルジョー「いいよね、皆に必要とされて愛されて、皆が守ってくれて。それってどんな気持ちなの?純粋な質問なんだけどさ」

突然の質問にセリアは驚いた。

セリア「どんな気持ちって、、、私が皆を助けなきゃって」

オダルジョー「ん、だとしたら君はもっと強くならなきゃ皆を助けられないよね?君を大切に思ってるあの男の子、ツグル君だっけ?彼も彼で弱いから、近々死ぬと思うよ。あ、でも君は殺される心配はないから弱くても大丈夫だね」

オダルジョーは悪気がない様子でセリアとツグルを侮辱した。

セリアは少しムッとした、それは自分が侮辱されたのではなく、ツグルがバカにされた気がしたからだ。

セリア「ツグルは強いです!!あなたはさっきからどういうつもりで言葉を発しているのですか?」

オダルジョーはポカンとして答えた。

オダルジョー「あれ、怒っちゃった。ごめんね、私は感情が欠落してるから」

オダルジョーはあくびをしながら面倒くさそうに言葉を続けた。

オダルジョー「ふぁ~、、、質問に答えるとすると、君は最終的に何がしたいのかなと思って。まぁどーでも良いんだけどさ、世界を変えるほどの能力がある人の最終的な願望って何だろって気になっただけ」

セリア「私は人が笑って暮らせる世界にしたいだけです。出来れば戦いなんてしたくない、どんな相手とも話し合いで解決出来ると思っています。でもそれが不可能なら、倒すべき相手を倒すだけです」

セリアは杖を手にした。

オダルジョー「話し合いで解決か。そうか、出来ると良いね。。。。始めようか」

セリア「お願いします」

魔術を展開すると周りに光の剣が無数に飛び交い始める。

オダルジョー「随分と眩しい魔力だね。悲しくなってくるよ、ほんと」

オダルジョーから紫色の魔力が流れ出す。
それは紫の雷となって、周囲を焼き焦がす。
光り輝くフィールドに雲が覆い始め、視界が悪くなる。

オダルジョーが杖をセリアへ向けると、紫電が周囲の雲からセリアの方へ飛び出す。

とてつもない量の紫電に襲われるセリアだったが、周囲の光の剣達がそれらを食い止める。

セリア「光を、この手に!!!」

セリアの杖から光が溢れ、雲が払われる。
フィールドの半分が太陽に照らされ、少女の身体は光り輝く。

外から城の上空を眺めると、きっと不思議な光景が見られたに違いない。

オダルジョー「ふーん、やるじゃん」

セリア「まだまだこれからです!」

セリアの周囲の光の剣は一斉にオダルジョーへ攻撃を仕掛ける。
しかし彼女が杖を一振りすると、光の剣は石になり、透明な地面に転がった。

セリア「まだです!!」

セリアの掛け声と共に、新たに光の剣がセリアの周囲をグルグルと周り、それらは集合し巨大な光の剣を形成する。

セリア「私の本気です!!」

光り輝く巨大な剣は、オダルジョー目掛けて振り下ろされる。

大きな爆発が周囲の雲を巻き込む。
手応えはあるものの、魔女の姿は目視出来ない。

数秒の後、風で雲が払われ、透明なフィールドは最初のように青空と太陽の陽の光に包まれる。

オダルジョー「悪くないけど、まだまだだね」

オダルジョーは元いた場所から一歩も動かず、無傷だった。

セリア「、、、」

巨大な光の剣は、オダルジョーの数メートル前でピタリと動きを止めている。

セリア「、、、どうして、、私の身体も動かないの?」

セリアは杖を構え、追撃を試みるも、手を動かすことはおろか身体が動かない。
まるで石になってしまったかのように。

オダルジョー「本気を出しても良いんだけど、それじゃダメなの、うん、ダメ」

巨大な光の剣は砂のように、風と共に掻き消えた。

セリアは身体中に何かが絡みついていることに気が付いた。
それはとても硬い糸のように思えた。
思えば巨大な光の剣にも、沢山の線のようなものが見えた。

セリア「、、、糸?」

いつからこんなものが張り巡らされていたのだろうか?目を向けると、このフィールドにはこの糸のようなものが縦横無尽に張られている。

オダルジョー「お、見えるんだ、へぇ~。魔力で編んだこの糸は、一般市民はもちろん、魔法使いにだって見破るには相当な技量を要するはず。君はやっぱり特別な存在なんだねぇ」

魔女は気怠そうにあくびをしている。

オダルジョー「悪いけど、これでお終い。じゃあまた後で」

オダルジョーがそう言うと、糸は首に絡まり、圧力がかかる。

セリア「、、ごほっ、、く、、」

手でこの糸を解きたい、でもその手も動かない。
呼吸が出来ない、視界に広がる真っさらな空の青が、黒く染まり意識が遠のいていく。
苦しい、、、首を絞められたのは初めての体験だった。

こんなに簡単に死ねるものなのか。

セリアはそのまま意識を失った。

オダルジョー「人から愛されるって、どーゆー気持ちなんだろう?」

オダルジョーは一人呟く、その声は誰にも届くことなく、風に攫われた。
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