神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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フォールドーン帝国編

第63話 八岐大蛇

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ムー達は帝国の南ゲートを目指していた。
帝国兵の待ち伏せがあるものの、ムーの魔法とタクティスの一振りで木っ端微塵となった。

途中トゥールに斬られたであろう帝国兵が倒れていたが、その先の待ち伏せは健在だったため、トゥールとツグルは南ゲートに向かっていないことは推測出来た。
しかしどのゲートを目指しているのか検討もつかず、分散するのはリスクがあるため全員で南ゲートを目指していた。

半分以上はトゥールが片付けていたこともあり、帝国兵の待ち伏せに時間を取られることもなく、最短距離で南ゲートに辿り着いた。

しかし、ゲート前に何重にも並ぶ帝国兵を目の当たりにして、百戦錬磨のフルネスでさえも息を呑む。

こちらはたったの十一人。

正面突破をするには無謀な戦いである。

フルネス「俺が防護壁を張りながら前進する、その後ろをついてきてくれ。モモ、俺が張った防護壁に魔力を送ってくれ、やり方は硬化と全く同じだ」

モモ「分かりました!!」

ムー「その間に遠距離攻撃で数を減らす、良いな?」

カナメル、マツ、ドラは各々魔力を構築し、ダイスは矢に手をかける。タクティスは静かに斧を握った。

ズミ、タチキ、キャノンは自作の戦車に乗っていた。操縦はタチキ、砲台にはキャノン、司令塔がズミである。

ムー「さぁ、パーティの始まりだ」

フルネスとモモが防護壁を張り、それを二人で押しながら進む。

帝国も一斉に銃撃を開始し、とんでもない数の鉛玉の雨を受けることとなった。

カナメルは炎の鳥達を解き放ち、マツは空に向かって雷槍を投げた。
ドラは炎球を放射した。
ダイスは特訓の成果を発揮し、空高く矢を放つ。

ズミの戦車も負けじと砲撃を繰り返す。

遠くで火柱が上がったり爆発が起きたり、雷の槍が降ってきたり、木の矢が分裂して降り注いだり、数では圧倒的に負けているものの戦力では負けていなかった。

更にタクティスが斧を振り下ろすと地割れが起き、ムーの魔法でハリケーンが訪れ、何処からともなく濁流が押し寄せた。

兎角順調に歩みを進め、遠くに見えたゲートまでおよそ200mを切ったところ、突然ゲートが開き、中から数十人のサイボーグと戦車の大群が姿を現した。
サイボーグは素早い動きで接近し、防護壁をドリルで消耗させる。
回り込んで来る者はタクティスが斧で粉々にした。

戦車の大群はリズミカルに砲撃を重ね、遂にフルネスの歩みが止まる。

フルネス「想像以上のダメージだ!!帝国の力、これ程とは、、、、、」

ムー「くそ、数が多すぎるか、出来れば魔力を温存したかったが、、、」

カナメル「俺の鳳凰で蹴散らすか?」

ムー「いや、てめぇは温存しておけ、僕のを出す。おいゴリラ!!てめぇの馬鹿力で敵との間に山を作れ!!時間が必要だ!!」

タクティス「任せろ!!!ウォォオオオオオーー!」

タクティスが巨斧レオニダスに魔力を込め、地に叩きつけると。
帝国との間の地面が隆起し、大きな山が出来た。

流石に帝国が山を登ってくることはなく、ひと時の静寂が訪れる。

ムー「休憩時間じゃねぇぞ?これから僕は最恐で最高の召喚獣を召喚する。近くにいたらおそらく死ぬぞ。だからカナメル、マツ、ドラ、てめぇらの転送魔術を使って全員で東ゲートに移動しろ」

ドラ「そもそもゲートの中に転送してしまえば良いんじゃないっすか?」

カナメル「あの壁の上にはドーム状に魔力遮断フィールドが貼られていて、壁の中には転送魔法は愚か、空から侵入することも出来ない」

ドラ「考えられてるんすねぇ」

ムー「お喋りは終わりだ、転送を開始しろ」




しかし返事がない、異変を感じたムーが振り返ると、そこにカナメル、マツ、ドラの姿はなかった。
代わりにサイボーグの男が一人立っていた。

「させませんよ」

サイボーグの男は姿を消したかと思うと、次はタクティス、フルネスが姿を消した。

ムー「魔力と気配を消してやがるのか、砂嵐の夜、僕とトゥールをワープさせたのはてめぇだな?」

ハヤシ「ご名答、私はサイボーグ、名はハヤシです」

危険を感じたズミがモモとダイスに戦車の中に入るように叫び、慌てて二人は戦車の中へ潜り込む、それと同時に戦車共々その場から消えた。

一瞬の出来事だった、気が付けばもうそこにはムーとハヤシしかいなかった。

ムー「全員を生存させなきゃいけなかったんだ、てめぇ奴等をどこに飛ばしやがった!!」

ハヤシ「適材適所に飛ばしました」

ムー「意味不明なこと言ってんじゃねぇ!!ハッ、僕と一騎討ちってか。残念だったな、それなら判断ミスだ、この中で僕が一番強い」

ハヤシ「存じております。だからあなたを一人残したんです」

ムー「残した?」

ハヤシ「はい、私はあなた方と戦うつもりはありません。私は命令違反をしています」

ムー「簡潔に説明しやがれ」

ハヤシ「私には時間がありません、友との約束を果たしました。後は、よろしくお願いします」

ムー「脳がぶっ壊れてんのかぁ?説明しろと言ってるんだ」

ハヤシ「ここで、あなたの、全力を出してくださ」

言い終える前に、ハヤシは爆発し、粉々になった。

ムー「、、、、、、何が起きてるんだ?」

一人残されたムー。

ムー「まぁ、別に全力を出せって言われなくても、今日は全力を出すつもりだよ。だって」

ムーは笑っていた。

ムー「トゥールとリリがやべぇって話だ!!」

ムーは練り上げていた魔力を解放した、すると空高くまで紫の光が伸びた。
そこから時計回りに特大サイズの魔法陣が描かれる。

ムー「僕の適性魔法は月だ、また月魔法を使うことになるとはなぁ!!!ハッ、まぁ一人だから良いか」

魔法陣が完成するとそれは青白く光り輝き、ゴッドタワーごと丸呑み出来るのではないかと思うほどに巨大な蛇が中から姿を現した。

ムー「月魔法極、裏召喚魔法、八岐大蛇!!!」

一匹かと思われたが、ゾロゾロと蛇は姿を現し、最終的には八匹の蛇が横並びになった。

魔法陣が消えた時、そこには首根っこが繋がった八匹の蛇の頭を携えた一体の怪獣がいた。

八岐大蛇はタクティスが作った山ですら覆い隠せず、山の上から帝国を覗き込んでいた。

「シャーーーーーーーー!!!!!!」

八本の叫声が大地を震わせると、地震と共にニョロニョロと前進を始める。
山は崩れ、巨体が帝国に恐怖を与える。

八岐大蛇は銃弾の雨にも大砲にもびくともせず、大口を開けて全てを喰らう。
その一口で戦車数両が簡単に飲み込まれていく。

そのままゲートも巨大な壁も何もかもあっさりと食べてしまい、ゴッドタワーを目指して蹂躙を始めた。
八岐大蛇が通過した道は核爆発でも起きたかのような惨劇だった。

壁の中は機械化が進んだ街があり、煙がモクモクと上がっていた。
もちろん中にも兵達が並んで銃を構えるも、なす術なく一瞬で食べられてしまう。

家は丸ごと飲み込まれ、住民達はパニックに陥っていた。

八岐大蛇が通った後の誰もいない道をムーはユラユラと優雅に浮いていた。

目から血の涙が流れていた。




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