神殺しの怪物と六人の約束

ヤマノ トオル/習慣化の小説家

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ヘイスレイブ奪還編

第103話 死刑執行

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ヘイスレイブ城 大広間

玉座に座すはアクザイア領主オガリョ、その横には元四天王のオダルジョーとホーリーの姿があった。

大広間に整列する大勢のヘイスレイブ兵の中に、ピーモはいた。

炎のマントがヘイスレイブ領に現れたことを知ったオガリョは明らかな焦りを見せ、オダルジョーへと助けを求めたのだった。

オガリョ「俺がヘイスレイブの王となるための手助けをすると言ったよな?」

オダルジョー「ふうぁ~、、うん、言ったね」

オダルジョーは魔女帽を目深に被り、あくびをしながら答えた。

オガリョ「カナメルがいたら俺は王にはなれない、あいつは俺を止めに来るはずだ」

ホーリー「どうしてそう思うのだろうか、私が知る限り、彼はこの国に思い入れなどなかったと思うが」

オガリョ「国のために怒ったりはしない、あいつが怒りを燃やすのは、私利私欲のためだけに秩序を乱す俺のような人間が現れた時だ」

オダルジョー「そうかもね、無の神から闇の魔力を分け与えて欲しいがために旧友を八つ裂きにしたなんて聞いたら、きっと怒るだろうね」

オガリョ「言うな!!絶対にそのことは奴には言うなよ?とにかく、今後俺はどうしたら良い?」

オダルジョー「殺しちゃえば?」

オガリョ「俺が?カナメルを?あいつは元四天王だぞ、流石に俺では勝ち目がない」

オダルジョー「闇の魔力があるじゃん、あんた無の神の力を甘く見てるんじゃない?身体の底から感じるでしょ?とてつもない力を」

オガリョは胸を押さえ、不敵な笑みを浮かべる。

オガリョ「ああ、、そうだよな、、、この力があれば、俺でもカナメルを殺れるか。。そうだよな」

オダルジョー「殺れるよ。どうせ殺るならさ、もう人質はいらないよね?」

オダルジョーが指を鳴らすと、四天王の椅子の上に糸で縛られたアンチェアが現れた。

オガリョ「!!、、、アンチェア」

ホーリー「次期王になるはずだった清らかな乙女、それを阻止する歪んだ恋心、、、、あぁ、、、エモい」

ホーリーは自らの身体を抱きしめるように腕を伸ばした、その顔は何故か火照っているように見える。

アンチェアはその小柄な身体で目一杯糸を解こうとするが叶わず、どうやら魔法を使えない状態らしい。

アンチェアはオガリョを睨みつけた。

オダルジョー「、、、眠い、、、、とりあえず殺しちゃうおうか、生き残られたら面倒だから」

オガリョ「待ってくれ!!!」

オガリョはアンチェアを庇うように立ち塞がった。

ホーリー「ここでまさかの急展開!!!かつての恋心に火がつき、悪役だった男は正義の味方となる!!あぁ、、あぁぁ!!!!!!昇天!!、、、」

ホーリーはその場に倒れ込んだ。

オダルジョー「何を待つの?」

オガリョ「どうせ殺すなら、、、、、」

オダルジョー「なら?」

オガリョ「一発やらせてくれよ」

オダルジョーは深い溜息をつき、四天王の椅子へと腰掛けた。

ホーリー「こんな大勢の人の前で夜のダンスパーティを始める気ですか?」

オガリョ「ダメか?良いよな?なぁ、アンチェア、、、死ぬ前に俺を味わっていってくれ、、ずっっっと、、こうしたかったんだ、ずっとだぞ、、、、へへへ」

オガリョはアンチェアの太腿に触れた。

ホーリー「まさにゲスの極み、愚の骨頂、最悪の中の最悪、、、、少し疲れたので私も座ります」

ホーリーも静かに四天王席に座った。

大勢のヘイスレイブ兵が見守る中、オガリョはアンチェアの耳を舐め出した。

突拍子もない展開に、思わず隣の兵へと目配せをする者や笑いを堪えている者もいた。

どう見ても不自然な空間だが、声をあげる者はいなかった。

オガリョの荒い呼吸だけが聞こえる。







ピーモは震えていた。

尊敬するアンチェアがこんなに大勢の人の前で辱めをうけている。

杖が折れるのではないかと思うほどに力んでいた。

しかし、今ここで自分に出来ることはない。

大勢の兵を相手にすることも、オガリョに勝つことも、元四天王の二人と対峙することも、全て勝算がない。

アンチェアを助けるために唇を噛みながらオガリョの元で過ごしてきた。
アンチェアを助けるチャンスをずっと見計らってきた。

今がその時なのに、動くことが出来ない。

100%、無駄死になってしまう。

ピーモの震えは止まらなかった。

「おい、笑いすぎだぞ、声は出すなよ?」

隣の兵が小声で話しかけてきた。

ピーモ「やめろ」

「シー!!声は出すなって、流石にやばいぞ」

ピーモ「やめろ!!!!!!!!!」

ピーモの声が響き渡る。

大広間にいる全ての人間がピーモを見た。

オダルジョー「ふわぁ、、、ん?」

その声でオダルジョーは目を覚ましたようだ。

オガリョは振り返り、ピーモを睨みつける。

オガリョ「おいそこの魔導兵、その言葉は俺様に向けて放ったということで間違いないな?」

ピーモの身体から汗が噴き出す。

オガリョ「なんとか言ったらどうなんだ?あぁん!?」

オガリョは怒りを露わにしている。

ピーモ「やめろとお前に言ったんだ、オガリョ!!アンチェア様から離れろ!!!」

声が震えている、身体も震えている。

アンチェア「、、、、ピーモ?、、、」

アンチェアの目から涙が溢れた。

ピーモ「アンチェア様!!!すみません、、、お助けすること叶わず、、私は、、、私は、、」

ピーモはフードを外し、アンチェアを見た。

オガリョ「皆の者!!!そいつは死刑だ!!魔法光線による一斉放出を命ずる!!」

ヘイスレイブ兵達は一斉にピーモへと杖を向けた。
隣の兵士も杖を向けていた。

ピーモ「ごめん、、、マツ、、ドラ、、、私先に行くよ」

杖先へと魔力が集まる。

ピーモは目を瞑った。




「流石に見過ごすことは出来ませんわね」

誰かの声でピーモは目を開けた。

突如床が沼へと変わり、ヘイスレイブ兵達は地面へとめり込んでいく。

「なんだこれは、、うわぁ!!!!」

兵達は魔法を行使し何とか抜け出そうとするが、突然の出来事にパニックを起こし、有効な魔法を行使出来ない。

そうこうしているうちに沢山いたヘイスレイブ兵達は全員沼へと沈みきってしまった。

残ったのはピーモと一人のヘイスレイブ兵。
玉座にはアンチェアとオガリョ、オダルジョーとホーリーがいた。

ピーモ「、、、、あなたは?」

ピーモは残ったヘイスレイブ兵を見つめる。

「タイミング的には悪いんだけど、あなたを死なせちゃマツとドラに怒られるだろうし、そもそもこの状況で見過ごしたら、きっとカナメルさんは怒るだろうし」

ヘイスレイブ兵はフードを外した。
栗色の髪がなびいた。

ピーモ「ナミチュ!!!!」

その兵はカナメルの副官でありピーモと同期のナミチュだった。

ナミチュ「久しぶりですわね、ピーモ。私とは卒業以来かしら?実は私も潜入してたの」

ピーモ「助けてくれたんだね、、ありがとう」

ナミチュ「お礼は後でしっかりもらうから覚えておいてね」

ピーモ「え、、うん」

オガリョ「何者だ貴様!!俺様の駒に何をした!?」

オガリョはナミチュに怒鳴りつけた。

ナミチュ「カナメル隊副官、ナミチュです。ちなみに大きな声を出す人は苦手ですわ」

オガリョ「副官だと!?」

オガリョは明らかな動揺を見せ、オダルジョーとホーリーへと助けを求めた。

オダルジョー「そういえば、そんな子いたね」

ホーリー「個人的には夜のダンスパーティーを観覧したいので、彼女の抹殺を希望します」

オダルジョー「何でも良いけど暇だし、やっちゃおうか。じゃあ王様、ダンスパーティー楽しんで」

オガリョ「絶対に俺に近付けるなよ!!」

オガリョはアンチェアへと向き合った。

ナミチュ「ピーモにお願いがあるの、風術で最軽量化出来る?」

ピーモ「出来るよ」

ナミチュ「じゃあこの鳩に掴まって、この鳩はカナメルさんの元へと飛ぶから、カナメルさんに会ったら次は風術をカナメルさんにかけてくれる?」

ナミチュは伝書鳩を召喚した。

ピーモ「でもナミチュは?」

ナミチュ「私は四天王の座を奪い取りに来たのよ」

ピーモ「そんなの無茶だよ!!」

ナミチュ「無理だった場合を考えて、カナメルさんを呼ぶのよ。鳳凰を召喚したらコスパ悪いし、あの人は炎術以外使えないんだから、あなたが飛んでいくのがベストなのですわ」

ピーモ「分かった、、行ってくる!」

ナミチュ「行ってらっしゃい」

伝書鳩とピーモは飛び立った。



ホーリー「元とはいえ四天王二人を相手にするなんて無謀である。たかが副官の分際で、いや、たかがは悪い言葉である、印象が悪い、ということは私が悪い、私はダメな人間なんだ、いつもこうやって浅はかな言動をしてしまう」

ホーリーは取り乱し始めた。

オダルジョー「大丈夫だから、落ち着きなよホーリー。でもホントの話、無謀だと思うよ。待っててあげるから君もカナメルを呼んできなよ」

オガリョ「何!?カナメルを呼んでくるだって!?ダメだ!!そんなことはさせない!!」

オガリョがオダルジョーを睨みつける。

オダルジョー「どうせカナメルを殺すんでしょ?来てくれた方が良いじゃん」

オガリョ「そうだが、、、ダメだ!!!あの女は死刑だ、俺を王にしたいのなら命令に従え」

オダルジョー「ふわぁ、、、、まぁいいか。じゃあ始めようか、カナメルの副官。とりあえず私がやるよ、ホーリーはダンスパーティー観覧してれば?」

ホーリー「ええ、ええ、ええ、うん」

ナミチュはニコっと笑った。

ナミチュ「お二人様でかかってきやがれくださいませ、元四天王様」

その言葉を聞き、ホーリーが笑った。

ホーリー「お望みならば、、、、、」

ホーリーは大鎌を手に飛び出した。
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