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マイケルの自空間編

第155話 悲しき獺祭

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妖魔を倒し、民衆を助けている最中。
悠然と歩くタケルに出会った。

トゥール「タケルさん!!」

タケル「どうだ?妖魔を倒せそうか?」

トゥール「このくらいの妖魔であれば、今の自分なら余裕ですね」

タケル「だろうな」

タケルは誇らしげにトゥールを見た。

トゥール「まだ妖魔は現れそうですか?」

タケル「どうだろうな。数は減ってきているように見えるが」

その後もトゥールとタケルは街を駆け回ったが妖魔の姿はなく。
民衆も様子を伺うように外へと出てきていた。

風の刃の活躍を讃えるように民衆が平伏す。

タケルはその真ん中を偉そうに歩いている。

トゥール「、、、、、」

表情が曇っているトゥールへとタケルは声をかけた。

タケル「どうした?」

トゥール「いや、、、なんか」

民衆は地面に額をつけ、こちらを向いている。
その肩は震えていた。
隣には家族なのだろうか?血だらけの死体が転がっている。

トゥール「人が死んでるんだ、俺らは何も偉くない。力不足だ」

タケル「お前は何か勘違いをしているようだな。誰が死のうが知ったことではない。俺達は妖魔を倒すだけだ」

トゥール「でも、民衆は俺達に頭を下げている」

タケル「妖魔を倒す力のない者に代わって俺達が命を削って妖魔を倒す。奴等が頭を下げるのは当たり前のことだろ」

トゥール「、、、、上手くは言えない、けど。何か違和感がある」

タケル「すぐに慣れるさ。俺達は正義の味方じゃない。誰も救うことなんて出来ない」

トゥール「そうかもしれない。でも全てを救えるように努力する必要はある。皆、風の刃に期待してくれてるんだから。次は護ってくれるって、信じてくれてるから、、、、家族が横に転がっていても、涙を堪えながら頭を下げているんだろ」

タケル「何を感情的になってんだ?北風になる男ならば、細かいことを気にするな。たった一つの命に執着するな。身を滅ぼすぞ?」

トゥール「たった一つの命、、、だからこそ大切なんだろ。家族にとって、自分にとって、命は一つしかないんだから」

タケル「無意味な議論だな」

「う、うわぁあ!!!!!」

その時、地面から大量の妖魔が現れた。

トゥール「まだ終わってなかったのか!!!皆!!建物の中へ!!」

民衆は再度パニック状態に陥る。

妖魔が一人一人を喰らっていく。

タケルは目を閉じた。
そして静かに、しかしハッキリと呟いた。

タケル「トゥール、お前にこの技を見せてやる。見て学べ。技だけじゃなく、風の刃になるということがどういうことなのか、教えてやる」

トゥール「え?」

タケル「伏せろ」

タケルの身体から風が溢れ出る。

タケル「居合、、、旋風、、、」

その風が一気に鞘へと吸い込まれた。

タケル「獺祭!!!」

タケルは刀を抜きながら片足を軸にその場で一周回った。

カチャン。

刀を鞘へと納めたときには、360度全ての妖魔、人間、建物が真っ二つになっていた。

あたりは血の海となり、反射的に伏せていたトゥールは血のシャワーを浴びた。

何が起きたのか分からなかった。
自分の頭の上を風の斬撃が通り抜け、気付いたら全てが血だらけだったのだ。

タケルは何事もなかったかのように、屍の道を歩き出した。

トゥール「何を、、やってんだよ」

トゥールは平伏しながら、動けずにいた。

タケル「何をって、妖魔を殲滅したんだ」

トゥール「!!!!」

タケルはとぼけたように説明を始めた。

タケル「今のが獺祭という俺様のオリジナルの技だ。自分の周囲全てのものを真っ二つにする、奥義だ」

トゥール「そんなことはどうだっていい!!!何故人を斬る必要があったのかと聞いているんだ!!」

トゥールは立ち上がった。
その目には確かな怒りが宿っている。

タケル「いいか、この場で妖魔を取り逃せば被害は拡大する。花の城へと到達する可能性もある。言っただろ?風の刃は妖魔を倒すことが仕事だ。勘が悪く、風の餌食になってしまうような弱小者は死ぬ。だが民衆はそれでも俺様達を崇める。それだけの話だ。良いも悪いもない、そういう仕組みになっているという話だ」

トゥール「ああ、そうか。じゃあ俺がその仕組みとやらを変えてやる。民衆の礼にちゃんと応えられるような、真っ当な組織にしてやる。北風にでも何でもなってやる!!ついでにあんたも超えてやる。技を見せてくれてどうもありがとうございました」

トゥールは一人、まだ妖魔がいないか街を駆け回った。

気が付けば奥歯を噛み締めていた。

胸の奥の悔しさが、怒りが、鎮まることはなかった。


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