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決戦のグレイス城編

第198話 それでも、それでも

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リョーガ「仕方ありませんね、グレイスウォールの破壊の前に君を殺す必要がある」

リョーガはダイスへと槍を向けた。

ダイス「マジで一騎討ちになっちまった!!」

リョーガ「君は弓と木属性魔法を使うようですね、良いでしょう。弓使いの攻撃隊長は沢山いますので、その中でも最強と言われたアルテミスの弓で仕留めてあげましょう」

リョーガは槍を空間に放り投げ、新たに紫色の大弓を取り出した。

その指にはキラキラと指輪が光っている。

ダイス「その指輪が倉庫になってるのか」

リョーガ「倉庫?いやいや、宝庫と言って欲しいですね。この指輪は歴代の攻撃隊長と守備隊長の武具が封印されてあるグレイスの宝具です。残念ながら君の使う木の弓のような安っぽい物はありませんけどね」

ダイス「重要なのは武器じゃねぇ、アイディアだよ」

ダイスはいつかムーに言われた言葉を思い出した。

「木の弓、木の弓矢を使え。そうすればきっと猿知恵が働く」

その猿知恵を肯定してくれたのはカナメルで知恵を形にする訓練に付き合ってくれたのがリリさんである。

ダイスは自分のことを強者とは思っていない、しかし今までやってきたことに間違いはない。

強者である師達には到底及ばない、それでも自分にしか出来ないことがあると確信していた。

リョーガ「魔術師ならば魔術の鍛錬を誰よりもしなければならない、戦士ならば武具の鍛錬を誰よりもしなければならない、さらに魔術にも武具にも種類がある、その一つ一つのエキスパートになってこそ戦場にて生き残ることが出来るのですよ」

この男はきっと途方もない時間を武具の鍛錬に費やしてきたのだろう、槍や剣の扱いが素人の動きじゃなかった。

指輪の扱いも簡単ではないということを、創造魔法を鍛えてきた今のダイスにならば理解出来る。
あの指輪は設計図に過ぎない、実際に武具を召喚するには術者の知識とイメージ、それに足る魔力が必要なはずだ。

ダイス「弓の扱いも魔力量もお前の方が上ってわけか」

リョーガ「そうですね、基本的に侮らないようにはしていますが、君は俺より弱いのは確かですね。戦意は失せましたか?」

ダイスはニヤリと笑った。

ダイス「いや、でもやっぱりアイディアと創造魔法の練度は俺の方が上だな」

リョーガ「そのアイディアとやらが戦力に何の関係があるんですかね?」

ダイス「お前、炎のマントと戦ったことがあるか?」

リョーガ「炎のマント?ああ、元四天王の人ですか」

ダイス「そう、あいつは準備の天才なんだよ」

リョーガは興味がないと言わんばかりに首を傾げた。

リョーガ「ゴシップはその辺にして、殺し合いを始めましょうか」

ダイス「だーかーら、もう始まってんだよってハナシ」

ダイスが指を鳴らすと、あらゆる場所から大きな花が咲いた。

リョーガ「これはヘイスレイブの樹海に咲くと言われている毒花、、、」

ダイス「そう、ポイズンフラワー。でもその中に稀にデスフラワーという希少種が存在するんだ」

花弁が赤く染まり出す。

そして、それらは液体のようなものを噴出し始めた。

リョーガは空間から分厚いマントを取り出し、身体を覆った。

液体はマントに付着するとジュワジュワと音を立てて蒸発し出した。

リョーガはすぐにアルテミスから紫色の光線を放ち、デスフラワーを消滅させた。

リョーガ「毒花は皮膚に炎症を起こすと言われ、その後数日間発熱に苦しまされると聞きます。ですがこの花は骨まで溶かしてしまいそうですね」

ダイス「そう!!これがデスフラワー、、、、って何だよそのマント!!おかしいだろ!!」

無傷のリョーガを見てダイスは落胆した。

リョーガ「このマントは守備隊長ディアマンテの鋼鉄のマントです。あらゆる攻撃を無力化する魔法のマント」

ダイス「そんなに便利な武具を沢山持ってるなら、皆に分け与えたらどうだ?強い集団を作れそうだよな」

リョーガ「武具を扱う者が未熟であれば、どんなに良い武具を持っても意味がない。興味があればこのアルテミスを君に差し上げましょうか?」

ダイスの目が一瞬キラキラと輝いた。

しかしすぐに首を横に振って正気を取り戻す。

ダイス「俺にはそんな物騒な物扱えないや。この世には全てを極めるすげぇ奴もいるけどさ、凡人にはそれは無理だ。でも何か一つ極めることなら努力次第で何とかなると思うんだ。この木の弓の扱いに関しては俺の右に出る者はいない」

ダイスは胸を張って言い切った。

リョーガ「そうですか、では」

リョーガは空に向かってアルテミスを引き絞った。

光の矢を放つとそれらは空中で分裂し、一斉にダイスめがけて飛んできた。

リョーガ「アルテミスの矢は実体を持たない、しかし触れたものを焼き切る」

ダイスは木の矢に魔力を込め、四方八方に放った。

矢が触れた地面や壁から木々が生える。
それらはアルテミスの光の矢を防ごうとしたが、木々は焼き切れ、光の矢は速度を落とさずに向かってくる。

ダイスは転がり、走り、光の矢から逃げるが光は執拗に追いかけてくる。

それら一つ一つが意思を持っているかのように動いている。

リョーガ「生物じゃなくても自在に操ることが出来る、これが鍛錬の極みですよ」

光の矢は分裂を繰り返し、その数を増やしていく。

気がつくと逃げ場はなく、ダイスは光の矢に囲まれていた。

ダイスは大口を叩いた自分を恥じた。

ツグルは何度も強敵と戦い、打ちのめされながらも先へ先へと歩みを進めた。

ダイスはそうじゃなかった。

いつも誰かが身を削って守ってくれた、安全な場所から援護という名の盾を構えて隠れていたのだ。

自分でも分かっていた。

そもそも弓という武器を選んだのは自分の弱さ故の選択だったのかもしれない。

この攻撃隊長は全ての武器の扱いを極め、いくつもの死線を超えてきたのだろう。

逃げてきた自分とは経験値が違いすぎる。

それでも、それでも一矢報いたかった。

ツグルやモモに自分も出来るんだというところを見せたかった。

主役にはなれない、それでもこの物語の重要人物になりたかった。

逃げてきた瞬間は多々ある、それでも自分なりに頑張ってきたつもりだった。

後のことは頼んだ、ツグル。

心の中でカッコつけて言ってみた。

その時、頭の中にツグルの声が響いた。

「ここでお前達に死なれたら、俺はこの先笑って生きていける気がしない」

ツグルとセリア、モモとの思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

ダイス「そうだな、俺が死んだら皆笑えなくなっちまう」

そう思ったのと同時に身体の底が熱くなり、肌寒いグレイスの夜にダイスはじんわり汗をかいていた。

アルテミスの光の矢に貫かれたのだろうか?

ダイスは眩い光に包まれた。











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