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13話 エゾンは思考を回す、リアスは空回る1

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ギルドを後にした二人は、エゾンの家に向かうことにした。

ゴブリン討伐の洞穴は全く違う方向で、二人の足でもダースからは半日かかる。
リアスがいれば夜遅くなろうと危険はないが、リーエといっしょでは流石に無理だろう。
結果、ゴブリン討伐には明日の朝発つことにしたのだ。


「やっぱリーエはすっごく賢いよね。自分でちゃんとボトル持てちゃうし、暗闇でも静かだし、ギルドでもちゃんと大人しくて、みんなに愛嬌振りまいてたし……」


道すがら、リアスはリーエの自慢話を一人で語り続けているが、それを聞くエゾンは上の空だ。
エゾンが無口なのはいつものことだが、今、彼は他に考えることがあって全く聞いていない。

リアスが依頼の手続きをしている間、エゾンは数少ない顔を覚えているハンター・パーティーを見つけ、最近のダンジョンの様子について聞いていた。

滅多に話すことのないエゾンの唐突な質問に、最初は警戒気味だった面々も、エゾンからリアスの抱える赤子とその宝箱の話を振ると、とたん凄い勢いで食いついてきた。


「本当か!?」
「ああ、そういえば裏の取引所で宝箱見たって誰か言ってたよな」
「え、あれって他のダンジョンからの持ち込みじゃなかったのかよ?」
「へー。あの枯れダンジョンで宝箱ねぇ。そりゃまた景気のいい」
「いや、でまかせじゃねーのか?」
「あのダンジョンで最後に宝箱でたの、いつだよ」
「俺のじいちゃんの頃がさいごじゃねぇか」


もう酒が入っているのか、少し赤らんだ顔を輝かせて、それぞれが知る宝箱の話に花を咲かせ始める。
やはりダンジョンハンターにとって、宝箱というのはそれだけ魅力的なのだ。


「数年前、サージャが宝箱の魔物が出るって噂してなかったか?」
「いやー、あれはもっと北のダンジョンの話じゃなかったか?」
「あー、そりゃあれだ、青光苔が良く取れる沼ダンジョンの話だろ、確か奥にゴブリンどもが──」
「ほかに『最近』『あのダンジョンで』宝箱を見つけたって話はでてないのか?」


酒のせいか脱線していこうとする会話をエゾンの静かな声が遮った。
それに一瞬全員が白けた顔をするも、すぐにそれぞれ首を横に振る。


「でもエゾン、それは聞く相手を間違えてるぜ」


だがすぐに一人が酒を煽って他の面々を見回し、笑いながら続けた。


「俺たち含め、この辺りのハンターじゃ潜っても5階層程度だし、普段は1~2階で魔鉱石や薬草集めしてるからな」
「7階層とか、中級しかでねーんだろ?」
「ああ、ムリムリ。リアスくらい腕がたたなきゃわりに合わねーよ」


それに声をたてて笑いながら全員口々に同意する。


「でも、宝箱が出たとなると他の街のやつらが来るかもな」
「どうせギルドの奴らから話は広がってるだろうし」
「じゃあその前に一度潜ってみるか」
「まあ7階層といわず、まずは5階まで──」


この辺りで声をかけてきたリアスとその場を立ち去ったエゾンの後ろでは、酔を深めて話をすすめる男たちの声が響いていた。

アイツらの祖父の頃ということは、軽く見積もっても50年は経っている。
大体が途中で宝物が出なくなるダンジョン自体、あまり多くない。
王都にいたエゾンでさえ、他ではダンジョン内部が崩れた場所や、ボスが消滅したダンジョン以外では聞いたことがなかった。
その点、あのダンジョンでボスを倒したという話は一度も聞いたことがない。

あのダンジョンは本当に枯れていたのだろうか?


「エゾン、俺の話、聞いてるか?」


思考の海を漂いつつ歩いていたエゾンが、少しムッとした顔でこちらをみるリアスに気づいて問いかえす。


「あれは俺に聞かせているつもりだったのか?」
「ほかに誰がいるんだよ」
「てっきりお前の大きな独り言だと思っていたぞ」
「なんで俺がずっと独り言言いながら歩かなきゃなんねーんだよ!」


エゾンにはリアスの言い分が理不尽にしか思えないが、リアスにしてみればなぜエゾンがリーエの話を聞きたがらないのかがわからない。

と、そこで立ち止まったリアスがすぐ目の前の店を指さす。


「それより、ちょっとそこの店よってくぞ」
「なぜ」
「なんかリーエの服、小さい気がするんだよな」


そりゃそうだろう。

心の中でエゾンが同意する。だが、それを答える気になれない。

いやまて、ちがう。
これは──


「リーエってめっちゃよくミルク飲むから人の何倍も育つの早いのかも」


リアスは最初から全く疑問を持っている様子がない。
コイツの場合これは多分全く悪気もないし、自然と出ているものだ。

だが、俺は多分、違う。


「いや一回家に帰ろう」


突然厳しい顔つきでそれだけを伝えたエゾンは、リアスを振り返らずに足早に岐路へとついた。
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