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57話 ダークエルフの幼女1
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エルフの里において、火は忌むべきものであるらしい。森の中で暮らすエルフにとって火災は生活の全てを失うことにつながるからだ。
また、同様に褐色の肌も忌むべきものとされている。白い肌のエルフからしたら火を連想させるとか言っていた。何故、私たち三姉妹が忌むべき肌で生まれてきたのかはわからない。しかしながら、自らの出自を憂いても仕方ない。
そうして、私たち三姉妹に任された仕事は火竜様の巫女として、その身を捧げることだった。これで里の役に立つことができる。いや、この気持ち悪い里から出ることが出来る。
「な、何で私たち三姉妹だけがこんな酷い仕打ちを受けなければならないのですか!」
一番上の姉上が長老に助けを求め懇願していた。この里に残る方が余程、気が滅入ると思うのだが、何でそこまで嫌がるのだろうか。
「せ、せめて、一番下のこの子だけでも助けてもらえないでしょうか」
二番目の姉上まで、こんなことを言い出す。私の意見など、まるで無視されてしまっている。私はとにかくこの里から出たい。もちろん、その先にあるのが惨めな死だとしてもだ。
「姉上、もういい……。私は早くここを出たい」
私たちを生んだ両親も、下を向いたまま何も言わない。早くこの時間が過ぎればいいのにぐらいにしか思っていないのだろう。生まれてから愛情らしいものは何も受け取った記憶がない。それでも、ここまで私たち姉妹を生かしてくれたことだけは感謝しよう。
「シノン……」
シノン。それが私につけられた名前だ。といっても、呼ばれるのは二人の姉からだけだ……。
私たち姉妹が連れていかれた場所は、コルモ火山だった。ここには、古くから火竜が寝床にしている巣があるのだという。荒ぶる火の神を静めるために巫女となり、身の回りのお世話から、場合によっては自らを食料として捧げることになるのだろう。
「この縄をつたって下へ降りていく。火竜様が戻ってくる前に急ぐぞ。俺に続いて来い」
ここまでの道のりを案内してくれた里の者が周囲を見渡しながら急がせる。どうやら火竜様は、外出されているようで潜り込むには千載一遇のチャンスとのことだ。
「よし、では俺たちは里に戻る。お前たち三人は巫女の役割をしっかり果たすのだぞ」
縄は引き上げられ、戻ろうにも帰る手段もなければ、もちろん帰る場所もない。二人の姉上は絶望の表情を浮かべていた。
「シ、シノン、どこへ行くの?」
「奥がどこまで続いているか調べる」
「そ、そうね。外へ出られる可能性があるかもしれないものね」
そんな可能性はないだろう。空気も淀んでいて、流れがまったくない。でも、あえてそれを口に出すことはしない。姉上が、がっかりするだろうから。
奥へと進んでいくと、一際大きな広間が出現する。ここで火竜様が寝ているのだろう。広間のあちらこちらで白い骨が落ちている。これが、先代の巫女のものであるのか、ただの食事の残骸なのかはわからない。
「シノン、見ちゃダメよ……」
二番目の姉上が、震える手で私が骨を見ないようにと目を塞いでくれる。とても優しい姉だ。難しいとは思うけど、出来ることなら少しでも長生きをしてもらいたい。
「ここで行き止まり……。やっぱり、何もなかったわね……」
「縄はないけど、火竜様が戻ってくる前に脱出しましょう。あの崖を登りきるしか、私たちに生き残る道は残されていない」
どうやら、姉上二人とも脱出を選択するようだ。この絶壁を登るというのは少し無理がある。一番上の姉でも可能性は低い。
「私がシノンを抱えて登る。シノン、私の体にしがみついて絶対に離さないでね。きっと登りきってみせるわ」
一人でも可能性が低そうなのに、私を抱えたままではその可能性はゼロに近いはずだ。
「姉上、私はこの場所に残ります。私を抱えたままでは登りきるのは難しい。姉上が一人で行き、上から縄を下ろしてくれる方が可能性が高い」
「シ、シノン。で、でも……」
「私からもお願いします。三人が助かるにはシノンの言う方法が一番可能性が高そうです。寝床から入口まではそれなりに距離もあります。火竜様が戻ってきても、しばらくはシノンと共に身を潜めましょう」
火竜様が私たちに気づかない訳がないので、隠れることなど無意味だろう。
「わ、わかったわ。必ず戻ってくるから、それまで生きて待っていて」
そうして、断崖絶壁を登っていった一番上の姉だったが、私たちは相当運が悪いのだろう。ちょうど巣へ戻ってきてしまった火竜様のブレスで敢えなく火口へと落ちていった。ブレスの時点で既に死んでいただろう。それは、とても呆気なく、まるで羽虫でも殺すかのように簡単に落とされていった。
「お、お姉さま!!! シ、シノン、下がって! あ、あの、岩影に隠れるのよ」
「姉上は……」
「わ、私は火竜様にシノンの存在を疑われないように、少しでも時間を稼ぐ。いい、シノン、あなただけでも長く生きて」
巣の入口に入ってきた火竜様は激昂していた。それは、姉上がいたからなのか、はたまた自身の尻尾がスパッと斬られたように失くなっていたからなのかはわからない。
二番目の姉上は、手を広げるようにして火竜様の前に立ち、迎え入れた。もちろん、その上半身は一瞬にして食い千切られた。壁一面を血飛沫が舞い、怒り狂った火竜様は残った姉上の下半身を何度も何度も爪で切り裂いていた。
また、同様に褐色の肌も忌むべきものとされている。白い肌のエルフからしたら火を連想させるとか言っていた。何故、私たち三姉妹が忌むべき肌で生まれてきたのかはわからない。しかしながら、自らの出自を憂いても仕方ない。
そうして、私たち三姉妹に任された仕事は火竜様の巫女として、その身を捧げることだった。これで里の役に立つことができる。いや、この気持ち悪い里から出ることが出来る。
「な、何で私たち三姉妹だけがこんな酷い仕打ちを受けなければならないのですか!」
一番上の姉上が長老に助けを求め懇願していた。この里に残る方が余程、気が滅入ると思うのだが、何でそこまで嫌がるのだろうか。
「せ、せめて、一番下のこの子だけでも助けてもらえないでしょうか」
二番目の姉上まで、こんなことを言い出す。私の意見など、まるで無視されてしまっている。私はとにかくこの里から出たい。もちろん、その先にあるのが惨めな死だとしてもだ。
「姉上、もういい……。私は早くここを出たい」
私たちを生んだ両親も、下を向いたまま何も言わない。早くこの時間が過ぎればいいのにぐらいにしか思っていないのだろう。生まれてから愛情らしいものは何も受け取った記憶がない。それでも、ここまで私たち姉妹を生かしてくれたことだけは感謝しよう。
「シノン……」
シノン。それが私につけられた名前だ。といっても、呼ばれるのは二人の姉からだけだ……。
私たち姉妹が連れていかれた場所は、コルモ火山だった。ここには、古くから火竜が寝床にしている巣があるのだという。荒ぶる火の神を静めるために巫女となり、身の回りのお世話から、場合によっては自らを食料として捧げることになるのだろう。
「この縄をつたって下へ降りていく。火竜様が戻ってくる前に急ぐぞ。俺に続いて来い」
ここまでの道のりを案内してくれた里の者が周囲を見渡しながら急がせる。どうやら火竜様は、外出されているようで潜り込むには千載一遇のチャンスとのことだ。
「よし、では俺たちは里に戻る。お前たち三人は巫女の役割をしっかり果たすのだぞ」
縄は引き上げられ、戻ろうにも帰る手段もなければ、もちろん帰る場所もない。二人の姉上は絶望の表情を浮かべていた。
「シ、シノン、どこへ行くの?」
「奥がどこまで続いているか調べる」
「そ、そうね。外へ出られる可能性があるかもしれないものね」
そんな可能性はないだろう。空気も淀んでいて、流れがまったくない。でも、あえてそれを口に出すことはしない。姉上が、がっかりするだろうから。
奥へと進んでいくと、一際大きな広間が出現する。ここで火竜様が寝ているのだろう。広間のあちらこちらで白い骨が落ちている。これが、先代の巫女のものであるのか、ただの食事の残骸なのかはわからない。
「シノン、見ちゃダメよ……」
二番目の姉上が、震える手で私が骨を見ないようにと目を塞いでくれる。とても優しい姉だ。難しいとは思うけど、出来ることなら少しでも長生きをしてもらいたい。
「ここで行き止まり……。やっぱり、何もなかったわね……」
「縄はないけど、火竜様が戻ってくる前に脱出しましょう。あの崖を登りきるしか、私たちに生き残る道は残されていない」
どうやら、姉上二人とも脱出を選択するようだ。この絶壁を登るというのは少し無理がある。一番上の姉でも可能性は低い。
「私がシノンを抱えて登る。シノン、私の体にしがみついて絶対に離さないでね。きっと登りきってみせるわ」
一人でも可能性が低そうなのに、私を抱えたままではその可能性はゼロに近いはずだ。
「姉上、私はこの場所に残ります。私を抱えたままでは登りきるのは難しい。姉上が一人で行き、上から縄を下ろしてくれる方が可能性が高い」
「シ、シノン。で、でも……」
「私からもお願いします。三人が助かるにはシノンの言う方法が一番可能性が高そうです。寝床から入口まではそれなりに距離もあります。火竜様が戻ってきても、しばらくはシノンと共に身を潜めましょう」
火竜様が私たちに気づかない訳がないので、隠れることなど無意味だろう。
「わ、わかったわ。必ず戻ってくるから、それまで生きて待っていて」
そうして、断崖絶壁を登っていった一番上の姉だったが、私たちは相当運が悪いのだろう。ちょうど巣へ戻ってきてしまった火竜様のブレスで敢えなく火口へと落ちていった。ブレスの時点で既に死んでいただろう。それは、とても呆気なく、まるで羽虫でも殺すかのように簡単に落とされていった。
「お、お姉さま!!! シ、シノン、下がって! あ、あの、岩影に隠れるのよ」
「姉上は……」
「わ、私は火竜様にシノンの存在を疑われないように、少しでも時間を稼ぐ。いい、シノン、あなただけでも長く生きて」
巣の入口に入ってきた火竜様は激昂していた。それは、姉上がいたからなのか、はたまた自身の尻尾がスパッと斬られたように失くなっていたからなのかはわからない。
二番目の姉上は、手を広げるようにして火竜様の前に立ち、迎え入れた。もちろん、その上半身は一瞬にして食い千切られた。壁一面を血飛沫が舞い、怒り狂った火竜様は残った姉上の下半身を何度も何度も爪で切り裂いていた。
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