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1巻
1-3
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「うおりゃあ!」
商人たちを守るように割って入っていくオウル兄様は、その類稀なるスピードで盗賊たちを翻弄していく。盗賊の数は多いが、これならばすぐに押さえ込めるだろう。
オウル兄様の活躍に目を奪われ、ちょっと目を離していた隙に、風を切るように矢が飛んできて僕の前まで来る。
「クロウお坊っちゃま、油断は禁物でございます」
「うおお、す、すまない、セバス」
飛んでくる矢をどうやって剣で斬り伏せるのかは見ていても理解できないが、何はともあれ助かった……
ここは、考えごとをしていられるような緩い場面ではない。命懸けのやりとりをしているんだよね。
さて、さすがに剣術が微妙な僕が相手をするなら……弓を扱うあの二名の盗賊がいい。
決して、攻撃されたから根に持っているわけではない。
今度はこちらの番だ。
「セバス、僕はあの弓士を狙う。合図をしたら、突っ込んでもらえるかな」
「何かされるのですね。かしこまりました、クロウお坊っちゃま」
盗賊との戦闘中だというのに、とても楽しそうな顔をするセバス。オウル兄様といい、まったくその気持ちが理解できない。この戦闘狂め。
「錬成、空気砲!」
ちょっとした子供だましのような攻撃力しかないが、当たり所さえ押さえておけば体勢を崩すぐらいは容易にできる。
「セバス!」
「はい、クロウお坊っちゃま」
透明の攻撃は盗賊の頭部をしっかりとらえている。人間の頭というのはもちろん急所であり、重量もある不安定な部分だ。
想定外の攻撃を頭にくらってしまえば、大抵の人間はそのまま後ろに倒れてしまう。
無色透明万歳!
戦場で倒れた人間を沈黙させるのに、セバスほどの実力者であれば秒も必要でない。
あっさりと後ろ手に縛り上げられており、一瞬で弓は破壊されていた。
オウル兄様の方を見ると、あちらもどうやら戦闘が終了しているらしく、そもそも僕の出る幕があったのかと悩みたくなるほどに片付いていた。
武器を捨て命乞いをする盗賊を見るに、オウル兄様の剣技を見て、ほとんどの者が降参してしまったのだろう。
「ふあぁ、た、助かりました。オウル様、クロウ様、お助けいただきありがとうございます。このスチュアート、恩返しできるよう精進いたします」
ブルーミン・スチュアート。彼はエルドラド家お抱えの商人で、バーズガーデンと王都ベルファイアを中心にその周辺を巡るキャラバンを組む商隊の代表。
屋敷でも何度か会ったことのある、少しぽっちゃりとした笑顔の眩しいおっさんだ。
今後、領地を改革していくうえで力を貸してもらいたい人間でもあるので、ここでスチュアート商会に貸しを作れたのはラッキーとも言える。不謹慎だけどもね。
「ああ、いったいどのように感謝を申し上げれば良いのでしょう」
僕たちがここを通らなかったら商隊の荷物は全て持ち去られていただろう。いや、下手したらスチュアートの命だってあったか微妙なところだ。
そんなスチュアートに対して、オウル兄様が僕との間を取り計らってくれた。
「礼ならクロウに言ってくれ。この場におけるボスはこいつでな、商隊を助ける判断もクロウがしたんだよ」
「おお、そうでございましたか。クロウ様、ありがとうございます。ボスということは、あの噂は本当でございましたか」
「噂? それはどのような噂か、僕も知りたいけど」
「い、いえ、それは、その……」
口を濁すスチュアートに僕も苦笑いだ。
「貴族でありながら、不遇スキルを授かってしまい、辺境の地に飛ばされた……ってところかな?」
「申し訳ございません。私どもは、バーズガーデン周辺の情報については特に重点的に調べております。数日前からのエルドラド家の動きを見るに、噂は確かではないかと判断しておりました」
僕らがネスト村に向かうために用意された荷物。その中には新しく買い入れた品物もあるだろうし、きっと商会に注文が入っていたのだろう。
商流を押さえているスチュアートからしたら、わかりやすい話だったのかもしれない。
「王都へ行きスキルを授与されたはずの僕の情報、それからエルドラド家の商会への注文状況に鑑みての判断ということかな」
「おっしゃる通りでございます。やはり、クロウ様はどこかの領地を任されるということなのですね」
「うん、魔の森近くのネスト村が僕の行く場所だよ」
「ま、魔の森でございますか……それはまた、わかりやすく辺境でございますね」
「うちの領地は開拓してなんぼだからね。しばらくはオウル兄様の協力を得ながら開拓するけど、その後は僕が管理することになる。スチュアート、もし今回のことを少しでも感謝してくれるのなら、キャラバンのコースにネスト村を追加してもらえないか?」
現状、ネスト村に商会が来ていないのはセバスからも聞いている。
それでは領地の開拓のしようがない。お金を回して、売り買いを活性化させなければ人も集まらないのだから。
「……それは、物資の搬入が中心となりますか?」
おそらくスチュアートの頭の中では、命を助けたお礼に食料を安値で持ってこいと言われているように感じているのだろう。
けれど、お願いしたいのはそういうことじゃない。こっちからも売りたいのだ。
「もちろん、物資は欲しいよ。でもそれだけではなく、魔の森で討伐した魔物の素材を売りたい。あとは、そうだね。ポーションを売ろうと思っているんだ」
「オウル様がしばらく滞在されるのであれば、それなりの数の素材が集まりますね。それに、クロウ様の魔法もございます。あとは、ポーションでございますか……」
僕の魔法はたいしたことはない。このあたりは商人なりのおべっかなのだろう。でも、オウル兄様のおかげで、話には乗ってきてくれたようだ。
すると、うんうんと頷いていたオウル兄様が、思い出したかのように会話に入ってきた。
「そうだ! クロウ、さっきの土魔法はどうなってやがる。四大属性のスキルは持ってなかったはずだろ」
僕は、さも当然といったようにオウル兄様に答える。
「これは錬金術スキルですよ、オウル兄様」
「おいおい、錬金術スキルは土魔法が扱えるのかよ?」
「クロウお坊っちゃま、それは私も驚きました。弓士に使ったのも何かの属性魔法なのでしょうか」
「本格的な属性魔法には及ばないけど、錬金術スキルでも条件さえ整えれば、あのような真似ごとはできるんです。ちなみに弓士に使ったのはどちらかというと風属性なのかな」
オウル兄様もセバスも信じられないという顔をしているけど、実際に僕が目の前でやってみせただけに納得するしかないだろうね。
スチュアートが話を戻して尋ねてくる。
「クロウ様、ポーションも売りたいとおっしゃっていましたね。確認ですが、それはCランクポーションなのでしょうか?」
「安いCランクポーションを売るつもりはないよ。Bランク以上の品質で考えている。といっても、まだ構想段階だから、しばらくは魔物の素材だけになると思うけどね」
「Bランクですか……かしこまりました。商隊のキャラバンにネスト村へのルートを追加いたします」
「えっ、いいの? 本当にありがとう、スチュアート」
多少は条件でもつくかと思ったけど、意外にすんなり受け入れてくれた。
「いえいえ、クロウ様を見ていると何かやってくれそうな期待感といいますか、商人の勘がネスト村へ行けと言っております」
助けられた恩もあるのだろうけど、エルドラド家の貴族である僕から言われてしまったらスチュアートとしても断るのは難しいのかもしれない。
とはいえ、ある程度の頻度で来てもらえるのは僅かな期間だろう。その間に、ネスト村に行けば儲かるのだとスチュアートに認知させなければならない。これからが本当の勝負なのだ。
それはさておき、僕はスチュアートに尋ねる。
「横転した馬車は大丈夫?」
「車輪が歪んでしまっているようなので、修理しなければならなそうです。それと、生き残った盗賊の扱いはいかがいたしましょうか?」
「ネスト村に連れていくわけにもいかないし、スチュアートに任せていいかな。報奨金も全て商会の利益に回して構わないよ」
盗賊の引き渡しは大きな街で行われ、一人頭十万ギル程度で取り引きされる。馬車の修理費などを考えるとそれでも足が出てしまうかもしれないけどね。
「誠でございますか。それでは、そのようにさせていただきます。私どもも遅れてネスト村へと向かいますので、たくさんの魔物の素材を買い取らせてください。もちろん、色をつけさせていただきます」
「うん、よろしくね」
3 辺境の地、ネスト村に到着
こうしてスチュアートと別れたあとは、特に何事もなく平穏な旅路となった。
それでも魔の森が近くなるにつれて、魔物の数はそれなりに多くなってきている。この過酷な状況のなか、ネスト村は大丈夫なのだろうかと不安に思わなくもない。
一応、辺境の地だけあって、引退した冒険者や狩人などそれなりの経験者が揃っているのだそうだけど。
というのも、ネスト村では三年間は税を納める必要がなく、開拓した土地は自分のものになる。成功を夢見てやって来る領民は少なからずいるのだ。
僕たちがネスト村に到着したのは、日が沈みそうな夕方間近の頃だった。
時間帯が微妙だったので、翌朝に着くよう調整しようかとも話していたのだけれど、結果的には早く行って正解だったようだ。
ネスト村は開拓村ということもあり、固まるようにして小さなボロ家が建ち並んでいる。
村の周囲には木を組んで作られた柵があり、全体が覆われているものの、対魔物対策としてはかなり心許ない物だった。
「なあ、セバス、クロウ。ネスト村ではワイルドファングを飼っているのか? あれ、絶対ワイルドファングだよな」
魔物のワイルドファングを飼ってるわけはないのだが、オウル兄様がそう思うのも無理はない。
遠目にもワイルドファングが家に体当たりをしたり、興奮して吠えまくったりしているのが見えている。
ワイルドファングは魔の森に棲む中型の狼タイプの魔物で、魔物ランクでいうとD。だが、群れることでCランク相当と言われている。
「そのような話は聞いたことがございません。オウル様、ネスト村はワイルドファングの群れに襲われております」
「おおう、いきなり村のピンチじゃねぇか。やべーなネスト村」
村人たちは家の中に避難しているのだろう。ワイルドファングに怯えながら扉を押さえているに違いない。
何人かは弓を番えて安全な屋根の上から攻撃をしようとしているが、追い払うまでに至っていないのはもちろんのこと、村周辺にある畑はぐちゃぐちゃにされてしまっている。
ゆ、許せん。
「はい、注目です! 疾風の射手の三人と僕で遠距離攻撃をして、ワイルドファングを村から引き離します。オウル兄様は近づいてきたワイルドファングを撃破、セバスは回り込んでネスト村を守ってください」
「「「か、かしこまりました!」」」
「おう、任せとけ」
「お任せください、クロウお坊っちゃま」
よーし、手っ取り早くワイルドファングをこちらに呼び寄せたい。被害が出るからなるべくなら村の中で戦いたくはないのだ。
いや、もう遅いか……
予想以上にネスト村はボロボロになっている。
「ヨルド、何か音の鳴るものでワイルドファングを引きつけたいんだけど」
僕がそう言うと、それに答えたのは魔法使いのサイファだった。
「クロウ様、それでしたら私の魔法でワイルドファングを振り向かせましょう」
サイファが杖を片手に一歩前に出る。
そして、目を瞑り集中すると、詠唱しながら魔力を高めていく。
「ファイアボール」
サイファは家屋に当たらないように上空へ向けて魔法を放った。そして派手な音を立てるよう大きく爆発させる。
その音で、全てのワイルドファングがこちらを振り向いた。屋根の上にいた村人も応援が来たことを理解したはずだ。
遠目にも弓を持った狩人の明らかにホッとしている姿が見て取れた。
今までどうやって生き残ってこられたのか詳しく聞きたい。
一方で、ワイルドファングは全頭がこちらに向かって歩み始める。ボス個体が指示でも出しているのかもしれない。けど、見た感じでは大きさが全部同じなのでよくわからない。
まあ、全部倒すのみだ。
「来るぞ!」
僕はヨルドとネルサスのために土壁を錬成してあげた。
「う、うおお、あ、ありがとうございます、クロウ様」
いきなり出現した土壁でネルサスを驚かせてしまったようだ。一声掛ければ良かったね、ごめんなさい。
「よし、弓を放てー」
さて、さすがに空気砲では殺傷能力は皆無だ。向かってくるワイルドファングは全部で三十頭ほど。
涎を垂らしながら、ゆっくりしたスピードから徐々に勢いをつけて駆けてくる。速いので囲まれたら厄介だ。
乱戦でも大丈夫なのは、オウル兄様とセバス。あと、短剣も扱えるヨルドぐらいか。
やっぱり硬度のある土魔法で攻撃した方がいいかな。練習では土壁しか造ったことがなかったけど、数が多い。少しは削るべきだろう。やれるだけやってみようか。
「ふぅー。よし、集中しよう」
どうせ失敗しても、オウル兄様とセバスがいる安心感。僕の役割は、ヨルドとネルサスのために土壁を造ったことで八割方終了しているのだ。
魔力をどのくらい込めればいいのか悩ましいな。
とはいえ、かなりのスピードでワイルドファングは突撃してきてる。迷っている時間はないか。
こういうのはイメージが大事だからね。
少しでも怪我を負わせられたら、オウル兄様もセバスも戦いやすくなる。
「錬成、アースニードル!」
地面についた手のひらから、ごっそり魔力が持っていかれると、僕のイメージ通りに魔力は変換されていく。
それは駆けるワイルドファングの真下から現れ、急所であるお腹に複数の穴を空けた。
「キャイン、キャウンッ!」
地面に縫いつけられたかのように、ワイルドファングが土から生えた針に貫かれている。
瀕死の状態、それも全てだ。
三十頭はいたワイルドファングを全て無力化してしまった。
すごいな、アースニードル。
こんな強烈な魔法だったのか。
「おいおいおい、嘘だろ……」
オウル兄様も驚きを隠せないようだ。
いや、まあ、僕が一番驚いているんだけどね。
「オウル兄様、僕もびっくりしました。アースニードルがこんなに強い魔法だったとは」
「い、いや、違いますよ。ただのアースニードルはこんな広範囲に発動しませんって」
魔法使いのサイファが言うのならそうなのかもしれない。では、これはいったい何という魔法なのか……
「クロウお坊っちゃま、普通のアースニードルというのは土の針が一つでございます。このように数百の棘を射出する魔法は、中級魔法のグランドニードルではないでしょうか」
ん、中級魔法グランドニードル?
確かに土壁を錬成するのとは桁違いの魔力が持っていかれた気はするけど。
「なあ、ヨルド。私たちこの旅で役に立ってるのか?」
「い、言うな、ネルサス」
「そ、そうだ。依頼料が削られてしまう」
疾風の射手の皆さんが依頼料の心配をしているが、ちゃんとお金は支払うから安心してほしい。
この旅では夜の見張りとかで活躍してくれていたのを知ってるから。オウル兄様、夜番とか苦手な人だからね。
僕たちが唖然としているなか、ネスト村の人たちも驚愕の面持ちでこちらの様子を窺っていた。
閉じこもっていた小屋からは村人が出てくるものの、ワイルドファングの惨状を見て腰を抜かしている。
い、いや、僕たち盗賊とかじゃないからね? 助けたの見てたよね? というか、馬車に大きく描かれている鳥の紋章で、僕たちがエルドラド家の者だとわかっているはず。
しばらく、お互いに何とも言えない時間が経過した後、ゆっくりとこちらに向かってくる初老の男性の姿が確認できた。
「お助けいただきありがとうございます。私はネスト村の村長のワグナーと申します」
そう言って、セバスに向かって礼をするワグナー村長。うん、僕やオウル兄様のことなんて知らないもんね。
「私はエルドラド家の筆頭執事を務めておりましたセバスと申します。ネスト村は本日より、こちらにいるエルドラド家の三男、クロウ様が治めることになります」
「ネスト村を治めるですか? 税を納めるのは、まだ二年近く先であったはずですが……」
「うん、税は二年後まで取るつもりはないよ。僕はネスト村を大きく豊かにするためにと父上に派遣されたんだ。よろしくね、ワグナー」
その後、村の中を案内されたが、想像以上にボロボロな状態の家屋にかなり不安にさせられた。
ネスト村の村人のなかには、助かったことで安堵の表情を見せている者もいるが、やはり、どこか険しい表情をしている者の方が多い。
不安なんだろうな……
せっかく辺境の地まで来てくれた村人が逃げだしはしないだろうか。
人がいなければどんな開拓をやってもダメだ。のんびりスローライフとか夢見ていられない。
となると、住まいや身の安全については最優先で、ぱぱっと改善したい。ここはスピード重視だろう。
現状見た感じでは開拓村どころか、キャンプ地や野営地に近い気すらする。
「ワグナー、ワイルドファングはよく村を襲いに来るの?」
「いえ、基本的に魔の森の魔物は森の中を好みます。ところが、最近、ラリバードが大量発生しているようでして、追いかけるようにワイルドファングも森から出てくるようになってしまったのです」
「ラリバードが大量発生!?」
ラリバード、それは飛べない鳥の魔物。魔の森でも一番外側に棲む底辺の魔物だそうだ。魔物ランクとしてはEランクなのだという。
とはいえ、魔の森の魔物。成長するとサイズはニワトリの倍ぐらいになる。とても素早くて逃げ足が速く、くちばしで攻撃もしてくる。
特にオスは火を噴き、かなり荒っぽい性格をしているのだとか。
「はい、数が増えたラリバードがワイルドファングから逃げるように森から出てきまして、それを追うようにワイルドファングまで……」
なるほど、魔の森の食物連鎖に何かしら異変が起こっているということか。
早速、僕は今後の行動を皆に指示していく。
「魔の森の調査は、明日からオウル兄様と疾風の射手の皆さんにお願いしようと思います」
「おう、任せとけ。ようやく魔の森で鍛えられるぜ」
オウル兄様からしたら、危険な魔の森はただの鍛錬場所に過ぎないのかもしれない。
森の奥へと進めばさすがに厳しくなるかもしれないけど、浅いエリアであれば、オウル兄様の相手になる魔物はいないだろう。
「セバスには狩人たちと一緒に、村の守りを頼みたい」
「かしこまりました。クロウお坊っちゃまは何をされるおつもりでございますか?」
「僕はね、あれだよ、あれ」
僕の指差した方向には、先ほどワイルドファングと戦うために錬成した土壁が残っている。
「ネスト村を囲うように、土壁を造られるのでございますね」
「うん、そう。木の柵はワイルドファングたちに越えられちゃうでしょ。セバス、ワイルドファングの跳躍力はどのくらいなのかな?」
「勢いをつければ、この小屋の高さぐらいまでなら簡単に飛び越えるでしょう」
小屋越えちゃうのか。
セバスの話を聞いていた狩人の方々はわかりやすく冷や汗をかいている。屋根の上なら安心だと思っていたのだろう。
この小屋の高さがだいたい二メートル半ぐらいかな。僕が普段出している土壁は高さ二メートル、幅三メートル程度。少しカスタマイズが必要か。
「了解、それならどのくらいのサイズで造っていけばいいかな? 高さと強度を確認してもらえる?」
ネスト村の入口と思われる場所に、試しに土壁を一つだけ錬成しよう。
今日はもう日が暮れ始めてるし、作業は明日からやればいいよね。しばらくはオウル兄様が魔物を討伐してくれるし、今日のような緊急事態はそうないはずだし。
「錬成、土壁!」
地面に手をつきながら、細かく錬成を指定していく。高さは四メートル、強度も高くしたいから壁厚は五十センチにして、幅はとりあえず五メートルで出してみよう。
商人たちを守るように割って入っていくオウル兄様は、その類稀なるスピードで盗賊たちを翻弄していく。盗賊の数は多いが、これならばすぐに押さえ込めるだろう。
オウル兄様の活躍に目を奪われ、ちょっと目を離していた隙に、風を切るように矢が飛んできて僕の前まで来る。
「クロウお坊っちゃま、油断は禁物でございます」
「うおお、す、すまない、セバス」
飛んでくる矢をどうやって剣で斬り伏せるのかは見ていても理解できないが、何はともあれ助かった……
ここは、考えごとをしていられるような緩い場面ではない。命懸けのやりとりをしているんだよね。
さて、さすがに剣術が微妙な僕が相手をするなら……弓を扱うあの二名の盗賊がいい。
決して、攻撃されたから根に持っているわけではない。
今度はこちらの番だ。
「セバス、僕はあの弓士を狙う。合図をしたら、突っ込んでもらえるかな」
「何かされるのですね。かしこまりました、クロウお坊っちゃま」
盗賊との戦闘中だというのに、とても楽しそうな顔をするセバス。オウル兄様といい、まったくその気持ちが理解できない。この戦闘狂め。
「錬成、空気砲!」
ちょっとした子供だましのような攻撃力しかないが、当たり所さえ押さえておけば体勢を崩すぐらいは容易にできる。
「セバス!」
「はい、クロウお坊っちゃま」
透明の攻撃は盗賊の頭部をしっかりとらえている。人間の頭というのはもちろん急所であり、重量もある不安定な部分だ。
想定外の攻撃を頭にくらってしまえば、大抵の人間はそのまま後ろに倒れてしまう。
無色透明万歳!
戦場で倒れた人間を沈黙させるのに、セバスほどの実力者であれば秒も必要でない。
あっさりと後ろ手に縛り上げられており、一瞬で弓は破壊されていた。
オウル兄様の方を見ると、あちらもどうやら戦闘が終了しているらしく、そもそも僕の出る幕があったのかと悩みたくなるほどに片付いていた。
武器を捨て命乞いをする盗賊を見るに、オウル兄様の剣技を見て、ほとんどの者が降参してしまったのだろう。
「ふあぁ、た、助かりました。オウル様、クロウ様、お助けいただきありがとうございます。このスチュアート、恩返しできるよう精進いたします」
ブルーミン・スチュアート。彼はエルドラド家お抱えの商人で、バーズガーデンと王都ベルファイアを中心にその周辺を巡るキャラバンを組む商隊の代表。
屋敷でも何度か会ったことのある、少しぽっちゃりとした笑顔の眩しいおっさんだ。
今後、領地を改革していくうえで力を貸してもらいたい人間でもあるので、ここでスチュアート商会に貸しを作れたのはラッキーとも言える。不謹慎だけどもね。
「ああ、いったいどのように感謝を申し上げれば良いのでしょう」
僕たちがここを通らなかったら商隊の荷物は全て持ち去られていただろう。いや、下手したらスチュアートの命だってあったか微妙なところだ。
そんなスチュアートに対して、オウル兄様が僕との間を取り計らってくれた。
「礼ならクロウに言ってくれ。この場におけるボスはこいつでな、商隊を助ける判断もクロウがしたんだよ」
「おお、そうでございましたか。クロウ様、ありがとうございます。ボスということは、あの噂は本当でございましたか」
「噂? それはどのような噂か、僕も知りたいけど」
「い、いえ、それは、その……」
口を濁すスチュアートに僕も苦笑いだ。
「貴族でありながら、不遇スキルを授かってしまい、辺境の地に飛ばされた……ってところかな?」
「申し訳ございません。私どもは、バーズガーデン周辺の情報については特に重点的に調べております。数日前からのエルドラド家の動きを見るに、噂は確かではないかと判断しておりました」
僕らがネスト村に向かうために用意された荷物。その中には新しく買い入れた品物もあるだろうし、きっと商会に注文が入っていたのだろう。
商流を押さえているスチュアートからしたら、わかりやすい話だったのかもしれない。
「王都へ行きスキルを授与されたはずの僕の情報、それからエルドラド家の商会への注文状況に鑑みての判断ということかな」
「おっしゃる通りでございます。やはり、クロウ様はどこかの領地を任されるということなのですね」
「うん、魔の森近くのネスト村が僕の行く場所だよ」
「ま、魔の森でございますか……それはまた、わかりやすく辺境でございますね」
「うちの領地は開拓してなんぼだからね。しばらくはオウル兄様の協力を得ながら開拓するけど、その後は僕が管理することになる。スチュアート、もし今回のことを少しでも感謝してくれるのなら、キャラバンのコースにネスト村を追加してもらえないか?」
現状、ネスト村に商会が来ていないのはセバスからも聞いている。
それでは領地の開拓のしようがない。お金を回して、売り買いを活性化させなければ人も集まらないのだから。
「……それは、物資の搬入が中心となりますか?」
おそらくスチュアートの頭の中では、命を助けたお礼に食料を安値で持ってこいと言われているように感じているのだろう。
けれど、お願いしたいのはそういうことじゃない。こっちからも売りたいのだ。
「もちろん、物資は欲しいよ。でもそれだけではなく、魔の森で討伐した魔物の素材を売りたい。あとは、そうだね。ポーションを売ろうと思っているんだ」
「オウル様がしばらく滞在されるのであれば、それなりの数の素材が集まりますね。それに、クロウ様の魔法もございます。あとは、ポーションでございますか……」
僕の魔法はたいしたことはない。このあたりは商人なりのおべっかなのだろう。でも、オウル兄様のおかげで、話には乗ってきてくれたようだ。
すると、うんうんと頷いていたオウル兄様が、思い出したかのように会話に入ってきた。
「そうだ! クロウ、さっきの土魔法はどうなってやがる。四大属性のスキルは持ってなかったはずだろ」
僕は、さも当然といったようにオウル兄様に答える。
「これは錬金術スキルですよ、オウル兄様」
「おいおい、錬金術スキルは土魔法が扱えるのかよ?」
「クロウお坊っちゃま、それは私も驚きました。弓士に使ったのも何かの属性魔法なのでしょうか」
「本格的な属性魔法には及ばないけど、錬金術スキルでも条件さえ整えれば、あのような真似ごとはできるんです。ちなみに弓士に使ったのはどちらかというと風属性なのかな」
オウル兄様もセバスも信じられないという顔をしているけど、実際に僕が目の前でやってみせただけに納得するしかないだろうね。
スチュアートが話を戻して尋ねてくる。
「クロウ様、ポーションも売りたいとおっしゃっていましたね。確認ですが、それはCランクポーションなのでしょうか?」
「安いCランクポーションを売るつもりはないよ。Bランク以上の品質で考えている。といっても、まだ構想段階だから、しばらくは魔物の素材だけになると思うけどね」
「Bランクですか……かしこまりました。商隊のキャラバンにネスト村へのルートを追加いたします」
「えっ、いいの? 本当にありがとう、スチュアート」
多少は条件でもつくかと思ったけど、意外にすんなり受け入れてくれた。
「いえいえ、クロウ様を見ていると何かやってくれそうな期待感といいますか、商人の勘がネスト村へ行けと言っております」
助けられた恩もあるのだろうけど、エルドラド家の貴族である僕から言われてしまったらスチュアートとしても断るのは難しいのかもしれない。
とはいえ、ある程度の頻度で来てもらえるのは僅かな期間だろう。その間に、ネスト村に行けば儲かるのだとスチュアートに認知させなければならない。これからが本当の勝負なのだ。
それはさておき、僕はスチュアートに尋ねる。
「横転した馬車は大丈夫?」
「車輪が歪んでしまっているようなので、修理しなければならなそうです。それと、生き残った盗賊の扱いはいかがいたしましょうか?」
「ネスト村に連れていくわけにもいかないし、スチュアートに任せていいかな。報奨金も全て商会の利益に回して構わないよ」
盗賊の引き渡しは大きな街で行われ、一人頭十万ギル程度で取り引きされる。馬車の修理費などを考えるとそれでも足が出てしまうかもしれないけどね。
「誠でございますか。それでは、そのようにさせていただきます。私どもも遅れてネスト村へと向かいますので、たくさんの魔物の素材を買い取らせてください。もちろん、色をつけさせていただきます」
「うん、よろしくね」
3 辺境の地、ネスト村に到着
こうしてスチュアートと別れたあとは、特に何事もなく平穏な旅路となった。
それでも魔の森が近くなるにつれて、魔物の数はそれなりに多くなってきている。この過酷な状況のなか、ネスト村は大丈夫なのだろうかと不安に思わなくもない。
一応、辺境の地だけあって、引退した冒険者や狩人などそれなりの経験者が揃っているのだそうだけど。
というのも、ネスト村では三年間は税を納める必要がなく、開拓した土地は自分のものになる。成功を夢見てやって来る領民は少なからずいるのだ。
僕たちがネスト村に到着したのは、日が沈みそうな夕方間近の頃だった。
時間帯が微妙だったので、翌朝に着くよう調整しようかとも話していたのだけれど、結果的には早く行って正解だったようだ。
ネスト村は開拓村ということもあり、固まるようにして小さなボロ家が建ち並んでいる。
村の周囲には木を組んで作られた柵があり、全体が覆われているものの、対魔物対策としてはかなり心許ない物だった。
「なあ、セバス、クロウ。ネスト村ではワイルドファングを飼っているのか? あれ、絶対ワイルドファングだよな」
魔物のワイルドファングを飼ってるわけはないのだが、オウル兄様がそう思うのも無理はない。
遠目にもワイルドファングが家に体当たりをしたり、興奮して吠えまくったりしているのが見えている。
ワイルドファングは魔の森に棲む中型の狼タイプの魔物で、魔物ランクでいうとD。だが、群れることでCランク相当と言われている。
「そのような話は聞いたことがございません。オウル様、ネスト村はワイルドファングの群れに襲われております」
「おおう、いきなり村のピンチじゃねぇか。やべーなネスト村」
村人たちは家の中に避難しているのだろう。ワイルドファングに怯えながら扉を押さえているに違いない。
何人かは弓を番えて安全な屋根の上から攻撃をしようとしているが、追い払うまでに至っていないのはもちろんのこと、村周辺にある畑はぐちゃぐちゃにされてしまっている。
ゆ、許せん。
「はい、注目です! 疾風の射手の三人と僕で遠距離攻撃をして、ワイルドファングを村から引き離します。オウル兄様は近づいてきたワイルドファングを撃破、セバスは回り込んでネスト村を守ってください」
「「「か、かしこまりました!」」」
「おう、任せとけ」
「お任せください、クロウお坊っちゃま」
よーし、手っ取り早くワイルドファングをこちらに呼び寄せたい。被害が出るからなるべくなら村の中で戦いたくはないのだ。
いや、もう遅いか……
予想以上にネスト村はボロボロになっている。
「ヨルド、何か音の鳴るものでワイルドファングを引きつけたいんだけど」
僕がそう言うと、それに答えたのは魔法使いのサイファだった。
「クロウ様、それでしたら私の魔法でワイルドファングを振り向かせましょう」
サイファが杖を片手に一歩前に出る。
そして、目を瞑り集中すると、詠唱しながら魔力を高めていく。
「ファイアボール」
サイファは家屋に当たらないように上空へ向けて魔法を放った。そして派手な音を立てるよう大きく爆発させる。
その音で、全てのワイルドファングがこちらを振り向いた。屋根の上にいた村人も応援が来たことを理解したはずだ。
遠目にも弓を持った狩人の明らかにホッとしている姿が見て取れた。
今までどうやって生き残ってこられたのか詳しく聞きたい。
一方で、ワイルドファングは全頭がこちらに向かって歩み始める。ボス個体が指示でも出しているのかもしれない。けど、見た感じでは大きさが全部同じなのでよくわからない。
まあ、全部倒すのみだ。
「来るぞ!」
僕はヨルドとネルサスのために土壁を錬成してあげた。
「う、うおお、あ、ありがとうございます、クロウ様」
いきなり出現した土壁でネルサスを驚かせてしまったようだ。一声掛ければ良かったね、ごめんなさい。
「よし、弓を放てー」
さて、さすがに空気砲では殺傷能力は皆無だ。向かってくるワイルドファングは全部で三十頭ほど。
涎を垂らしながら、ゆっくりしたスピードから徐々に勢いをつけて駆けてくる。速いので囲まれたら厄介だ。
乱戦でも大丈夫なのは、オウル兄様とセバス。あと、短剣も扱えるヨルドぐらいか。
やっぱり硬度のある土魔法で攻撃した方がいいかな。練習では土壁しか造ったことがなかったけど、数が多い。少しは削るべきだろう。やれるだけやってみようか。
「ふぅー。よし、集中しよう」
どうせ失敗しても、オウル兄様とセバスがいる安心感。僕の役割は、ヨルドとネルサスのために土壁を造ったことで八割方終了しているのだ。
魔力をどのくらい込めればいいのか悩ましいな。
とはいえ、かなりのスピードでワイルドファングは突撃してきてる。迷っている時間はないか。
こういうのはイメージが大事だからね。
少しでも怪我を負わせられたら、オウル兄様もセバスも戦いやすくなる。
「錬成、アースニードル!」
地面についた手のひらから、ごっそり魔力が持っていかれると、僕のイメージ通りに魔力は変換されていく。
それは駆けるワイルドファングの真下から現れ、急所であるお腹に複数の穴を空けた。
「キャイン、キャウンッ!」
地面に縫いつけられたかのように、ワイルドファングが土から生えた針に貫かれている。
瀕死の状態、それも全てだ。
三十頭はいたワイルドファングを全て無力化してしまった。
すごいな、アースニードル。
こんな強烈な魔法だったのか。
「おいおいおい、嘘だろ……」
オウル兄様も驚きを隠せないようだ。
いや、まあ、僕が一番驚いているんだけどね。
「オウル兄様、僕もびっくりしました。アースニードルがこんなに強い魔法だったとは」
「い、いや、違いますよ。ただのアースニードルはこんな広範囲に発動しませんって」
魔法使いのサイファが言うのならそうなのかもしれない。では、これはいったい何という魔法なのか……
「クロウお坊っちゃま、普通のアースニードルというのは土の針が一つでございます。このように数百の棘を射出する魔法は、中級魔法のグランドニードルではないでしょうか」
ん、中級魔法グランドニードル?
確かに土壁を錬成するのとは桁違いの魔力が持っていかれた気はするけど。
「なあ、ヨルド。私たちこの旅で役に立ってるのか?」
「い、言うな、ネルサス」
「そ、そうだ。依頼料が削られてしまう」
疾風の射手の皆さんが依頼料の心配をしているが、ちゃんとお金は支払うから安心してほしい。
この旅では夜の見張りとかで活躍してくれていたのを知ってるから。オウル兄様、夜番とか苦手な人だからね。
僕たちが唖然としているなか、ネスト村の人たちも驚愕の面持ちでこちらの様子を窺っていた。
閉じこもっていた小屋からは村人が出てくるものの、ワイルドファングの惨状を見て腰を抜かしている。
い、いや、僕たち盗賊とかじゃないからね? 助けたの見てたよね? というか、馬車に大きく描かれている鳥の紋章で、僕たちがエルドラド家の者だとわかっているはず。
しばらく、お互いに何とも言えない時間が経過した後、ゆっくりとこちらに向かってくる初老の男性の姿が確認できた。
「お助けいただきありがとうございます。私はネスト村の村長のワグナーと申します」
そう言って、セバスに向かって礼をするワグナー村長。うん、僕やオウル兄様のことなんて知らないもんね。
「私はエルドラド家の筆頭執事を務めておりましたセバスと申します。ネスト村は本日より、こちらにいるエルドラド家の三男、クロウ様が治めることになります」
「ネスト村を治めるですか? 税を納めるのは、まだ二年近く先であったはずですが……」
「うん、税は二年後まで取るつもりはないよ。僕はネスト村を大きく豊かにするためにと父上に派遣されたんだ。よろしくね、ワグナー」
その後、村の中を案内されたが、想像以上にボロボロな状態の家屋にかなり不安にさせられた。
ネスト村の村人のなかには、助かったことで安堵の表情を見せている者もいるが、やはり、どこか険しい表情をしている者の方が多い。
不安なんだろうな……
せっかく辺境の地まで来てくれた村人が逃げだしはしないだろうか。
人がいなければどんな開拓をやってもダメだ。のんびりスローライフとか夢見ていられない。
となると、住まいや身の安全については最優先で、ぱぱっと改善したい。ここはスピード重視だろう。
現状見た感じでは開拓村どころか、キャンプ地や野営地に近い気すらする。
「ワグナー、ワイルドファングはよく村を襲いに来るの?」
「いえ、基本的に魔の森の魔物は森の中を好みます。ところが、最近、ラリバードが大量発生しているようでして、追いかけるようにワイルドファングも森から出てくるようになってしまったのです」
「ラリバードが大量発生!?」
ラリバード、それは飛べない鳥の魔物。魔の森でも一番外側に棲む底辺の魔物だそうだ。魔物ランクとしてはEランクなのだという。
とはいえ、魔の森の魔物。成長するとサイズはニワトリの倍ぐらいになる。とても素早くて逃げ足が速く、くちばしで攻撃もしてくる。
特にオスは火を噴き、かなり荒っぽい性格をしているのだとか。
「はい、数が増えたラリバードがワイルドファングから逃げるように森から出てきまして、それを追うようにワイルドファングまで……」
なるほど、魔の森の食物連鎖に何かしら異変が起こっているということか。
早速、僕は今後の行動を皆に指示していく。
「魔の森の調査は、明日からオウル兄様と疾風の射手の皆さんにお願いしようと思います」
「おう、任せとけ。ようやく魔の森で鍛えられるぜ」
オウル兄様からしたら、危険な魔の森はただの鍛錬場所に過ぎないのかもしれない。
森の奥へと進めばさすがに厳しくなるかもしれないけど、浅いエリアであれば、オウル兄様の相手になる魔物はいないだろう。
「セバスには狩人たちと一緒に、村の守りを頼みたい」
「かしこまりました。クロウお坊っちゃまは何をされるおつもりでございますか?」
「僕はね、あれだよ、あれ」
僕の指差した方向には、先ほどワイルドファングと戦うために錬成した土壁が残っている。
「ネスト村を囲うように、土壁を造られるのでございますね」
「うん、そう。木の柵はワイルドファングたちに越えられちゃうでしょ。セバス、ワイルドファングの跳躍力はどのくらいなのかな?」
「勢いをつければ、この小屋の高さぐらいまでなら簡単に飛び越えるでしょう」
小屋越えちゃうのか。
セバスの話を聞いていた狩人の方々はわかりやすく冷や汗をかいている。屋根の上なら安心だと思っていたのだろう。
この小屋の高さがだいたい二メートル半ぐらいかな。僕が普段出している土壁は高さ二メートル、幅三メートル程度。少しカスタマイズが必要か。
「了解、それならどのくらいのサイズで造っていけばいいかな? 高さと強度を確認してもらえる?」
ネスト村の入口と思われる場所に、試しに土壁を一つだけ錬成しよう。
今日はもう日が暮れ始めてるし、作業は明日からやればいいよね。しばらくはオウル兄様が魔物を討伐してくれるし、今日のような緊急事態はそうないはずだし。
「錬成、土壁!」
地面に手をつきながら、細かく錬成を指定していく。高さは四メートル、強度も高くしたいから壁厚は五十センチにして、幅はとりあえず五メートルで出してみよう。
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