絶望魔王のやり直し~畑を耕していたら村に観光産業の波が押し寄せてきた~

つちねこ

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一章

5 黒い影

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■■■聖女ミルフィーヌ視点

 ルミナス村は王都からほど近い場所にあるため歩いても半日ほどで到着します。馬車で向かえばあっという間の距離なのですが、今回は周辺の調査もあったので私たちは徒歩で向うことにしたのです。

 ところがルミナス村に近づけば近づくほど不思議な体験をすることになってしまいました。

「そろそろルミナス村が近くなってきたかな。ミルフィーヌ、索敵魔法はどう?」

「はい。やっぱりおかしいです。モンスターの数は少ないのですが、確かに反応はあるのです。でも……」

「その場所に来てみるとモンスターの姿はもちろん、その反応もキレイさっぱり消え失せていると。うーん、レーベンは何かわかりそうかな?」

「微かにですがモンスターの血の匂いがしますので、ミルフィーヌの索敵に間違いはないかと」

「つまり、ルミナス村の周辺には少ないながらモンスターは存在していて、僕たちが駆けつける前には全て討伐されて跡形もなく消えてしまっている。そんなことが有り得るの?」

 魔王を倒した勇者パーティが索敵をして最短で駆けつけているにも関わらずモンスターは倒されており、その場所には争った形跡すら残されていない。

 そんなことが実際に有り得るのか。
 いや、有り得るわけがない。

「勇者様、今度は北東の方角近いですっ!」

「よしっ、レーベン急ぐよ」
「了解しました」

 勇者パーティが誇る前衛の二人。剣聖レーベンと勇者アシュレイのスピードに着いていける者などこの世界にいない。

 二人はあっという間に私が索敵した場所へと辿り着いたはず。そして、後衛の私たちも風の魔法で身体強化をしながら二人の後を離れずに追っていく。

「今度こそ見つけた。ゴブリンが二体だっ!」

「アシュレイ、ゴブリン二体程度なら自分の剣でいく」

「うん、頼んだよレーベン。僕は何が起きているのか周囲を警戒しておくよ」

 私と賢者エイルマーがその場所に到着した時にはまだゴブリンは確かに見えてました。しかしながら、レーベンが近づきその剣を振るおうとした瞬間、ゴブリンは黒い靄に包まれるかのようにして消え去ったのです。

「なっ!? ゴブリンが消えた……」

「いや、違う。何かとてつもなく素早い黒い影がいる」

「み、見えません……」

「ミルフィーヌ、モンスターの反応は?」

「……き、消えました。この近くにモンスターはおりません」

 とんでもないスピードで動いているモンスターがこの周辺にいる。

 目視できたのはおそらく私と勇者様だけのようです。といっても、私はたまたま索敵魔法を使っていたから気づけただけです。通常であればその姿を見ることも叶わなかったでしょう。

「ミルフィーヌはあの黒い影を見た?」

「は、はい。ほんの一瞬ですが。黒い何かがゴブリンに覆いかぶさったように見えたのですが、次の瞬間には見失ってしまいました」

「そうか、僕と一緒だね。あんなモンスター見たことがない。恐ろしく素早く、そして強いモンスターがいる。エイルマー、あの黒いモンスターの正体が何かわかる?」

「い、いえ。黒い影のようなモンスターか……。しかも私の目でも追えないスピードでゴブリンを倒すモンスターなんて聞いたこともないですよ。悪霊の類でしょうか?」

「レーベン大丈夫か?」

 一番近くでそのモンスターを見ていたはずの剣聖レーベン。その手に持つ剣は小刻みに震えている。恐怖で動揺しているレーベンを見るのは初めてかも知れません。

「ま、全く見えなかった……。目の前に間違いなくゴブリンがいたというのに、一瞬で消え去っってしまった」

「ルミナス村の周辺にモンスターがいないのはこの黒い影のモンスターが理由なのでしょう。問題は、このモンスターが私たちには見向きもせずに去っていったことです。あれが敵なのか味方なのか。それとも我々など相手にするまでもないということなのでしょうか……」

 私の言葉にみな黙ってしまいました。このパーティで旅をしてきて幾度となく苦しい戦いを乗り越えてきました。

 でも、こんな経験は初めてなのです。

 魔王との激戦も苦労はしたものの全員で力を振りしぼり何とか倒すことができました。

 でも、この黒い影はどうやって倒せば良いのか検討もつきません。

「ひょっとして新しい魔王が復活したのだろうか……」

 王都の近郊でこんなことが起こるなんて普通なら考えられません。魔王討伐からたった五年しか経っていないというのに、まさか本当に魔王が……。

「で、でも勇者様。魔王が誕生したのであれば神殿から何かしらのお告げがあるはずです。それにモンスターの活性は依然として低い状態が続いておりますし」

「そうだよね……」

 魔王討伐から二十年近くは平和な世界が続くと言われております。僅か五年で新しい魔王が誕生するなどありえないことなのです。

 考えられるとしたら、あの時私達が倒した魔王が偽物だった可能性ぐらいなのですが……。

 いや、それは絶対にないでしょう。

 あの魔王の恐ろしさは向かい合った私達が一番わかっています。勝ったことが奇跡のような薄氷の上での勝利でした。何度戦っても、十回に一度勝てるかどうかの奇跡。

「わからないことはしょうがない。情報収集をするためにもまずはルミナス村へ行こう」

 勇者アシュレイのその言葉で我に返り、私たちはルミナス村へと向かうのでした。
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