愛しい人を手に入れるまでの、とある伯爵令息の話

ひとみん

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メーガンに渡された招待状を手に、とある侯爵邸へと向かった。
馬車の中には、レナードの他にアミールも当然の様に乗っていた。

メーガンの奇襲があった、一昨日。
あの日からアミールは、まるで熱に浮かされたようにメーガンの事しか口にしない。
「彼女、俺が後ろにいたのに、全く気付いていなかったんだよ!まっすぐレナードしか見てなかった。しかも、親の仇みたいな表情でさ!」
どうも、それが気に入ったようなのだ。
アミールの兄である王太子とレナードは系統は違うが、美しい。
アミールとレナードが並べば、女性はほぼ全員レナードを選ぶ。
それはユーリン王国でいつも味わっていた、差別と同じだった。
そう、屈辱よりも差別という言葉の方がしっくりきていたから、アミールはそう自覚している。
だが、レナードから言わせれば、アミールも美丈夫になるらしく、確かに留学してからは自国にいた時には考えられないほど、女性からのお誘いが絶えなかった。
中にはレナードとの縁を繋ぎたいがために近づく女性も少なくはなかったが。
ユーリン王国を離れ、レナード達と付き合う事で、国での自分の立場がいかにおかしかったのかが分かった。
女が皆、王太子だけを求める異常さ。それにどんな力が作用しているかなんてわからない。
だけれど、みんながみんな王太子に惹かれるわけではないのだ。

容姿に惹かれることのない女性。甘い言葉に惑わされない女性。
地位、名誉、お金・・・どれでもいい。それだけを求め自分の傍にいてくれる人。
そんな理想の女性を探していた。

そして見つけてしまったのだ。
レナードからの手紙で、メーガンの事が気になっていた。
兎に角、買い物が命みたいに金を使いまくるのだとか。
だから会ってみたいと思った。
レナードからは、婚約を破棄してからにして欲しいとは言われていたが、彼の不都合になるような事はしないと約束し、ようやく了承を得たのだ。
そして、なんという僥倖か。思っていたよりも早く彼女と会う事が出来たのだ。
会う・・・というよりも、一方的に目にしたという方が正しい。
メーガンはアミールを認識していなかったのだから。

馬車の中でご機嫌のアミールを横目に、レナードは「大人しくしていてくれよ」と本日何度目かの釘を刺してくる。
「わかってるって。今日の俺は傍観者だ。レナードの不利になることはしないよ」
「頼んだぞ」
そう言ってため息を吐くレナードに、アミールは今更のように質問する。
「レナードはメーガンが嫌いなのかい?」
今更何を聞くんだと、目を瞬かせるレナード。だが、そこら辺は詳しく説明していなかったなと思い至る。
なんの説明もなく「邪魔するな」と言われても、どこまでが邪魔なのかわからないのだから。
「俺は、メーガンその人は嫌いじゃない。反対に羨ましいくらいだよ。己の欲望に忠実で躊躇いがない」
誰が何を言おうと、彼女は己の信念を貫いている。それが周りを不幸にし、とても愚かな事だったとしても。
「俺が嫌いなのはね、メーガンという怪物を作った公爵家とそれに加担している王家だ。自分らの手に負えないからと言って、関係のない人間に押し付ける。全くもってムカつく」
レナードの言葉に、アミールは驚く。彼はてっきりメーガンその人も嫌っていると思っていたからだ。
「だからアミール、婚約破棄後はお前がメーガンとどうなろうと俺は関係ないし関知しない。だが、賠償金を肩代わりするなどと、それだけは絶対に言うな」
その言葉に心を見透かされたかのようで、アミールはぎくりとする。
もし婚約破棄した場合、莫大な慰謝料が公爵家と王家に降りかかるのだ。
メーガンと婚姻するためならば、慰謝料の肩代わりも考えていたから。
「慰謝料はティラー公爵家と王家に請求される。メーガン本人ではない。そこは間違えるな」
「でも、結婚の承諾は公爵家から貰わないといけないだろ?多分、慰謝料の支払いを条件にしてくるんじゃないか?」
「なんだ、もうメーガンと結婚する気でいるのか?」
揶揄う様なその言葉にアミールはらしくもなく、頬を染めている。
そんな彼を見て、彼の為に何かできいなかと考える。
公爵家等に復讐する為に定めた賠償金。それを友に支払わせるなど許せるわけがない。
ましてや、それを免除など言語道断。
彼に支払わせることなく、メーガンとアミールを結婚させるには・・・・と考え、レナードは思わず苦笑を漏らした。

まだ自分との婚約を破棄したわけでもなく、メーガンがアミールと結婚するどころか、見初めるかもわからない状態でそこまで考えてしまうとは。
「アミール、結婚云々の前に、メーガンの視界に入る事をまず第一に考えないとな」
至極当然な事を今更言われ、アミールは恥ずかしそうに「そうだね」と俯いたのだった。
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