8 / 65
8
しおりを挟む
アルフォンスとの朝食を終え、有里は侍女として仕えてくれている、リリとランを呼んだ。
「リリ、ラン、図書館行ってから厨房に寄るけど、いい?」
「「わかりました、ユーリ様」」
ステレオ放送のごとく返事をすると、二人はにっこりとほほ笑んだ。
彼女達は十八才の双子の姉妹だ。
見た目は似ているが、白みがかった金髪が姉のリリ。赤みががった金髪が妹のランだ。
侍従長であるエルネスト・アルカの推薦で、この二人が有里付きに選ばれた。
何の身分もない自分には侍女など要らない。この部屋も豪華すぎると、何度も訴えたが、
「女神が直々に連れてきた使徒なのだから、貴方に何かあれば女神に国を滅ぼされてしまいます」
と言われ、この世界の事が良く分からない有里には反論することができない。
そして、アルフォンスと扉一枚でつながっているこの部屋は、めちゃくちゃ広い。
前の世界での自宅の敷地面積が、この部屋にすっぽり入るくらいに。
これだから金持ちは・・・
と、ついついやさぐれてしまうのは、仕方ない事だろう。
こちらの服装も基本はドレス。侍女たちは膝丈位のもの、女性騎士や女性官僚はスラックスを履いていて、有里はいつも羨ましそうに見ていた。
自分もスラックスにしたいと訴えたが、宰相閣下により即却下。
ドレスも初めのうちはお姫様気分を味わえて喜んでいたが、あまりに実用的ではないそれに、今でこそ大分慣れてはきたが、好んで着たいとは思わない。
なので室内ではユリアナにサービスで貰った、前の世界での衣服を着て過ごしていた。
そして部屋には『プライベートルーム』と名付けた、一角を設けた。
単に几帳で目隠しをしただけの空間だが、ジャパニーズスタイルを誰にも邪魔される事なく満喫している。
スカートなど冠婚葬祭か子供の行事位でしかはいた事がなかったのに、毎日ドレス。ペタンコシューズかスニーカー、サンダルだったのがパンプス。そして常に誰かに見られてる。
とにかく慣れない事ばかりで、ストレスが半端ない。それを発散してくれるのが『プライベートルーム』だ。
そこだけに敷いた、ふかふかのジュータンと柔らかいクッション、そして、ちゃぶ台。・・・ちゃぶ台は、こちらの職人に作ってもらったのだが・・・
一人の時にはそこでゴロゴロしながら、図書館から借りてきた本を読んでこの国の歴史などを勉強している。
有里の室内での姿を初めて見たアルフォンスやフォランド達は驚きはしたものの、「部屋の中だけにしてください」ときつく釘を刺しながらも、了承してくれた。
基本、有里にはアルフォンスもフォランドも甘いのだった。
準備を整え三人は今日の予定をこなす為に、部屋を出た。
部屋から一歩でれば、そこからは職場なのだと、自分自身に言い聞かせながら。
「シェスさん、レスターさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」
部屋の前で護衛してくれている近衛騎士二人に、何時もの様に気軽に挨拶をする。有里的に彼等は職場の友だ。職場での人間関係は大事である。
「ユーリ様、おはようございます」
「おはようございます、ユーリ様。これからどちらへ?」
「はい、図書館と厨房へ。先日皆さんに試食してもらったサンドイッチを今日は陛下達に食べてもらおうと思って」
「そうなんですか。あれは美味しかったですよ!」
シェスが騎士とは思えない、柔らかな笑顔を向けてくる。
「きっと陛下も気に入られると思いますよ」
レスターもただでさえ垂れてる目元を益々下げて笑った。
「だといいんだけどね。前回、ちょっと失敗してるから」
有里はつい最近もこちらの「米」でおにぎりを作ってみた。
だがこの国は「米」を加工、つまり粉にして使用したり家畜の餌にしたりするので、焚いて食べたことがなく、初めての感触に彼らはなんとも言えない顔をしていたのだ。
日本の「米」に比べたら、正直旨いとは言えないが有里にとって、米は米。日本人のソウルフードである。よって、次回は自分の食べる分だけ作ろうと密かに心に決めたのだった。
そんな事があり、この度作ったサンドイッチは、試作と試食を何度も繰り返し出来た、自信作である。
この国のサンドイッチは、野菜やチーズ、精々ベーコンくらいまでしか入っていない、まさに軽食。
なので、有里は自分の好きな肉系の物やタマゴを野菜と共に挟んだりと、ガッツリ食べれる数種類のレシピを考えたのだ。
試食は主に警護してくれている近衛騎士や、侍女たち。
時折、手伝いをさせてもらっている庭園の庭師や、官僚たち。
結構な人数にばら撒き・・・・・城内の人間ほぼ全員とも言うが・・・・意見を聞き、そして改良に改良を重ね、本日やっと日の目を見ることとなる。
勿論、試食をしてくれた人達には、アルフォンスの耳に入らないよう、口止めをすることも忘れていない。
そんな彼女を周りは、微笑ましくも見守る態勢を作るのだった。
「前回がちょっとだったんでね。今回は皆さんのおかげで自信作です!ありがとうございます!」
と頭を下げれば、レスターとシェスは慌てたように「頭をあげてください!!」と悲鳴を上げる。
「ふふふ・・・・今度、お礼に何か差し入れしますね」
「はい、楽しみにしています」と、笑顔で見送ってくれたのだった。
「リリ、ラン、図書館行ってから厨房に寄るけど、いい?」
「「わかりました、ユーリ様」」
ステレオ放送のごとく返事をすると、二人はにっこりとほほ笑んだ。
彼女達は十八才の双子の姉妹だ。
見た目は似ているが、白みがかった金髪が姉のリリ。赤みががった金髪が妹のランだ。
侍従長であるエルネスト・アルカの推薦で、この二人が有里付きに選ばれた。
何の身分もない自分には侍女など要らない。この部屋も豪華すぎると、何度も訴えたが、
「女神が直々に連れてきた使徒なのだから、貴方に何かあれば女神に国を滅ぼされてしまいます」
と言われ、この世界の事が良く分からない有里には反論することができない。
そして、アルフォンスと扉一枚でつながっているこの部屋は、めちゃくちゃ広い。
前の世界での自宅の敷地面積が、この部屋にすっぽり入るくらいに。
これだから金持ちは・・・
と、ついついやさぐれてしまうのは、仕方ない事だろう。
こちらの服装も基本はドレス。侍女たちは膝丈位のもの、女性騎士や女性官僚はスラックスを履いていて、有里はいつも羨ましそうに見ていた。
自分もスラックスにしたいと訴えたが、宰相閣下により即却下。
ドレスも初めのうちはお姫様気分を味わえて喜んでいたが、あまりに実用的ではないそれに、今でこそ大分慣れてはきたが、好んで着たいとは思わない。
なので室内ではユリアナにサービスで貰った、前の世界での衣服を着て過ごしていた。
そして部屋には『プライベートルーム』と名付けた、一角を設けた。
単に几帳で目隠しをしただけの空間だが、ジャパニーズスタイルを誰にも邪魔される事なく満喫している。
スカートなど冠婚葬祭か子供の行事位でしかはいた事がなかったのに、毎日ドレス。ペタンコシューズかスニーカー、サンダルだったのがパンプス。そして常に誰かに見られてる。
とにかく慣れない事ばかりで、ストレスが半端ない。それを発散してくれるのが『プライベートルーム』だ。
そこだけに敷いた、ふかふかのジュータンと柔らかいクッション、そして、ちゃぶ台。・・・ちゃぶ台は、こちらの職人に作ってもらったのだが・・・
一人の時にはそこでゴロゴロしながら、図書館から借りてきた本を読んでこの国の歴史などを勉強している。
有里の室内での姿を初めて見たアルフォンスやフォランド達は驚きはしたものの、「部屋の中だけにしてください」ときつく釘を刺しながらも、了承してくれた。
基本、有里にはアルフォンスもフォランドも甘いのだった。
準備を整え三人は今日の予定をこなす為に、部屋を出た。
部屋から一歩でれば、そこからは職場なのだと、自分自身に言い聞かせながら。
「シェスさん、レスターさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」
部屋の前で護衛してくれている近衛騎士二人に、何時もの様に気軽に挨拶をする。有里的に彼等は職場の友だ。職場での人間関係は大事である。
「ユーリ様、おはようございます」
「おはようございます、ユーリ様。これからどちらへ?」
「はい、図書館と厨房へ。先日皆さんに試食してもらったサンドイッチを今日は陛下達に食べてもらおうと思って」
「そうなんですか。あれは美味しかったですよ!」
シェスが騎士とは思えない、柔らかな笑顔を向けてくる。
「きっと陛下も気に入られると思いますよ」
レスターもただでさえ垂れてる目元を益々下げて笑った。
「だといいんだけどね。前回、ちょっと失敗してるから」
有里はつい最近もこちらの「米」でおにぎりを作ってみた。
だがこの国は「米」を加工、つまり粉にして使用したり家畜の餌にしたりするので、焚いて食べたことがなく、初めての感触に彼らはなんとも言えない顔をしていたのだ。
日本の「米」に比べたら、正直旨いとは言えないが有里にとって、米は米。日本人のソウルフードである。よって、次回は自分の食べる分だけ作ろうと密かに心に決めたのだった。
そんな事があり、この度作ったサンドイッチは、試作と試食を何度も繰り返し出来た、自信作である。
この国のサンドイッチは、野菜やチーズ、精々ベーコンくらいまでしか入っていない、まさに軽食。
なので、有里は自分の好きな肉系の物やタマゴを野菜と共に挟んだりと、ガッツリ食べれる数種類のレシピを考えたのだ。
試食は主に警護してくれている近衛騎士や、侍女たち。
時折、手伝いをさせてもらっている庭園の庭師や、官僚たち。
結構な人数にばら撒き・・・・・城内の人間ほぼ全員とも言うが・・・・意見を聞き、そして改良に改良を重ね、本日やっと日の目を見ることとなる。
勿論、試食をしてくれた人達には、アルフォンスの耳に入らないよう、口止めをすることも忘れていない。
そんな彼女を周りは、微笑ましくも見守る態勢を作るのだった。
「前回がちょっとだったんでね。今回は皆さんのおかげで自信作です!ありがとうございます!」
と頭を下げれば、レスターとシェスは慌てたように「頭をあげてください!!」と悲鳴を上げる。
「ふふふ・・・・今度、お礼に何か差し入れしますね」
「はい、楽しみにしています」と、笑顔で見送ってくれたのだった。
47
あなたにおすすめの小説
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい
楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」
こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。
由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。
そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。
◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました
◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
王妃候補は、留守番中
里中一叶
恋愛
貧乏伯爵の娘セリーナは、ひょんなことから王太子の花嫁候補の身代りに王宮へ行くことに。
花嫁候補バトルに参加せずに期間満了での帰宅目指してがんばるつもりが、王太子に気に入られて困ってます。
妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?
ワケありのわたしでいいですか
キムラましゅろう
恋愛
ワケありのわたしが、
魔石採りの元騎士様の家の住み込み家政婦になった。
元騎士のご主人サマは
魔物が多く棲む山で魔石を採取して生計をたてている。
家政婦ギルドのマスターはあんな辺鄙で危険な
場所が職場なんて気の毒だと言うけれど、わたしには丁度良かったのだ。
それにご主人サマとの共同生活はとても穏やかで心地よかった。
二人だけの静かな暮らし。
いつまでも続くわけがないとわかっているからこそ、
愛おしく大切なものだった。
そんな暮らしもやがて終わりを迎える。
ご主人サマの本当に大切な方が帰ってくると
知らせを受けたから。
彼には幸せになってほしいと心から願っているから。
5話で完結の短いお話です。
謀略も胸くそ王女も何もないシンプルなお話を書きたいと思った作者が心の赴くままに書きましたので、この上なくご都合主義です。
\_(o'д')ノ))ハィ!チューモク!
美麗でナイスな表紙は、
作家のあさぎかな先生がコラージュにて作成してくださいました✨
(〃∇〃人)ステキ♪
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる