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有里は面白い。
それがフォランドの偽らざる感想だ。
彼女の正体を知った時は驚いたが、面白いと言う感情の方が先に心を占めていた。
元々フォランドは、興味を示したものがあればどこまでも追及していく、他者から言わせればとても面倒な性格をしていた。
興味を持つ対象は有機物だろうと無機物だろうと関係ない。
そして彼が今各段興味を示しているのが、有里その人なのだ。
女神ユリアナに召喚され皇帝の世話人とは言うものの、実質的にはほぼ皇后に確定なのだが、彼女の行動や言動全てが何故かフォランドのツボにはまるのだ。
彼女の世界の、彼女が生きていた国のものの考え方、文化や習慣。それもまた面白い。
この世界にはない仕組みなどは、今後の国政に役立ちそうな事が多かった。
召喚された時の衣装も美しくとても目を惹くものだったが、生活スタイルも又、興味深い。
平民ですらしないような床でゴロゴロしてみたり、誰彼構わず声を掛けたり。
貴族あたりから見れば、此度のアークルのように節操なしのように言われるが、実際は彼女の生まれ育った環境によるものだから彼女には何の責もない。
ただ本人は若干気にしている様で「郷に入っては郷に従え」と彼女の国の諺を使いながら、勉強を始めていた。
それは正にフォランドからみれば好機で、施す勉強は当然「お妃教育」である。
勿論、彼女は何も知らない。今後どこで生活しても大丈夫なように・・・などと、いかにもな事を言いながら彼女に色んな勉強をさせているのだから。
だが、それにより有里の本来の良さを殺さないよう、教師は厳選された。
皇帝の妃が、身分を気にすることなく国民に対し平等に接する―――まさに理想の妃だ。
その分、危険度も増すがその良さは殺したくない。
どのように有里を育てるか・・・・それはもう楽しそうに教師の身上書を選別しているのを、側近達は怯えながら遠くで見ていたらしい。
お妃教育は順調に進んでいるのだが、アルフォンスとの関係がこれといって進んでいないのが今の所の悩みの種だ。
彼女の言った通り若返ったとはいえ息子同然の年齢の男に惚れろというのもある意味酷なのかもしれない。
真面目な彼女にとっては背徳感を感じるのかもしれないが、この世界では若い娘なのだと、恋愛事に関してもその事を自覚してもらいたい。が、これまでの行動を見ていれば若干難しそうだ。
まぁ、少なくともアルフォンスを好意的には思ってくれている事がわかっているだけでも、良しとしなくてはならないのかもしれないのだが。
切っ掛けとなる一押しが足りない・・・アルも色恋事には鈍感だし。
こればかりは他人が手を出して拗れてしまうのは避けたいですね。
しばらくは、傍観する事にしましょうか。
―――それにしても今日の彼女のアークルに対する態度は、予想外のものでした。
彼女があそこまで出来るとは、嬉しい誤算ですね。
気高く冷酷で、それで慈悲深い・・・
だらだらゴロゴロしているあの姿からは、まず誰も想像出来ないだろう。
刺すような冷たい眼差し。凛とした声。そして、堂々とした佇まい。
教育も必要ですが・・・まずはアルを一人の男として意識してもらわねばなりませんね・・・・
三日後にセイルの街へと向かい、初めて離れ離れになる。
これを好機としなくてはいけない。
彼のいない間に、どう彼を意識させるかだが・・・
アルが直々動くのが一番なのだが・・・期待薄だろうな、今は。
まぁ、城内の連中を巻き込めば、何とかなるだろう・・・
と、傍観しようと言った尻から周りを巻き込もうとする。
周りの被害など考慮せず、なんとも恐ろしい事をいとも簡単に考えてしまうあたり、歴代の腹黒宰相トップ5に数えられるだけはある。
何が何でも有里を、己の大切な親友アルフォンスの妃にするのだと、心に固く誓いながらも策をめぐらせるフォランドなのだった。
その頃の有里はと言うと・・・・
「うんん?」
何やら背中から這い上がるような寒気に身を震わせた。
「ユーリ様、どうなさいました?」
「うん、一瞬何か寒気がして・・・誰か私の悪口でもしてるのかしら・・・・」
腕をこすりながら眉間に皺を寄せる有里に、リリがにっこり微笑んだ。
「あら、悪口程度でしたら可愛いものですわ」
「え?」
「女神様が直々に連れてこられた使徒様ですもの。大っぴらに嫌がらせもできませんし、精々陰でこそこそと良からぬことを画策するしかありませんでしょう」
「陰で・・・?」
「そう。例えるなら、呪詛やら暗殺やら」
「え!?呪詛?暗殺?何それ、こわっ!!」
リリとランが何て事のないように、いつもと変わらぬ笑顔でサラッと言うから思わず聞き流してしまいそうになるが、かなり物騒で有里は思わず自分で自分を抱きしめた。
「大丈夫ですよ。呪詛なんて非現実的で効果などありません」
「暗殺だって大丈夫です。何のために私達が付いているとお思いですか?」
「え?いや、私の周りってそんなに物騒なの?」
改めて言われると、自分は何て危険な立ち位置に居るのかと自覚してしまい、不安になる。
「ねぇ、リリとランは大丈夫なの?私の周りに居る人も危険に晒されるって事よね?」
自分の事より周りを心配する有里に、リリとランは目を瞠ると困った様に笑った。
「大丈夫に決まってます」
「何時もお傍に居りますでしょ?」
何て事のないようにサラリと告げるその言葉に、有里は安堵から肩の力が抜けたようにへにゃっとした笑みを浮かべた。
「そうね・・・・何時もありがとう」
そしてまた有里の言葉に、彼女等もまた決意を新たにするのだった。
それがフォランドの偽らざる感想だ。
彼女の正体を知った時は驚いたが、面白いと言う感情の方が先に心を占めていた。
元々フォランドは、興味を示したものがあればどこまでも追及していく、他者から言わせればとても面倒な性格をしていた。
興味を持つ対象は有機物だろうと無機物だろうと関係ない。
そして彼が今各段興味を示しているのが、有里その人なのだ。
女神ユリアナに召喚され皇帝の世話人とは言うものの、実質的にはほぼ皇后に確定なのだが、彼女の行動や言動全てが何故かフォランドのツボにはまるのだ。
彼女の世界の、彼女が生きていた国のものの考え方、文化や習慣。それもまた面白い。
この世界にはない仕組みなどは、今後の国政に役立ちそうな事が多かった。
召喚された時の衣装も美しくとても目を惹くものだったが、生活スタイルも又、興味深い。
平民ですらしないような床でゴロゴロしてみたり、誰彼構わず声を掛けたり。
貴族あたりから見れば、此度のアークルのように節操なしのように言われるが、実際は彼女の生まれ育った環境によるものだから彼女には何の責もない。
ただ本人は若干気にしている様で「郷に入っては郷に従え」と彼女の国の諺を使いながら、勉強を始めていた。
それは正にフォランドからみれば好機で、施す勉強は当然「お妃教育」である。
勿論、彼女は何も知らない。今後どこで生活しても大丈夫なように・・・などと、いかにもな事を言いながら彼女に色んな勉強をさせているのだから。
だが、それにより有里の本来の良さを殺さないよう、教師は厳選された。
皇帝の妃が、身分を気にすることなく国民に対し平等に接する―――まさに理想の妃だ。
その分、危険度も増すがその良さは殺したくない。
どのように有里を育てるか・・・・それはもう楽しそうに教師の身上書を選別しているのを、側近達は怯えながら遠くで見ていたらしい。
お妃教育は順調に進んでいるのだが、アルフォンスとの関係がこれといって進んでいないのが今の所の悩みの種だ。
彼女の言った通り若返ったとはいえ息子同然の年齢の男に惚れろというのもある意味酷なのかもしれない。
真面目な彼女にとっては背徳感を感じるのかもしれないが、この世界では若い娘なのだと、恋愛事に関してもその事を自覚してもらいたい。が、これまでの行動を見ていれば若干難しそうだ。
まぁ、少なくともアルフォンスを好意的には思ってくれている事がわかっているだけでも、良しとしなくてはならないのかもしれないのだが。
切っ掛けとなる一押しが足りない・・・アルも色恋事には鈍感だし。
こればかりは他人が手を出して拗れてしまうのは避けたいですね。
しばらくは、傍観する事にしましょうか。
―――それにしても今日の彼女のアークルに対する態度は、予想外のものでした。
彼女があそこまで出来るとは、嬉しい誤算ですね。
気高く冷酷で、それで慈悲深い・・・
だらだらゴロゴロしているあの姿からは、まず誰も想像出来ないだろう。
刺すような冷たい眼差し。凛とした声。そして、堂々とした佇まい。
教育も必要ですが・・・まずはアルを一人の男として意識してもらわねばなりませんね・・・・
三日後にセイルの街へと向かい、初めて離れ離れになる。
これを好機としなくてはいけない。
彼のいない間に、どう彼を意識させるかだが・・・
アルが直々動くのが一番なのだが・・・期待薄だろうな、今は。
まぁ、城内の連中を巻き込めば、何とかなるだろう・・・
と、傍観しようと言った尻から周りを巻き込もうとする。
周りの被害など考慮せず、なんとも恐ろしい事をいとも簡単に考えてしまうあたり、歴代の腹黒宰相トップ5に数えられるだけはある。
何が何でも有里を、己の大切な親友アルフォンスの妃にするのだと、心に固く誓いながらも策をめぐらせるフォランドなのだった。
その頃の有里はと言うと・・・・
「うんん?」
何やら背中から這い上がるような寒気に身を震わせた。
「ユーリ様、どうなさいました?」
「うん、一瞬何か寒気がして・・・誰か私の悪口でもしてるのかしら・・・・」
腕をこすりながら眉間に皺を寄せる有里に、リリがにっこり微笑んだ。
「あら、悪口程度でしたら可愛いものですわ」
「え?」
「女神様が直々に連れてこられた使徒様ですもの。大っぴらに嫌がらせもできませんし、精々陰でこそこそと良からぬことを画策するしかありませんでしょう」
「陰で・・・?」
「そう。例えるなら、呪詛やら暗殺やら」
「え!?呪詛?暗殺?何それ、こわっ!!」
リリとランが何て事のないように、いつもと変わらぬ笑顔でサラッと言うから思わず聞き流してしまいそうになるが、かなり物騒で有里は思わず自分で自分を抱きしめた。
「大丈夫ですよ。呪詛なんて非現実的で効果などありません」
「暗殺だって大丈夫です。何のために私達が付いているとお思いですか?」
「え?いや、私の周りってそんなに物騒なの?」
改めて言われると、自分は何て危険な立ち位置に居るのかと自覚してしまい、不安になる。
「ねぇ、リリとランは大丈夫なの?私の周りに居る人も危険に晒されるって事よね?」
自分の事より周りを心配する有里に、リリとランは目を瞠ると困った様に笑った。
「大丈夫に決まってます」
「何時もお傍に居りますでしょ?」
何て事のないようにサラリと告げるその言葉に、有里は安堵から肩の力が抜けたようにへにゃっとした笑みを浮かべた。
「そうね・・・・何時もありがとう」
そしてまた有里の言葉に、彼女等もまた決意を新たにするのだった。
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