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なんで、こうなった・・・・
有里は死んだ魚の様な目で、天井を見つめた。
アルフォンスが怪我をして寝込んでいる間は、有里が看病していた。
寝込んでいたのは三日ほどで、それ以降は起き上がり、ベッドの上でではあるが仕事をこなすほどの回復を見せ、大人しくしていたのは七日ほど。
若いって事は素晴らしく、あっという間の通常営業にもどってしまった。
そうなれば、有里もお役御免とばかりに夜は自室で休もうとすると、「夜はいまだに体調がよくない」だとか「寒気がする」だとかで引き留められ、想いを確かめあった仲であるがこのままでいいのか・・・と悩んでいる間に、正式に婚約が発表され、「じゃあ、部屋は一緒でもいいですね」とフォランドのうすら寒い笑顔と共に言い渡され、今に至る。
あぁ・・・なんか、差し込む朝日が眩しいわ・・・
雲一つない、青空。
爽やかな、風。
新しい、一日。
なのに、有里の顔はまるで葬式でも控えているかのような、辛気臭い顔をしている。
「おはよう、ユウリ」
そんな彼女の事など、まるっとスルーして、太陽の様に眩しくも蕩ける様な笑顔を向けてくるアルフォンス。
瞼と頬に挨拶とばかりに口付けをし、有里を抱き込んだ。
・・・・・あぁ・・・甘い・・・この人、誰?ここは何処?
これまでの彼とは別人並の甘さとこの状況に、正直、有里は戸惑っていた。
なんで、こうなってる??同衾?
一緒に寝てるけど、一線は超えてませんよ?取り敢えず、まだ、清いですよ。いや、一線の基準が分からないけど・・・
って、誰に説明してんの!これじゃまるで、どっかの政治家みたいじゃん!
心の中でひとり漫才しつつ、有里は現実逃避するかのように目を閉じた。
想いが通じ合い、まぁ、通常であれば恋人になるのだろうが、それを一気に飛び越え婚約。
アルフォンス的には記憶も戻り、恋い焦がれていたその人が手に入る。正に良い事づくめ。いずれ妻となるのだから、何も抑える必要が無い。
だが、有里にしてみれば、確かに婚約はした。彼の事も好きだ。何の問題もない。・・・・そう、問題など一切ないのだ。
なのに、何だろう・・・・気持ちがモヤモヤするというか・・・落ち着かないというか・・・
いや多分、この急激な展開についてけてないんだ・・・私・・・
有里的には、アルフォンスを好きだと明確に自覚したのは、つい最近。
元いた世界でいうならば、恋人になってデートしたり色々と会えない時間で盛り上がり、想いを高め合って・・・まぁ、上手くいけば結婚という形に進んでいくのだろうけど。
ここでは、幼い時に婚約していたり、恋愛は二の次で家の為の結婚が今だ多い。特に高位貴族では。
そう言う世界の常識を持っていればさほど違和感はないのだろうが、有里にとってその常識は生まれる遙か前の時代の常識だ。
しかも相手は、サラリーマンとかではない。一国の王様だ。いや、一大陸の皇帝様だ。
問題、大有りじゃないですか!私・・・ただの、何の取り得もない一般ピーポーなんですけど!
無理ですよね!何の学もない私が皇帝様の奥さんなんて・・・無理ですよね!!
一緒に寝る様になって、結構な日数は経っているのに、未だ慣れない。慣れないというよりも、そう、有里はここに来て事の重大さに腰が引けてしまっていたのだ。
少し顔を上げ、自分を抱きしめるアルフォンスを見上げれば、それはそれは・・・この顔を見て断れる強者はいないだろう、と言うくらいの優しくも甘い表情を向けてくる。
・・・・・あぁぁぁ!どうしよう・・・・!!
愛さえあれば身分なんてっ!なぁんて言えるほど子供でもないし、身の程知らずでもないつもり。
中身がオバさんだから、それは仕方ないよね。もう、ホント!この冷静さが疎ましい!
本当に自分は我侭だと思う。
あれだけ、盲目的に恋愛するのが嫌だ、怖い、と思っていたのに、今はそれだった方がどんなに楽かと思っているのだから。
考えても答えが出るわけではない。そう、これは自分の覚悟次第なのだから。
分かってはいるのだけれど、そうそう簡単にはできなのもまた事実。
「どうした?ユウリ」
今一つ反応の薄い有里に、アルフォンスは少し身体を離し、顔を覗き込んだ。
「あ・・・うん・・・・」
言ってもいいのかな?今更だよね・・・でも、言っちゃったら呆れられる?嫌われる?
グルグルと頭の中が混沌としていると、アルフォンスはその額に口付けを落とした。
「また、余計なこと考えてるんだろ」
「うっ・・・余計じゃないよ・・私には重大なんだから・・・・」
「ごめん・・・そうだな。じゃあ、何に悩んでいるか聞こうか」
くっ・・・何でこう爽やかなイケメンになっちゃったのさっ!!
彼のどんな姿も、キラキラ輝いて見えてしまう時点でもう、引き返せないところまで落ちているのだというのに、有里はそれに気付かず心の中で文句を垂れる。
「うん・・・今更だけどさ・・・怖気づいてしまったっていうか・・・いいのかなっていうか・・・」
「結婚のこと?」
「うん・・・だって、私は普通の何の取り得もない人間だよ?こんなのがアルフォンスの奥さんなんて務まらないと思うんだけど・・・」
「そんな事、思ってたのか?」
どこか呆れたようなアルフォンスに有里はぷっと頬を膨らませた。
「そんな事じゃないよ!かなり重要な事だよ!アルフォンスの奥さんになる人は知性と教養を兼ね備えたどこぞの貴族のお嬢さんがいいのかもしれない。多分、その方が貴方やこの国の為にいいんだと思うの」
「ふぅん・・・ユウリはそれでいいのか?」
つまらなそうに返すアルフォンス。そんな彼が何だか憎らしくも愛おしく感じるのは、惚れた弱みとでも言うのか、ついつい小さな声で本音を漏らしてしまう。
「・・・・・いいわけ、ないじゃん・・・・」
ぶすっとした表情で返す有里に、アルフォンスは嬉しそうに目を細めた。
今更、この気持ちに蓋をすることなど無理だ。
特に幼い彼を見ている分、彼を助けたいと支えたいと強く願ってしまうから。
それに、自分以外の誰かが彼の横に立つなんて・・・・考えただけでも耐えられない。
もう、何処にも逃げ道はないし、自分の気持ちを無視する事も出来ない。
「わかってるの・・・後は私の覚悟だけだって・・・でもさ、私、何もできないよ?」
「ユウリは何も出来ないわけじゃない。自由になる時間は、この大陸の事や、国の事、全て勉強に費やしていただろう?」
確かに、フォランド達を教師に歴史やら何やらの勉強と共に、本を読み漁ってはいた。
「礼儀作法やダンスなんかも練習していただろ?」
アルフォンス達が帰ってきたら、ささやかなパーティがあると聞いていた為、彼に恥をかかせないために珍しく本腰入れて練習してきた。
「それが全て妃教育だ」
「・・・・・・・?えっ!?」
有里はがばっと身体を起こし「妃・・・教育?」と呟き、一体どれがお妃教育なのか、記憶の引き出しを漁り始めた。
「まだ途中ではあるらしいけど本格的な妃教育で、人前に出ても恥はかかないくらい仕込んだと、フォランドは言っていたが」
「・・・・ベルっ!」
どや顔のフォランドが、有里の脳裏にドンッと降臨する。
確かに、考えてみればこの国の歴史にしても産業にしても、上手い具合に興味が湧く様に話を投げかけてきていた。
一度気になれば調べずにはおれない性分。
そこを見透かされていたのか、上手い具合に手のひらで転がされていたようで、なんとも言えない気持ちになる。
――――やられた・・・・・
有里はがくりと項垂れ、大きく溜息を吐いた。
アルフォンスも身体を起こし「これで不安は無くなっただろ?」と笑い有里を抱き込むと、彼女は力なくアルフォンスに寄りかかり「流石、宰相閣下・・・負けたわ・・・」と悔しそうに唸る。
そんな彼女を愛おしそうに抱きしめていた彼も、そろそろ執務に向かわなければならない。
「名残惜しいけれど、そろそろ行かなくては」
「え?もう?朝食は?」
「今日の朝食は執務室で摂るよ。その代わり夕食は皆で摂ろうと思うんだが、いいか?」
『みんな』とは、誰々を指すのかわからず首を傾げると、彼は悪戯っぽく「秘密だ」と言い、優しく口付けベットから降りた。
「うん、わかった。楽しみにしてる」
そう言いながら、まだぎこちない所もあるが此処数日の間で習慣となった、アルフォンスの着替えを手伝うために有里もベッドから降りた。
そして甲斐甲斐しくも世話を焼いてくれる有里に、アルフォンスは愛しさだけが募り、身の内の熱を逃がすかのようにそっと小さな吐息を漏らすのだった。
有里は死んだ魚の様な目で、天井を見つめた。
アルフォンスが怪我をして寝込んでいる間は、有里が看病していた。
寝込んでいたのは三日ほどで、それ以降は起き上がり、ベッドの上でではあるが仕事をこなすほどの回復を見せ、大人しくしていたのは七日ほど。
若いって事は素晴らしく、あっという間の通常営業にもどってしまった。
そうなれば、有里もお役御免とばかりに夜は自室で休もうとすると、「夜はいまだに体調がよくない」だとか「寒気がする」だとかで引き留められ、想いを確かめあった仲であるがこのままでいいのか・・・と悩んでいる間に、正式に婚約が発表され、「じゃあ、部屋は一緒でもいいですね」とフォランドのうすら寒い笑顔と共に言い渡され、今に至る。
あぁ・・・なんか、差し込む朝日が眩しいわ・・・
雲一つない、青空。
爽やかな、風。
新しい、一日。
なのに、有里の顔はまるで葬式でも控えているかのような、辛気臭い顔をしている。
「おはよう、ユウリ」
そんな彼女の事など、まるっとスルーして、太陽の様に眩しくも蕩ける様な笑顔を向けてくるアルフォンス。
瞼と頬に挨拶とばかりに口付けをし、有里を抱き込んだ。
・・・・・あぁ・・・甘い・・・この人、誰?ここは何処?
これまでの彼とは別人並の甘さとこの状況に、正直、有里は戸惑っていた。
なんで、こうなってる??同衾?
一緒に寝てるけど、一線は超えてませんよ?取り敢えず、まだ、清いですよ。いや、一線の基準が分からないけど・・・
って、誰に説明してんの!これじゃまるで、どっかの政治家みたいじゃん!
心の中でひとり漫才しつつ、有里は現実逃避するかのように目を閉じた。
想いが通じ合い、まぁ、通常であれば恋人になるのだろうが、それを一気に飛び越え婚約。
アルフォンス的には記憶も戻り、恋い焦がれていたその人が手に入る。正に良い事づくめ。いずれ妻となるのだから、何も抑える必要が無い。
だが、有里にしてみれば、確かに婚約はした。彼の事も好きだ。何の問題もない。・・・・そう、問題など一切ないのだ。
なのに、何だろう・・・・気持ちがモヤモヤするというか・・・落ち着かないというか・・・
いや多分、この急激な展開についてけてないんだ・・・私・・・
有里的には、アルフォンスを好きだと明確に自覚したのは、つい最近。
元いた世界でいうならば、恋人になってデートしたり色々と会えない時間で盛り上がり、想いを高め合って・・・まぁ、上手くいけば結婚という形に進んでいくのだろうけど。
ここでは、幼い時に婚約していたり、恋愛は二の次で家の為の結婚が今だ多い。特に高位貴族では。
そう言う世界の常識を持っていればさほど違和感はないのだろうが、有里にとってその常識は生まれる遙か前の時代の常識だ。
しかも相手は、サラリーマンとかではない。一国の王様だ。いや、一大陸の皇帝様だ。
問題、大有りじゃないですか!私・・・ただの、何の取り得もない一般ピーポーなんですけど!
無理ですよね!何の学もない私が皇帝様の奥さんなんて・・・無理ですよね!!
一緒に寝る様になって、結構な日数は経っているのに、未だ慣れない。慣れないというよりも、そう、有里はここに来て事の重大さに腰が引けてしまっていたのだ。
少し顔を上げ、自分を抱きしめるアルフォンスを見上げれば、それはそれは・・・この顔を見て断れる強者はいないだろう、と言うくらいの優しくも甘い表情を向けてくる。
・・・・・あぁぁぁ!どうしよう・・・・!!
愛さえあれば身分なんてっ!なぁんて言えるほど子供でもないし、身の程知らずでもないつもり。
中身がオバさんだから、それは仕方ないよね。もう、ホント!この冷静さが疎ましい!
本当に自分は我侭だと思う。
あれだけ、盲目的に恋愛するのが嫌だ、怖い、と思っていたのに、今はそれだった方がどんなに楽かと思っているのだから。
考えても答えが出るわけではない。そう、これは自分の覚悟次第なのだから。
分かってはいるのだけれど、そうそう簡単にはできなのもまた事実。
「どうした?ユウリ」
今一つ反応の薄い有里に、アルフォンスは少し身体を離し、顔を覗き込んだ。
「あ・・・うん・・・・」
言ってもいいのかな?今更だよね・・・でも、言っちゃったら呆れられる?嫌われる?
グルグルと頭の中が混沌としていると、アルフォンスはその額に口付けを落とした。
「また、余計なこと考えてるんだろ」
「うっ・・・余計じゃないよ・・私には重大なんだから・・・・」
「ごめん・・・そうだな。じゃあ、何に悩んでいるか聞こうか」
くっ・・・何でこう爽やかなイケメンになっちゃったのさっ!!
彼のどんな姿も、キラキラ輝いて見えてしまう時点でもう、引き返せないところまで落ちているのだというのに、有里はそれに気付かず心の中で文句を垂れる。
「うん・・・今更だけどさ・・・怖気づいてしまったっていうか・・・いいのかなっていうか・・・」
「結婚のこと?」
「うん・・・だって、私は普通の何の取り得もない人間だよ?こんなのがアルフォンスの奥さんなんて務まらないと思うんだけど・・・」
「そんな事、思ってたのか?」
どこか呆れたようなアルフォンスに有里はぷっと頬を膨らませた。
「そんな事じゃないよ!かなり重要な事だよ!アルフォンスの奥さんになる人は知性と教養を兼ね備えたどこぞの貴族のお嬢さんがいいのかもしれない。多分、その方が貴方やこの国の為にいいんだと思うの」
「ふぅん・・・ユウリはそれでいいのか?」
つまらなそうに返すアルフォンス。そんな彼が何だか憎らしくも愛おしく感じるのは、惚れた弱みとでも言うのか、ついつい小さな声で本音を漏らしてしまう。
「・・・・・いいわけ、ないじゃん・・・・」
ぶすっとした表情で返す有里に、アルフォンスは嬉しそうに目を細めた。
今更、この気持ちに蓋をすることなど無理だ。
特に幼い彼を見ている分、彼を助けたいと支えたいと強く願ってしまうから。
それに、自分以外の誰かが彼の横に立つなんて・・・・考えただけでも耐えられない。
もう、何処にも逃げ道はないし、自分の気持ちを無視する事も出来ない。
「わかってるの・・・後は私の覚悟だけだって・・・でもさ、私、何もできないよ?」
「ユウリは何も出来ないわけじゃない。自由になる時間は、この大陸の事や、国の事、全て勉強に費やしていただろう?」
確かに、フォランド達を教師に歴史やら何やらの勉強と共に、本を読み漁ってはいた。
「礼儀作法やダンスなんかも練習していただろ?」
アルフォンス達が帰ってきたら、ささやかなパーティがあると聞いていた為、彼に恥をかかせないために珍しく本腰入れて練習してきた。
「それが全て妃教育だ」
「・・・・・・・?えっ!?」
有里はがばっと身体を起こし「妃・・・教育?」と呟き、一体どれがお妃教育なのか、記憶の引き出しを漁り始めた。
「まだ途中ではあるらしいけど本格的な妃教育で、人前に出ても恥はかかないくらい仕込んだと、フォランドは言っていたが」
「・・・・ベルっ!」
どや顔のフォランドが、有里の脳裏にドンッと降臨する。
確かに、考えてみればこの国の歴史にしても産業にしても、上手い具合に興味が湧く様に話を投げかけてきていた。
一度気になれば調べずにはおれない性分。
そこを見透かされていたのか、上手い具合に手のひらで転がされていたようで、なんとも言えない気持ちになる。
――――やられた・・・・・
有里はがくりと項垂れ、大きく溜息を吐いた。
アルフォンスも身体を起こし「これで不安は無くなっただろ?」と笑い有里を抱き込むと、彼女は力なくアルフォンスに寄りかかり「流石、宰相閣下・・・負けたわ・・・」と悔しそうに唸る。
そんな彼女を愛おしそうに抱きしめていた彼も、そろそろ執務に向かわなければならない。
「名残惜しいけれど、そろそろ行かなくては」
「え?もう?朝食は?」
「今日の朝食は執務室で摂るよ。その代わり夕食は皆で摂ろうと思うんだが、いいか?」
『みんな』とは、誰々を指すのかわからず首を傾げると、彼は悪戯っぽく「秘密だ」と言い、優しく口付けベットから降りた。
「うん、わかった。楽しみにしてる」
そう言いながら、まだぎこちない所もあるが此処数日の間で習慣となった、アルフォンスの着替えを手伝うために有里もベッドから降りた。
そして甲斐甲斐しくも世話を焼いてくれる有里に、アルフォンスは愛しさだけが募り、身の内の熱を逃がすかのようにそっと小さな吐息を漏らすのだった。
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