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フィオナがラッセル公爵家の処分を聞いたのは、それから一週間後の事だった。
容体も安定し、起きて歩き回れるくらいに回復した頃。と言っても、部屋から出る事は禁止されているのだが。
「ラッセル公爵だが、無期限で登城禁止にした」
「え?」
登城禁止という事は、謹慎処分という事。そして、国王からの信頼も得られず実質見放された事をも意味する。
その原因が、娘を国王の側妃に無理矢理しようとし、王妃の前で娘が大騒ぎ。その心労で王妃が倒れたという事で、害したとみなされた・・・・と広まったのだ。
それにより、今だ娘を側妃にすることを諦めていなかった貴族達は、一斉に方針転換したことは言うまでもない。
「お義父様はなんと?」
「あぁ、父上は初めから俺に任せると言ってくれていた。この事に関しても納得している」
どちらかと言えば「ぬるいんじゃないのか!?」と怒っていたくらいだ。
国王には妹と弟がいるのだが、その弟でもあるラッセル公爵との仲はあまり良くなく、いつも問題を起こす弟に頭を痛めていたのだ。
いっそのこと爵位を取り上げてもいいんじゃないか、と言っていたらしい。それだけ嫌っているという事。
「親が親なら娘も娘だ。あれで十五才というのだから、成人しても変わらないだろう」
こうなってしまっては、婚姻にも大きく影を落とす事が目に見える。
元々、「名前だけ公爵」と呼ばれていて、娘のクララに婚約者はいなかった。
一応、釣書きは送られていたようだが、公爵という地位狙いの野心家ばかり。
なんせ彼女は一人娘。公爵家を継ぐのはクララではあるが、実質婿が公爵家を動かすのだ。
クララの頭の緩さは有名だったので、割り切った関係でも良いという貴族令息などが釣書きを送っていたのだ。
表面上は彼女を尊重し、裏で愛人を囲えばいいかと考える男ばかりだった。
だが当の本人でもあるクララはアルヴィンに夢中で、全てお断りしていたのだが、それが今となっては仇になっているかもしれない。
このような状態になってはもう、求婚してくる者もいなくなるはずだ。
本来であれば修道院行きなのだが、父親でもある公爵が猛抗議。屋敷に監禁で話がついた。
兎に角、自分達が何をしたかという自覚が全くない事に、呆れを通り越し哀れになる。
国王に見放された家など、もう誰も見向きもしない。
その公爵家も次代はクララではなく、アルビンから見て叔母にあたる父の妹の息子を後継者とすることになったという。
「私としては、もう関わってこなければそれで良かったのですが・・・」
「何を言っているんだ。俺は父上の意見に賛成だったんだ。爵位を取り上げ国外追放でも」
「え!?それはちょっと・・・・」
アルヴィン的には、極刑でも安い位だと思っているが、口にはしない。
フィオナに又、精神的に負担をかけたくないから。
「あいつらの話はこれで終わりだ。それよりも、今日の体調はどうだ?痛い所は無いか?必要なものは無いか?」
また始まった・・・・
フィオナは心の中で息を飲む。
アルヴィンは、彼女が倒れたあの日からこれまで以上に時間を見つけては毎日のように訪れ、その眼差しと態度でフィオナに好意を示している。
言葉に出さないのは、出産するまでは負担をかけないようにという彼なりの配慮なのだが、あまりの甘さに言葉にしなくても変わらないのでは?と、マリアを筆頭に呆れられていた。
今までエスコート以外では触れる事がなかったが、「手を握ってもいいだろうか」とわざわざ許可を取り、常に手を繋いでいる状態だ。
不思議な事に、握られた手から思いが伝わってくる気がするのだから、自分もかなり絆されているのだろうなと、己の心境の変化に日々驚いている。
それに伴い、あれだけ会話もなく離縁だけを楽しみにしていたのに、今では三人で穏やかに暮らせたならと、想像してしまうのだから。
アルヴィンの事は恋愛だとかそういう意味での好意は、未だに持ってはいない。
ただ、腹の子の父親としては好意を持っていた。
元々彼が優しいのは、腹の子の為だけだと思っていたので、父親としての好意は意外と早くから芽生えてはいたのだ。
だからこそ、いつも寂しさを感じていた。自分がいなくても、何の支障もないのだと。
でも、アルヴィンの告白を聞いて自分はここに居てもいいのかもしれない。マリアの提案を聞いて、それなら子供と一緒に居れるのかも・・・と狭かった視野が広がった。
予定日まで、あと数週間。
心配そうに見つめるアルヴィンに「いつもありがとうございます」と微笑むのだった。
容体も安定し、起きて歩き回れるくらいに回復した頃。と言っても、部屋から出る事は禁止されているのだが。
「ラッセル公爵だが、無期限で登城禁止にした」
「え?」
登城禁止という事は、謹慎処分という事。そして、国王からの信頼も得られず実質見放された事をも意味する。
その原因が、娘を国王の側妃に無理矢理しようとし、王妃の前で娘が大騒ぎ。その心労で王妃が倒れたという事で、害したとみなされた・・・・と広まったのだ。
それにより、今だ娘を側妃にすることを諦めていなかった貴族達は、一斉に方針転換したことは言うまでもない。
「お義父様はなんと?」
「あぁ、父上は初めから俺に任せると言ってくれていた。この事に関しても納得している」
どちらかと言えば「ぬるいんじゃないのか!?」と怒っていたくらいだ。
国王には妹と弟がいるのだが、その弟でもあるラッセル公爵との仲はあまり良くなく、いつも問題を起こす弟に頭を痛めていたのだ。
いっそのこと爵位を取り上げてもいいんじゃないか、と言っていたらしい。それだけ嫌っているという事。
「親が親なら娘も娘だ。あれで十五才というのだから、成人しても変わらないだろう」
こうなってしまっては、婚姻にも大きく影を落とす事が目に見える。
元々、「名前だけ公爵」と呼ばれていて、娘のクララに婚約者はいなかった。
一応、釣書きは送られていたようだが、公爵という地位狙いの野心家ばかり。
なんせ彼女は一人娘。公爵家を継ぐのはクララではあるが、実質婿が公爵家を動かすのだ。
クララの頭の緩さは有名だったので、割り切った関係でも良いという貴族令息などが釣書きを送っていたのだ。
表面上は彼女を尊重し、裏で愛人を囲えばいいかと考える男ばかりだった。
だが当の本人でもあるクララはアルヴィンに夢中で、全てお断りしていたのだが、それが今となっては仇になっているかもしれない。
このような状態になってはもう、求婚してくる者もいなくなるはずだ。
本来であれば修道院行きなのだが、父親でもある公爵が猛抗議。屋敷に監禁で話がついた。
兎に角、自分達が何をしたかという自覚が全くない事に、呆れを通り越し哀れになる。
国王に見放された家など、もう誰も見向きもしない。
その公爵家も次代はクララではなく、アルビンから見て叔母にあたる父の妹の息子を後継者とすることになったという。
「私としては、もう関わってこなければそれで良かったのですが・・・」
「何を言っているんだ。俺は父上の意見に賛成だったんだ。爵位を取り上げ国外追放でも」
「え!?それはちょっと・・・・」
アルヴィン的には、極刑でも安い位だと思っているが、口にはしない。
フィオナに又、精神的に負担をかけたくないから。
「あいつらの話はこれで終わりだ。それよりも、今日の体調はどうだ?痛い所は無いか?必要なものは無いか?」
また始まった・・・・
フィオナは心の中で息を飲む。
アルヴィンは、彼女が倒れたあの日からこれまで以上に時間を見つけては毎日のように訪れ、その眼差しと態度でフィオナに好意を示している。
言葉に出さないのは、出産するまでは負担をかけないようにという彼なりの配慮なのだが、あまりの甘さに言葉にしなくても変わらないのでは?と、マリアを筆頭に呆れられていた。
今までエスコート以外では触れる事がなかったが、「手を握ってもいいだろうか」とわざわざ許可を取り、常に手を繋いでいる状態だ。
不思議な事に、握られた手から思いが伝わってくる気がするのだから、自分もかなり絆されているのだろうなと、己の心境の変化に日々驚いている。
それに伴い、あれだけ会話もなく離縁だけを楽しみにしていたのに、今では三人で穏やかに暮らせたならと、想像してしまうのだから。
アルヴィンの事は恋愛だとかそういう意味での好意は、未だに持ってはいない。
ただ、腹の子の父親としては好意を持っていた。
元々彼が優しいのは、腹の子の為だけだと思っていたので、父親としての好意は意外と早くから芽生えてはいたのだ。
だからこそ、いつも寂しさを感じていた。自分がいなくても、何の支障もないのだと。
でも、アルヴィンの告白を聞いて自分はここに居てもいいのかもしれない。マリアの提案を聞いて、それなら子供と一緒に居れるのかも・・・と狭かった視野が広がった。
予定日まで、あと数週間。
心配そうに見つめるアルヴィンに「いつもありがとうございます」と微笑むのだった。
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