口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん

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ついに出産予定日が来た。
予定日はあくまでも予定日であって、絶対ではない。なのに、朝からアルヴィンがフィオナから離れない。

「あの・・・陛下。お仕事はよろしいのですか?」
「心配ない。重要なものは昨夜のうちに終わっている」
「そうですか。ですが、あくまで予定日なので、今日生まれるわけではありませんよ」
今の所生まれてくる気配はない。なのに、一日中引っ付いているつもりなのだろうか・・・
今日生まれてこなければ、明日も?下手をすれば、生まれてくるまで傍から離れなさそうで、少しうんざりしてしまう。
ましてや、アルヴィンが無理しているのは一目瞭然で、寝不足なのか顔色が悪い。
「陛下、いつ生まれるかわからないのに、今このように無理をして本当に出産のときに倒れられたりしたら、どうなさるんですか?」
産気づいた時に、具合が悪く寝込んでいるアルヴィンの姿をなんとなく想像できて、笑えない。
「少しでも兆候がでましたら必ずお伝えしますから、今はお休みください」
側近につれられ、嫌々ながら部屋を出ていくアルヴィンを笑顔で送り出し、フィオナはホッと息を吐いた。
「愛されてますね、フィオナ様」
マリアが茶化すわけでもなく、どちらかと言えば呆れたように既に誰もいない扉を見ながら言った。
「あれは愛されているというのかしら?ただ、お腹の子が心配なだけではないの?」
「フィオナ様・・・・」
あれは誰がどう見ても、フィオナを心配している。
言い方は悪いが、腹の子はおまけみたいなものだ。
なのにフィオナにはそれが通じていない。アルヴィンは自分の気持ちを告白したはずなのに。
アルヴィンの恋心と、フィオナに対し今現在向けている気持ちを、別々に考えているのだ。

器用な方だわ・・・・
普通は告白されこんな風に甘やかされれば、絶対に相手に恋してしまうのに・・・

こうなってくると、アルヴィンに良い印象を持っていないマリアでも、健気な彼に同情してしまう。

まぁ、出産を終えたら話し合うって聞いているし・・・・
お互い良い結果となればいいけど。
お子様を残して離婚は悲しすぎるもの。

マリア自身、家族には恵まれていなかった所為もあってか、今となってはフィオナの離縁には消極的だ。
顔合わせの日には、愚かな国王に怒りしかなく「離縁上等!」一択だったが、アルヴィンのフィオナを想う気持ちや態度に、一番最初に絆されたのがマリアだったりする。
だからこそ、離縁ではなく今は家族として同居してはどうかと提案していたのだ。

親の温もりを知らないのは、とても悲しい事。
例え父親がいても、母親は特別な存在だと思うから・・・・

幼い頃、父親の女癖の悪さに離縁し家を出て行った母親をマリアは思い浮かべる。
兄と自分を残し出て行った母親。
父親は基本、子煩悩でよく子供の面倒も見てくれていた。
だが、その陰では浮気を繰り返し妻を苦しめる、夫としては最低でクズな人間だった。
女と遊びはするも、決して婚外子は作らないという、変な所で律儀な男でもあった。
だが妻に捨てられたその時から、彼の女遊びはぴたりと止み、病的なまでに子供達に執着する様になる。

「お前たちは、愛する妻との愛の結晶だ。何にも代えがたい宝物だよ」

捨てられて初めて見せる、妻への執着。ならばなぜ浮気ばかりしていたのか。
「愛しているからだよ」
と、父親は言った。
彼は初めから狂っていたのだ。妻を愛するばかりに、その愛し方を間違えて。

マリアと兄は、マリアが成人するのを待って家を出た。
元々、母親とは連絡を取り合っていたが父親とは家を出てから連絡は取っていない。
母親は、本当は子供二人を連れて出ていこうとしていたが、父親に拒否され連れていけなかったのだと謝罪。
大人になるにつれ、母親の気持ちもわかるようになってきたが、やはり親が恋しい気持ちも痛いほどわかる。
だから、できる事ならこれから生まれてくる子供にはそんな悲し想いをすることなく、幸せに暮らしてほしいと思ってしまうのだ。

それに・・・・フィオナ様もちょっと考え方を変えれば、陛下の気持ちに気付くはずだし。

ありったけの想いを乗せて、マリアはフィオナのお腹を優しく撫でるのだった。

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