ゆめも

toyjoy11

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役者と育毛剤と令嬢

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すんごいのよ、宰相猊下の化粧技術。

マルチア様もすごいけど、宰相猊下の方は特殊メイクに近い。

肌の色は透明感のある白に見えるように細工されたし、目も大きく見えるように化粧された。なのに、化粧していると分からない様にしてある。すごい。魔法のようだった。



セルジオのドレスもすごい。光を当てると城に見えるけど実際は水色のドレス。装飾が少ないので歩きやすいが、ウエストはかなりきつい。出来上がった変装姿の私は、誰だよって感じになっている。

まず、発案者の陛下に会いに行くことになった。



部屋に入ると陛下と王妃様が私の姿に驚いていた。

「全く別人じゃないか。」

ととても驚いている。陛下達は一度会っただけでもちゃんと覚えている模様。

「後で、メイク方法教えてね。グレコス。」

王妃様が嬉々という。

「かしこまりました。準備は既に出来ておりますよ?しますか?」

と宰相猊下。

「来週にね。隣国の王子が来るの。その時にお願いするわ。」

王妃様が口元を扇で隠しながら言う。

「はい。では、その時に。」

と宰相猊下もにこやかだ。



あ、これ、策略巡らしている顔だ。と思ったが、口にはしなかった。



再度、台本を確認し、第三王子の言動も既に書かれたものを読み直す。台本の中の第三王子はかなりおバカだ。いくら、自分より身分が低くても臣下の令嬢なのに、こんな「ふん、貴様が俺の婚約者か。まぁ、見た目は良いが、バイリス公爵令嬢に比べれば屑みたいなもんだな。」とかいうんだろうか?ありえないよね。もしも言ったら、同情せずに、台本通りにやってしまおう。



そう思いながら、案内された部屋に入る。

入るなり、第三王子は私の胸をまず見て、それから顔。そして、下半身を見てきた。

その時点で、げんなり。

「ふん、貴様が俺の婚約者か。まぁ、見た目は良いが、バイリス公爵令嬢に比べれば、カスみたいなもんだな。」

と言ってきた。



惜しい。とか思ったけど、宰相猊下凄いね。ほとんど台本通りに言っちゃったよこいつ。

「申し訳ありません。殿下。」

私はうやうやしく頭を下げて、謝罪する。

そして、一度顔をあげてから、カテーシーをする。

「わたくし、エンド侯爵家の長女、レティシア・エンドは、僭越ながら殿下にまた会える機会を得、誠に嬉しく・・・。」

「あー、かたっくるしぃ!わーってるって、婚約者になったから会いに来たって小難しく言いたいだけだろ。会ったんだからさっさと帰れよ。」

挨拶を遮る様に第三王子が文句を言う。台本通りに。なので、台本通りに・・・。

いち、に、さんと脳内で数えてから

「はい。それではこれにて失礼いたします。」

再度、カテーシーをして、帰ろうとする。もしも台本通りなら、ここで文句がはい・・・

「おい、てめぇ、待ちやがれ!!」

嘘だろう?宰相猊下なんで、ここまで予想してんの?!

「お前なんか、バイリス公爵令嬢の足元にも及ばないんだぞ。なのに、俺様の婚約者になったんだ。せいぜい、俺に尽くすんだな。」

と言ってやったぞ。みたいな顔で、彼はふんぞり返った。

「はい。精進いたします。」

また、お辞儀をしてから、やっとこさ、退場した。



「いい出来だよ!レティー!」

宰相猊下からOKを貰った。

「宰相猊下、本当に第三王子は台本読んでないんですよね?台本通りのセリフを言いましたよ?ごく一部違いましたけど。」

私は本当は私へのドッキリなのかと疑うほど、第三王子は台本通りに動いた。

「見せる筈が無いでしょう?あれで、クリスティアーノ第三王子殿下は自分で選んだ言葉を言ったつもりなんですよ。笑えるでしょう?」

と宰相猊下はククッと笑う。

とても外見が良いので、見ていて絵になる悪役が目の前にいます。

わざわざフルネームで言っちゃうほど、面白かったんですね。わかりますけどね。

「それより、レティー君はこの前、僕のところの子供になったんだよ?なんで、パパって呼んでくれないの?宰相猊下とか他人行儀過ぎでしょう?陛下なんかファーストネームを呼び捨てなんだよ?」

「・・・陛下を引き合いに出すのは非常に間違っているかと。」

と返すともう嬉しそうにニヤニヤの宰相猊下。その顔がどんどん接近してきた。

サッとセルジオが庇って、私を背に隠して前に出てくれた。トロンと溶ける瞳の宰相猊下。



はい!気持ち悪いです!マールーチーアさーまーーー!!!



ベシン!

ドゴン!!

宰相猊下がくの字に折れて、倒れました。現在、尻を高く上げて、蹲ってます。しゃくとり虫の人間バージョンみたいな姿勢?まぁ、自業自得である。マルチア様がパンチとキックを入れたので、そうなるのは当然だと思う。何処を攻撃されたかは想像に任せます。

「さ、仕事は終わりました。帰りましょう。」

「まるちあーー。」

うっとりとした顔で宰相猊下が顔だけこっちを見て、訴えかける。

「ただでさえ、趣味が悪いあなたの台本に付き合っているのですよ。せめて、貴方の存在の不愉快さを押さえる努力位してください。」

マルチア様の毒舌が最近、バージョンアップしていってる気がする。

毒舌って、もしかして、スキルなんだろうか?使えば、使うほどレベルが上がるとかそう言った世界なのか?この世界。

「毒舌ってレベルあったっけ?」

セルジオが私と同じことを考えていたらしい。

「え、セルジオもそう思ったの?でも」

「毒舌にスキルレベルなんてあるわけないでしょう?気持ち悪くて、本当に上達しただけよ。」

マルチア様から割り込むように説明が入りました。



まぁ、気持ち悪いのは同意する。

私とセルジオが養子に入ってからのほうがマルチア様と宰相猊下との距離が近くなった気がするのだが、きっと私たちの為なのだと思う。だって、本当に気持ち悪いし、常識人の助けが必要なので、有難い。



それにしても、一体どうして父親であるはずの陛下は第三王子をこんな状態になるまで放置していたんだろうか?それに、今回の台本だって・・・。



その答えは、3か月後になんとなくわかった。第三王子の誕生日の日、彼の母親である筈の側室様が最後まで現れなかった。第二王子は王妃様との間の子供だから、出席していないだけと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。

ただでさえ、かの側室様は王が昔から恋焦がれていた相手。王妃様からの信頼も厚い女性。そんな彼女が自分の子供の誕生会に出ないとは考えにくい。それに台本の中に側室様の出番は無い。

つまり、そう言うことなのだろう。



誕生日会の時、第三王子はそれはもう、傍若無人でした。他者が止めようとすれば、権力で抑えようとするし、殴る蹴るの暴行だってしますし・・・。いや、台本通りですよ?殴られる役の人にも台本渡しているの?と思ったけど、それはしていなさそうだし・・・。



性根が腐っているんではないのか?



と疑ってしまうほどだ。あまりのありように眉を顰める。台本には無いが、彼を諫めたいとつい、思ってしまう。

「我慢して、レティー。」

セルジオが私の様子に気付いてそう言った。

「うん。」

いくつもの視線が、私に彼を止めろと言っている気がする。衛兵たちが第三王子の被害者たちを運んでいく。一度、陛下直属の侍従に目配せをしてから、意を決して、台本通りに動いた。

「クリスティアーノ殿下。本日は、このような目出度い場なのです。もう少し落ち着かれてください。」

わかるぞ。そんなこと言ったら、私は殴られる。台本にはここで、妖精公爵令嬢が現れてギリギリ殴られるか殴られないかって書いてあったけど。

「なにをきさま!」

案の定だ。第三王子は拳を大きく振りかぶった。私は目をギュッと閉じる。

「なにごとですか?!」

妖精令嬢様のご登場だ。良かった!ギリギリ。本当にギリギリ。

第三王子は赤くなり、拳をサッと後ろに隠した。

「これは、御機嫌ようございます。義姉上様。」

と慇懃無礼な感じの礼を第三王子はした。教育担当呼んで来い!って思うほど下品な挨拶に、皆が眉を顰める。

「まだ、義姉上ではありません。しかし、これから家族になるお方にしても認められない行動と言うもんがございます。」

妖精令嬢様、偉い!すごい!

「そうだね。君の行動はあまりに常軌を逸しているよ。」

お!第一王子の登場!

「騒がしいと思って、来てみれば…どういうことだ?第三王子よ。」

え?ちょっと陛下が来るって聞いてないよ?台本にもないよ?それに、父親の筈の彼が既に番号でしか王子を呼ばないって・・・。



そこから、ちょっと台本と違った。

陛下が第三王子に謹慎処分を言い渡し、そのまま幽閉棟へ連行されたのだ。あまりに早すぎる。台本の時期はもう少し後の筈では?

とか思ったのだが、王族たちがかなり暗い瞳で暴れて抵抗している第三王子を見ているのに気付き、目をそらした。



あぁ、今、亡くなったのかと・・・。



慌ただしいまま、誕生日会は終了した。皆は特に説明をされることもなく、立ち去ることになったが、大人たちはその理由がわかっていたのだろう。だいぶ、誕生日会の終わりよりも早い時間なのに、既に全員分の馬車が来ていたのだから。

子供たちは、嫌なものを見たため、皆、ぐったりしているので、誰も彼も帰りたがっていた。

仕方があるまい。



私たちも侯爵家に戻る。

しばらくして、宰相猊下がわざとらしくプンプンと怒って帰ってきた。

「もう、屑がひど過ぎて、台本の時期よりだいぶ早くに処刑って、ありえないわ。」

とオカマ口調。マルチア様も呆れた顔でいる。それでも、口にはしない。

「まぁ、取り合えず、側室様であっても、大切な方。王室には珍しいタイプの女性だったから、僕も悲しいしね・・・。」

と小さな声で宰相猊下が呟いた。

そこには感情が籠っていた。珍しく。ふざけていない真面な感情が。

マルチア様を含め、私たちも、使用人たちも目を見開いた。



国葬が執り行われることになったのは、その2日後だった。

沢山の貴族が来た。

沢山の教会関係者も来た、自主的に。

平民もたくさん集まった。

どうやら、彼女はとてもたくさんの人に愛されていたようだった。

直接の死亡理由は、流産後の体調不良のため死亡。

流産の原因は第三王子が彼女のお腹を蹴った為。そして、第三王子は他にも彼女を階段から突き落としたりもしたんだそうだ。きっと、教えてくれた侍従さんの感じだともっと酷いこともしていそうだった。

理由は「お母さまが僕を見ないから。」らしい。



葬儀には彼も出席しているが、魔力で拘束されたままだ。一般の人には見えないだろうけど…。

教会の司教様も彼女には世話になったことがあったらしく、いろんな思い出を語ってくれた。

皆が皆、泣いていた。



そんな悲しい国葬が終わって、1週間後に王族予定の者たちだけが極秘に集められた。地べたに転がって、ほとんど動かない第三王子。同じく彼の教育係の人間数人も同じように転がっていた。教育係の方は欠損が激しい。

「これより、処罰を言い渡す。」

陛下が玉座から立って、彼らを見下ろす。

「起こせ。」

と宰相猊下が部下に指示する。

護衛兵たちが、白い手袋をつけて、何かしらの薬品をつけた布を手に持ち、転がっている人たちの口に当てた。

ビクンビクンと痙攣し、一斉に飛び起きた。

「すみません、申し訳ありません。ごめんなさい。もう、そんなこと考えません。」

教育係たちが起きてすぐに土下座して、何度も謝る。口々に自分の罪の深さを反省しているから助けて欲しい的なことを言っている。第三王子はなんで俺様がこんな目にと言おうとしているんだろうけど、声が出ない様に魔術がかかっているようで、耳障りの言葉を聞かずに済んで助かった。

「ならん、教育係たちは第三王子を擁立しようと動いたな。既に分かっている。御しやすいだろう?この馬鹿者なら。私がお前たちを教育係にしたのも確かに悪かったのかもしれないが、お前たちがここまで明らかに横暴な真似をするような教育を施すほどとは思わなんだ。」

陛下はつくづく、呆れたと言う物言いだが、憎悪の感情が言葉言葉に現れているので、耳を塞ぎたいと思った。

「第三王子は、これから、魔力炉行きとする。貴様たちは1週間後に公開処刑となる。わかったな。」

「そんな!」

「非道な!」

「たかが第三王子を唆しただけではないですか?!」

本当に度し難い。たかがではないし、唆しただけでもない。かの人はバカでも屑でも王族だ。唆した『だけ』で済むはずがない。幼い子供をそんな風に教育した乳母、執事、護衛兵、家庭教師たちはとある一派の人間だ。側室様のご実家の親戚たち。元々、側室様はご家族に虐待されていた人だったと隣で侍従の一人が説明してくれた。



第三王子の愚かさは、一応、血筋ということになるんだろうか・・・あまり、認めたくはない。

しかし、まあ、彼女の家族はそうなんだろうなぁ。



騒ぐ彼らの口に猿轡がされる。それぞれ、兵士に連れられて部屋を退出していった。



絶望的な顔の第三王子。口が何か言っている。声は出ないようにされているけど、口は動く。その口がこう言っているように思えた。

「どうしてですか?おとうさま。」

皆が、魔力炉に案内された。

着くなり、第三王子はこの国を守るためにある魔力炉の中に放り投げられた。

「うわあああああああ!!!!」

炉の中は、魔法がすべて吸い取られる。いや、生命さえも吸い取られる。だから、最後の瞬間だけ声が聞こえた。ただの悲鳴であったが。

妖精公爵令嬢が、思わず耳を塞いだ。それを第二王子が抱きしめる。

第一王子と婚約者殿は粛々と状況を見続けていた。

私は、涙が出そうになったが、グッと我慢した。

「ここが魔力炉と言う。」

陛下が直々に説明してくれた。



元々、この魔力炉と言うのがこの国にはあり、この魔力炉が展開する結界で国は覆われているらしい。一部のものしか知らない古代の秘宝が、この魔力炉。大きな魔力を持つものを100年に一度入れる必要があるが、それ以外はメンテナンスも必要はなく、魔物達からこの国を守っているらしい。

正直、魔物も結界も見たことが無いので、有難味が分からないが、陛下の様子からとても重要なことだと分かった。

この国は建国から1200年経つ。

それは、この結界のおかげなんだろうと容易に想像がついた。他国に出たことが無いので、本当の恐ろしさまではわからないが、きっとこれが無いとここまで長い治世を保つのは難しかっただろう。

「私たちは基本的に王族を止めた瞬間にここの中に入ることになっている。」

陛下がとんでもないことを言った。つまり・・・

「病気で死が確定した場合もだ。側室であった彼女もこの中にいる。」

やっぱかー、つまり、私たちもいずれ、殺されて、死なない限りここに入ることになるんだろうと気付く。皆が凄く暗い顔だ。

「早いか遅いかだけとは言いたくない。出来れば、私に悲しい選択をさせないで欲しい。」

陛下はそう言って、私たちに向けていた目線を魔力炉の方にそらした。

私たちも魔力炉の方を見る。

紫色の炎の中、幾本もの炎の波が助けを求める人の腕に見えてくる。

既に見えなくなったあの第三王子もこの中にいるのだろう。



そう考えると正直、吐き気を覚える。

暗い表情のまま、私たちは外に出ることになった。

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