ゆめも

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役者と育毛剤と令嬢

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あぁ、もう、一生分疲れた気がする。気疲れの方だ。体が苦垂れてないから眠れないし、魔力炉の光景が何回もリフレインしまくる。全く何見せやがるんだよ。と文句の一つも言いたくなる。



日が暮れて、ご飯食べて、風呂に入って、布団に入ったけど、眠れない。

仕方が無いので、ベッドから降りて、屈伸したり、柔軟体操したりした。



しばらくして、トントンとドアを叩く音がした。

「どうぞ。」

と私は答えた。現れたのはやはりセルジオだった。セルジオは魔力炉の部屋には入っていない。しかし、状況は察していたようだった。

「レティー・・・外に散歩に行かないか?」

と言った。既に深夜0時を過ぎている。そんな中、10歳と7歳の少年少女だけで外に出るなんてと思ったのだが

「うん。」

と答えた。室内にいるのはなんとなく苦痛だったから。



無言で手をつないで、裏口から外に出た。

夜空がとても綺麗だった。星はほとんど見えず、煌煌と光り輝く白い月がとても明るく、夜なのにと思うほどだった。

侯爵家の庭もそこそこ広い。しばらく行くと物置小屋らしきものがあった。

「昨日、見つけたんだ。」

セルジオが言う。

「昔住んでいたところより立派だけどね、似てないか?」

とあの襤褸小屋を暗に示した言葉に少し笑ってしまった。

「確かに似ているね。あれよりボロだったけど。」

「そうだね。今から思えば、よくあんなところって思ったね。」

とりとめのない昔話。

あの時、あーだったとか、こーだったとか。

そして、最後に私は

「貴族、辞めたい。」

と言った。セルジオも

「あぁ、逃げ出したいね。」

と言った。私たちには独り立ちしても大丈夫な程度の能力がある。以前の様に、ここに住んで、セルジオが服を作り、私が外でそれらを売ってくる。でも、今はそうはいかない。

例え、逃げ出しても無理な状況になってしまった。

セルジオは能力が上がりすぎていて、普通の服を作ったところで、目立ってしまうだろう。私も顔があちこちで知られているし、何より王族のみの秘密を教えられてしまった。もう、後戻りは不可だ。

それは、二人ともわかっていた。



白い月が冷気を放っている気がする。現在は7月でどんどん暑くなるはずなのに、今は心身と芯から体を冷やしてくる。

叫びたくなった。

そしたら、自然に声は歌声になって、響いた。



Are you going to Sc・・・♪



この国には無い音楽だろう。でも、歌わずにいられなかった。なぜ、この選曲なのかは自分でもわからない。ただ、歌っていた。セルジオは無言のまま私の隣でそれを聞いてくれた。



次の日、滅茶苦茶嫌そうな顔の宰相猊下が自分の部屋のドアの前に居た。

何事かと思ったら、いきなり泣き出して

「セルジオの奥さんに・・・くっ!」

ってなんか葛藤している。

「陛下がお呼びだ。」

と何かいろんなものを頑張って押し殺して、葛藤した後に宰相猊下が言った。



よくはわからないが、王城に呼び出されたらしい。

王城に行くならと部屋着だった服を着替えることになった。先ほど、来たばかりなのにと思ったら、メイドさんが来て、着替えを手伝ってくれた。

(あっ。)

と気付く。

昨日色々あったせいで、公爵邸にいた頃の様に早朝に起きて、自分で着替えたのだが、通常ならメイドさんが着替えをさせてくれるのだ。普通の貴族なら。すっかり寝ぼけていた。

現在は、朝の8時。わたし的には既に、働き始めている時間であった時間である。

侯爵邸に来てから、徐々にその時間に合わせて遅く起きようとしていたが、昨日のことがあり、つい、以前の癖で6時に起きて部屋の掃除をしてしたり、道具の手入れをしたりしてしまっていた。



いけないいけない。

そう思いつつ、登城用に着替えた。



訪れた城。

案内される王様と王妃様の私室。

(なじょして?)

と思わず、方言で疑問を心で叫ぶのは当然だと思う。許してほしい。

言われた言葉はさらに頭を混乱させた。

「貴方にはこのまま王子妃で居てもらいます。」



さっぱりわからん。

だって、婚約者である第三王子は既に死亡している・・・と思われる。少なくとも生きてこの場に現れるのは無理だ。

なのに、彼らはふざけた様子もなく真剣に言ってのけたのだ。

「相手が居りません。それに」

「大丈夫よ。関係ないわ。」

被せるように王妃様が言った。よくわからないのだが、第三王子が発生したらしい。

さらに意味が分からない。



トントンと控えめなノック音がして、陛下が

「ああ、入れ。」

と短く答えた。

現れたのはセルジオだった。

「これで、3回目の名字変更だな。」

と陛下は言った。

思わず数えてみる。

1回目、実の父の名字・・・ミディアムだっけ?

2回目、奴隷時に名字が無くなって、農民の実家は元々名字が無いし、ゲイノルズ家・・・は養子じゃなかったから変わらず。

3回目、養子になるために元のミディアムに戻って、

4回目、エンド侯爵家の養子になって、エンドになった

つまり、5回目が正しい。

しかし、公式記録上、奴隷になったと言うところは無くなるから、3回目と言うことになるらしい。

今度の名前はセルジオ・ガルド

エンド侯爵家に入って1年経つか経たないかなのに、王家に養子って大丈夫なんだろうか?とか思わなくはない。まぁ、そこはチョロマカスって言っている陛下・・・それは宰相猊下が頑張って作業するってことだよね?

朝の宰相猊下の機嫌の悪さの原因が分かった。



要は、セルジオが第三王子になるらしい。

年齢も本当は3つ年上の筈なのに、同い年にさせられるんだそうだ。

まぁ、セルジオ・ミディアムとしての書類は元々村に提出された書類だし、すぐに村の人が書類を改ざんして、セルジオを奴隷にした経緯がある。しかし、これが無かったことになる。既に村も無くなった様だから、3年くらいは誤差で何とかなる・・・なにそれ、怖い。

宰相猊下と陛下の考えたシナリオの一端を想像してゾッとする。



それを私が分かっていると言うことを前提で彼らはこれからの設定を私に言った。

セルジオは元々、私の実母と王弟殿下との子供だったと言うことになった。

そして、私が、レント・ミディアムの子供ということになった。



意味が分からない。



全然、意味不明過ぎて、さっぱりだった。

何より、王弟殿下との子供と言うのが分からない。だって、王弟殿下と実母の仲は最悪だったと聞くし、何より実母を死に追いやったのは、王弟殿下の筈。結婚前に追い出したと聞くし、それに王弟殿下は、陛下の横にいつも・・・ん??

昨日、王弟殿下いたっけ?



そこで思い至る。

「ま、まさか・・・あの・・・王弟殿下は今どこに?」

と言うとにんまりと笑う大人たち。

「やはり、頭がいい。」

陛下が笑う。

「そうでしょう?察しがとてもいいんですよ。」

と宰相猊下も笑う。

「あの方は数年前にどこかに旅に出られてしまって、行方不明なのよ。」

と王妃様が白々しく言う。

続けて、さも悲しい物語を語る様に

「あの義弟は、自分でゲイノルズ公爵令嬢を排斥させたのに、城の自分の部屋に彼女を閉じ込めていたのよ。それで生まれたのがセルジオよ?あなたはその遊び相手として、義弟に攫われた女の子だったのよ。偶然、ミディアム子爵子息の娘だったなんて運命ね。」

と綺麗な刺繍入りのハンカチを目元にあててそう言ってのけた。

「セルジオは、一応、既に社交界に顔を少し出してます。」

私が青い顔で言う。

「ゲイノルズ公爵がそれに気付いて、セルジオとあなたを義弟の部屋から攫って養子にしたようね。でも、奥方が勘違いして貴方たちを虐待していたでしょう?宰相猊下が気付いて、養子にしてくれて助かったわ。」

確かに、セルジオは奴隷時代に監禁状態になった過去もある。奴隷時代に酷い虐待を受けていたのは知っている。それをこういう状況で納める気かと目の前の人たちが化け物に見える。

しかし、グッと我慢する。

何より、奴隷だったことを隠すのにちょうど良い言い訳だと納得する自分もいるのだ。トラウマは私が傍にいるから何とかなっている節もなくは無いのだから。



これからたとえ、私が「私がゲイノルズ公爵令嬢の子だ」とか「今までの彼の経緯をどう説明する気か?」とか聞いても、ある意味改ざんされた物語を話されるだけだと思った。

セルジオに関していうなら、「ゲイノルズ公爵がセルジオと私を勘違いした」「ゲイノルズ公爵家で虐待されていたから自分の兄の子として引き取った」

とか言うんだろう。私に関しても、似たような感じの設定を言われるだけだ。

「顔はどうするのですか?」

とつい言ってしまった。なにせ、似ていないのだ。私はミディアムという人は知らないが、私と実母はとてもよく似ていると養父母は言っていた。セルジオは宰相猊下が太鼓判押すほどミディアム子爵子息にそっくりらしい。

「それを通すのが貴族だよ?」

と当たり前の様に宰相猊下が言った。

子供を諭すような優しい顔で。



もうヤダー。と言いたいけど、我慢をした。



「なぜ、そうまでして、私とセルジオが欲しいのですか?」

と聞くに留めた。

「貴方たちは頭がいい。第三王子は基本的には政略結婚としての駒か王政の補助になる。私たちは優秀な駒が欲しいわ。どうせなら。」

王妃様が笑う。

「元々、貴女の適正職業は、とても好ましかった。実際、適正と言わざる得ないくらい素晴らしかった。」

宰相猊下が私の頭を撫でながら言う。

振り払いたいその手と思った。

「セルジオも優秀で、貴方と彼をセットで欲しかったのだけれど、建前がね。欲しかったのよ。良かったわ。偶然、義弟の息子が見つかって。」

王妃様がにっこり笑う。



何度目だろう。もう嫌だーー。と脳内は叫びまくっている。

「彼女はあなたたちの良心だったのですね。」

と嫌味混じりで言うと空気がキンと冷たくなった。

「申し訳ありません。二度と言いません。」

とすぐさま謝罪した。

「その方がいい。」

と陛下が真剣な顔で言った。



側室様、既に天国にいらっしゃると思いますが、助けて欲しいと言って良いでしょうか?と脳内で祈ってしまった。

私の名前の経緯は色々変わってしまったが、取り合えず、『レティシア・エンド侯爵令嬢』。セルジオの婚約者。

セルジオの名前も経緯が変わり『セルジオ・ガルド第三王子』になった。


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