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失格父が溺愛父になるまで
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あちこち痛くて仕方が無い。
お腹が痛い頭が痛い。懐は一杯あるのに時間が無い。
働いて働いて働いて。
働くこと自体は嫌いじゃない。
人間と一緒に働くのが苦手なだけだ。
色々あって、テレワークが推奨され、それからは俺の中のストレスがかなり軽減された。
好きな音楽を聴きながら、変なデスクトップ画像にしつつ、作業をする。
でも、仕事自体は忙しい。
会社に行かなくても、会社の人間とはかかわりを持たなくてはいけない。
当たり前だ。
右下の枠に同僚や上司の現状がずっと見え続けるのは、正直うんざりする。
そっと、作業画面で隠す。
仕事をこなす。
線をひく。
計算をする。
俺の仕事は設計士だから。
パソコン内で計算するのにも慣れてきた。
以前は手元のメモ帳に走り書きして計算していたけど、計算ミスがあったらいけないと言うことと履歴と言うかそこに至る経緯を残さなきゃいけないらしいので、メンドクサイと思いつつExcelに計算をわざわざ書いていく。
まぁ、このExcelを使って、後の後輩たちが頑張るらしいので精々頑張らせてもらう。
会社にいた時はチャイムの音とか他の人の声かけとかで休憩を取っていたけど、家にいるとそれが無いから、止めが無い。
永遠とエンドレス仕事。
カチカチとマウスをぱちぱちとキーボードを。
半年ほどそれを続けていたある日。
プツンと何かが切れた。
暗転する世界。
痛みから解放され、温かく暗い世界に誘われた。
混乱して、叫んだ。
でも、温かな体温に包まれて、徐々に落ち着いてきた。
お腹が減らない。
でも、なんだか、誰かから貰っている気がする。
とても幸せ。
しばらくそうして過ごしていた。
***
急に生臭いものをかけられて酷く嫌な気分になる。
ベタベタとした生臭いもの。
イヤイヤと逃げようとするけど、ここは狭くて逃げられない。
一生懸命に逃げようとしたけど、どうにもできない。
非常に嫌な気分。
そんなことが何回もあった。
****
急に周りの壁が収縮し始めた。
すると途端に息苦しくなってくる。
一生懸命に息をしようと暴れる。
頭が割れるように痛い。
まるで頭蓋を変形させられているかのようだ。
一生懸命動いていたら、とても寒い世界が待ち受けていた。
苦しいし寒いしで、辛くて泣いてしまった。
***
周りは良く見えない。
声もよくわからない。
でも、一つ分かること。
それは、俺は生まれ変わったと言うこと。
そして、恐らく、貴族として生まれてきたと言うこと。
豪奢な服っぽいのを着ている人間と地味な服のエプロン姿の女性がぼやけ眼(まなこ)からも見えた。
授乳をしてくれるのは、エプロン女性の方。
おかしなことだとつくづく思う。
貴族は子育てを基本的にしない。乳母を雇ってそれをする。
授乳しないと胸が張るだろうに、父親がそれを独占でもしたいのだろうか?
そして、げんなりする。
(あぁ、あの生臭い液体はアレかよ…。最悪だ。)
と。
***
しばらく、体力をつけるためにもウゴウゴ動く。
寝返りをうつことさえ困難な貧弱な体だ。
眼もよく見えない。
言葉は今までの言語と違う。
真似をしてみるけど、半濁音が特徴的でなかなか難しい。
一生懸命に何回も繰り返す。
乳母の匂いは覚えた。
だから、思う。
この部屋に、父も母も来ない。
来ているのは、乳母だけだ。
なんでだろうか?貴族でも人の子。生まれたばかりの子供をこんなにも放置できるものなんだろうか?
まぁ、乳母がいるから放置ではないんだけど。
他の召使いっぽい人もこの部屋に入ってくることはめったにない。
(変な家だなぁ)
とつくづく思う。
***
更に時を経て、言葉が分かるようになってきた。
俺の乳母は、どうやら寡婦らしい。
戦争で、夫を亡くし、親戚を頼ってこの侯爵家のメイドになることが出来た。
しかし、その時にはお腹がかなり大きくなっていた。
亡くした夫との子供。
でも、働く為には、子供と一緒にいることは出来ない。
出産後すぐに子供は夫の義父母に預けたらしい。
つまり、そこ離ればなれになっている子供の乳を俺は貰っていると言うことらしい。
・・・申し訳ない。
この世界は、前の世界で言うところの中世ヨーロッパの様式に近い。
あの世界線と似た国であるならば、母子家庭と言うものはかなり困難なものだと思われる。
女性軽視。仕事の差別化。
きっと、あると思う。
そりゃ、体力的に性別区別は必要なものは多いと思うが、それ以外の者については性別の区別は必要ないと思う。だから、差別はよくないと思うのだけど、赤さんの俺がそれを言うことは出来ない。
…いや、待て、戦争ってなんじゃ??
ここ、戦争があった国なの?
どっちが勝ったの?雰囲気的にはうちが勝ったっぽいけどさ…。
…短慮な王族の下の貴族だったら嫌だなぁ…。
そうそう、名前が分かった。
エディス・マンティス侯爵子息。
それが、俺の名前らしい。
恐らく、次男。
良かった。貴族長男の重責とか嫌だもんなぁ。それに、同じ男に生まれて良かったぁ。
転生したって気づいた時、性別が変わっていたら、色んな意味で立ち直れない。
だって、前生39年DTだったんだよ?
今生位卒業したいじゃん?DT卒業!
でも、やっぱりさ、卒業するならやっぱりさ、好きな人とこう、ロマンティックな感じでさ、キャッキャウフフな。
妄想が飛びまくった。いかんいかん。
取り合えず、俺は腹ボテS〇Xだけは絶対しない!これ絶対!
スンゲー不愉快だったもん!
***
生まれてから多分2か月くらいたったある日、父母っぽいのが来た。
生きてる確認だけして、10秒くらいで去っていった。
化粧の濃い匂いの女性がその後を追って見に来たけど、1分くらい見て去っていった。
その後、いい匂いのする子供の匂いがした。
目を開けると二足歩行が出来るか出来ないかギリギリな赤さんがこっちを見ていた。
1歳位だろうか?
違う乳母さんがいる。
兄の乳母さんだろう。
挨拶に手を振ってみる。
兄も手を振り返してくれた。
「あばうば(こんちは!)」
挨拶してみた。
「うば?あばうば?」
伝わらなかった。
兄と兄の乳母は30分くらい滞在して、去って行った。
その間、乳母たちは現在の状況を話し合っていた。
同じベッドに入れられた俺たちは仰向けで寝転がって、たまに赤さんの手が伸びてくるのを握るだけの運動をした。
***
現状、俺と兄は同じ母から生まれた。1年違いで生まれている。
兄は春生まれ。俺は次の年の冬生まれ。
つまり、夫婦仲は悪くない。むしろ、良好。
しかし、副産物である俺たちに興味はあまりない。
長男は必要とは考えているものの、それは必要なだけで特に感情があるわけでは無いと言うことらしい。
むしろ、妊娠したらS〇X出来ない期間が増えて不愉快みたいな感じらしい。
うぇー嫌な男。
これだから非DTは。
母親の方は、子供に興味がないわけでは無いのだが、夫優先。実はこの家、長女が居たらしいのだが、初めての子供だったので、母親は滅茶苦茶構ったらしい。そしたら、父が滅茶苦茶拗ねて、大変なことになったんだとか。
結果、長女は死んじゃったんだそうだ。
何それ?怖い。
これって、要するに父が意識的にか無意識かは分からんけど、自分の子供を死に誘ったってことだよね?
事実はさておき、乳母さんたちは少なくとも父が子供に関してあんまりいい感情を持っていないってことを言ってるよね?
そして、母が母親らしくここに来ていたら、俺死んでたってことだよね?
うぇへー怖いね。
乳母さんたちが居るから、両親が来なくても生きれるし、取り合えず、生存頑張ろう。
そして、あわよくば、貴族を出て、設計士になろう。
兄も一緒に連れて行けるなら、一緒に連れて行こう。
ここにいるよりはマシだろう。
***
生後、1年経ちました。
3日に1度は兄と兄の乳母が訪問するようになった。
初めは1か月に一度程度だったけど、徐々に頻度が上がり、今では、かなりの常連さんだ。
来ては、乳母さんたちは情報交換をしている。
俺らは仲良く転がって遊んでいる。
兄がよちよち歩きが出来るようになり、私はハイハイが出来るようになり、たまに二足歩行も出来るようになった。
でも、転がる方がスピードが速いのだ。
どれだけスピードが出せるかを言葉が通じにくいながらも交し合い、転がって遊んでいる。
結果、この部屋には絨毯が敷かれた。
頻繁に乳母たちは交換してくれるので、3日に1度は洗濯済みの絨毯だ。
通常の絨毯なら毛長の絨毯なんだろうけど、この部屋の絨毯は何枚もの布をあわせたようなもの。
あーなんだっけ?
そう、キルト。キルトの絨毯だった。
おかげで清潔に快適に転がれる。
この絨毯は乳母たちとメイドさんたちが協力して作ったらしい。
有難い。
ちなみに、俺の乳母はナンシー。兄の乳母はメアリー。兄の名前はアンドレイ。
俺は、情報交換が終わってのほほんとしている二人の乳母にトテトテと覚束ない足取りで歩いて、交互に二人を抱きしめる。
「なんしーありがと」
「めありーありがと」
すると兄のアンドレイが嫉妬するので、
「あにしゃ、ぎゅー。」
と言って、兄を抱きしめる。
すると倍の力で抱きしめられて、苦しくて暴れる。
それを3日に1度はやるのだった。
***
~ナンシーside~
ここの侯爵邸には天使が2人いる。
アンドレイ様とエディス様。
長男のアンドレイ様は、父親であるマンティス侯爵様の銀髪と母親であるライラニア様の青い目を引き継いでおり、美幼児です。
次男のエディス様は、マンティス侯爵様の銀髪とライラニア様の祖母の赤い目を持っており、やはり、美幼児です。
顔立ちはどちらもマンティス侯爵様に似ておらず、どちらかと言えば、先代侯爵に似ているような感じですが、それは仕方がありません。
何故なら、マンティス侯爵様はマッチョなのです。
体格が良く、眉間にしわが常に入っており、いつも口をへの字にしているのです。
この方に子供時代があったのか想像ができないのです。
その為、この天使達の父親とどうにも認識できません。
加えて、父親なのに、この天使たちに会いに来ることはごくごく稀です。
それも母親であるライラニア様がおねだりしてギリギリ来てくれるレベル。
ライラニア様も悪い方ではないのですが、侯爵様を大好き過ぎて、優先順位は低いようです。
でも、そんなお二人は結構真面目に領地を統治なさっており、私たちが日々平和に暮らしているので、文句はありません。
噂に聞けば、隣の男爵領では重税が課せられて、餓死者が出ているんだとか。
この侯爵領にも徐々に難民として流入してきており、あちこちにスラムが形成されてきているんだそうです。
ただでさえ、1年前の戦争で、難民が隣国から流入してきているのに、男爵領からも流入とは、色んな意味でてんてこ舞いになりそうです。
そう考えると侯爵は敏腕なんでしょう。小さないざこざはあっても、餓死者などは居ません。税金をあげずにこの状況を作っているのですから。
忙しいのはわかります。でも、この天使を楽しめる時間は有限なのに、勿体ないと思うのです。
私の担当のエディス様は事あるごとに私と同僚のメアリーを抱きしめて
「ありがとう」
と言ってくれるのです。
柔らかいほっぺをこれでもかと押し付けて、ぎゅーしてくれるのです。
その様子に嫉妬して兄であるアンドレイ様も弟のエディス様にぎゅーを要求して、美幼児のぎゅーです。
これは至福です。
天上の神の祝福を感じるレベルです。
本当、幸せ。
これを3日に1度見れるのです。
本当、幸せ。
正直、毎日会いに来てもらいたいのですが、長男としてアンドレイ様には教育が開始されてしまったのです。
まだ、2歳なのですから、のんびり遊んでもらってもいいと思うのですが、侯爵様はそうは考えていないようです。
実に残念。
しかし、メイドたちは頑張りました!3日に1度はお休みをアンドレイ様に設けることができました。
メイドたちはこの美幼児に夢中なのです。
メイドの中の絵が上手なものはこの美幼児をドアの隙間から見て絵を描いていますし、そうで無い者も掃除の合間に見に来てます。
ちなみに美幼児の絵はメイドたちがお金を出し合って、紙とインクペンを購入しあって、描いてもらってます。
本当なら色絵の具を買いたかったのですが、予算の関係で出来ませんでした。
それでもこの白黒の美幼児の絵は好評です。
出来たらすぐに前回の費用捻出順にゲーム開始です。
ゲームに勝ったものだけが、美幼児の絵を手に入れることが出来るのです。
ちなみに私とメアリーは惨敗中です。
まぁ、私たちは直に天使たちと戯れる権利を得てますからいいですけどね。
二人は大変優秀で、既に文字を書けるのです。
凄い。
うちの子は同じ1歳児ですが、まだ、文字を書けません。
まぁ、うちには本も無いし、教える人も居ないので致し方が無いのですが。
それでも、エディス様は私達は少なくとも教えていません。
兄であるアンドレイ様がところどころつっかえながら、絵本を読んであげている位です。
なのに、ほぼ間違わずに書けるようになるなんて天才なのかしら?
縫物が得意な者が、かなり遅いペースではあるものの美幼児の刺繍をハンカチにしています。
図案は絵本を読む兄弟。
もう!もう!素敵。
欲しいのに未だに勝てません。
私たちも必死に描いてみたり、刺繍してみるのですが、この天使の愛らしさを上手に表現できません。
あー悔しい。
願わくば、この天使たちの映像を後世に残す魔道具は無いのかしら。
あーもう、誰か開発してほしいわ!
お腹が痛い頭が痛い。懐は一杯あるのに時間が無い。
働いて働いて働いて。
働くこと自体は嫌いじゃない。
人間と一緒に働くのが苦手なだけだ。
色々あって、テレワークが推奨され、それからは俺の中のストレスがかなり軽減された。
好きな音楽を聴きながら、変なデスクトップ画像にしつつ、作業をする。
でも、仕事自体は忙しい。
会社に行かなくても、会社の人間とはかかわりを持たなくてはいけない。
当たり前だ。
右下の枠に同僚や上司の現状がずっと見え続けるのは、正直うんざりする。
そっと、作業画面で隠す。
仕事をこなす。
線をひく。
計算をする。
俺の仕事は設計士だから。
パソコン内で計算するのにも慣れてきた。
以前は手元のメモ帳に走り書きして計算していたけど、計算ミスがあったらいけないと言うことと履歴と言うかそこに至る経緯を残さなきゃいけないらしいので、メンドクサイと思いつつExcelに計算をわざわざ書いていく。
まぁ、このExcelを使って、後の後輩たちが頑張るらしいので精々頑張らせてもらう。
会社にいた時はチャイムの音とか他の人の声かけとかで休憩を取っていたけど、家にいるとそれが無いから、止めが無い。
永遠とエンドレス仕事。
カチカチとマウスをぱちぱちとキーボードを。
半年ほどそれを続けていたある日。
プツンと何かが切れた。
暗転する世界。
痛みから解放され、温かく暗い世界に誘われた。
混乱して、叫んだ。
でも、温かな体温に包まれて、徐々に落ち着いてきた。
お腹が減らない。
でも、なんだか、誰かから貰っている気がする。
とても幸せ。
しばらくそうして過ごしていた。
***
急に生臭いものをかけられて酷く嫌な気分になる。
ベタベタとした生臭いもの。
イヤイヤと逃げようとするけど、ここは狭くて逃げられない。
一生懸命に逃げようとしたけど、どうにもできない。
非常に嫌な気分。
そんなことが何回もあった。
****
急に周りの壁が収縮し始めた。
すると途端に息苦しくなってくる。
一生懸命に息をしようと暴れる。
頭が割れるように痛い。
まるで頭蓋を変形させられているかのようだ。
一生懸命動いていたら、とても寒い世界が待ち受けていた。
苦しいし寒いしで、辛くて泣いてしまった。
***
周りは良く見えない。
声もよくわからない。
でも、一つ分かること。
それは、俺は生まれ変わったと言うこと。
そして、恐らく、貴族として生まれてきたと言うこと。
豪奢な服っぽいのを着ている人間と地味な服のエプロン姿の女性がぼやけ眼(まなこ)からも見えた。
授乳をしてくれるのは、エプロン女性の方。
おかしなことだとつくづく思う。
貴族は子育てを基本的にしない。乳母を雇ってそれをする。
授乳しないと胸が張るだろうに、父親がそれを独占でもしたいのだろうか?
そして、げんなりする。
(あぁ、あの生臭い液体はアレかよ…。最悪だ。)
と。
***
しばらく、体力をつけるためにもウゴウゴ動く。
寝返りをうつことさえ困難な貧弱な体だ。
眼もよく見えない。
言葉は今までの言語と違う。
真似をしてみるけど、半濁音が特徴的でなかなか難しい。
一生懸命に何回も繰り返す。
乳母の匂いは覚えた。
だから、思う。
この部屋に、父も母も来ない。
来ているのは、乳母だけだ。
なんでだろうか?貴族でも人の子。生まれたばかりの子供をこんなにも放置できるものなんだろうか?
まぁ、乳母がいるから放置ではないんだけど。
他の召使いっぽい人もこの部屋に入ってくることはめったにない。
(変な家だなぁ)
とつくづく思う。
***
更に時を経て、言葉が分かるようになってきた。
俺の乳母は、どうやら寡婦らしい。
戦争で、夫を亡くし、親戚を頼ってこの侯爵家のメイドになることが出来た。
しかし、その時にはお腹がかなり大きくなっていた。
亡くした夫との子供。
でも、働く為には、子供と一緒にいることは出来ない。
出産後すぐに子供は夫の義父母に預けたらしい。
つまり、そこ離ればなれになっている子供の乳を俺は貰っていると言うことらしい。
・・・申し訳ない。
この世界は、前の世界で言うところの中世ヨーロッパの様式に近い。
あの世界線と似た国であるならば、母子家庭と言うものはかなり困難なものだと思われる。
女性軽視。仕事の差別化。
きっと、あると思う。
そりゃ、体力的に性別区別は必要なものは多いと思うが、それ以外の者については性別の区別は必要ないと思う。だから、差別はよくないと思うのだけど、赤さんの俺がそれを言うことは出来ない。
…いや、待て、戦争ってなんじゃ??
ここ、戦争があった国なの?
どっちが勝ったの?雰囲気的にはうちが勝ったっぽいけどさ…。
…短慮な王族の下の貴族だったら嫌だなぁ…。
そうそう、名前が分かった。
エディス・マンティス侯爵子息。
それが、俺の名前らしい。
恐らく、次男。
良かった。貴族長男の重責とか嫌だもんなぁ。それに、同じ男に生まれて良かったぁ。
転生したって気づいた時、性別が変わっていたら、色んな意味で立ち直れない。
だって、前生39年DTだったんだよ?
今生位卒業したいじゃん?DT卒業!
でも、やっぱりさ、卒業するならやっぱりさ、好きな人とこう、ロマンティックな感じでさ、キャッキャウフフな。
妄想が飛びまくった。いかんいかん。
取り合えず、俺は腹ボテS〇Xだけは絶対しない!これ絶対!
スンゲー不愉快だったもん!
***
生まれてから多分2か月くらいたったある日、父母っぽいのが来た。
生きてる確認だけして、10秒くらいで去っていった。
化粧の濃い匂いの女性がその後を追って見に来たけど、1分くらい見て去っていった。
その後、いい匂いのする子供の匂いがした。
目を開けると二足歩行が出来るか出来ないかギリギリな赤さんがこっちを見ていた。
1歳位だろうか?
違う乳母さんがいる。
兄の乳母さんだろう。
挨拶に手を振ってみる。
兄も手を振り返してくれた。
「あばうば(こんちは!)」
挨拶してみた。
「うば?あばうば?」
伝わらなかった。
兄と兄の乳母は30分くらい滞在して、去って行った。
その間、乳母たちは現在の状況を話し合っていた。
同じベッドに入れられた俺たちは仰向けで寝転がって、たまに赤さんの手が伸びてくるのを握るだけの運動をした。
***
現状、俺と兄は同じ母から生まれた。1年違いで生まれている。
兄は春生まれ。俺は次の年の冬生まれ。
つまり、夫婦仲は悪くない。むしろ、良好。
しかし、副産物である俺たちに興味はあまりない。
長男は必要とは考えているものの、それは必要なだけで特に感情があるわけでは無いと言うことらしい。
むしろ、妊娠したらS〇X出来ない期間が増えて不愉快みたいな感じらしい。
うぇー嫌な男。
これだから非DTは。
母親の方は、子供に興味がないわけでは無いのだが、夫優先。実はこの家、長女が居たらしいのだが、初めての子供だったので、母親は滅茶苦茶構ったらしい。そしたら、父が滅茶苦茶拗ねて、大変なことになったんだとか。
結果、長女は死んじゃったんだそうだ。
何それ?怖い。
これって、要するに父が意識的にか無意識かは分からんけど、自分の子供を死に誘ったってことだよね?
事実はさておき、乳母さんたちは少なくとも父が子供に関してあんまりいい感情を持っていないってことを言ってるよね?
そして、母が母親らしくここに来ていたら、俺死んでたってことだよね?
うぇへー怖いね。
乳母さんたちが居るから、両親が来なくても生きれるし、取り合えず、生存頑張ろう。
そして、あわよくば、貴族を出て、設計士になろう。
兄も一緒に連れて行けるなら、一緒に連れて行こう。
ここにいるよりはマシだろう。
***
生後、1年経ちました。
3日に1度は兄と兄の乳母が訪問するようになった。
初めは1か月に一度程度だったけど、徐々に頻度が上がり、今では、かなりの常連さんだ。
来ては、乳母さんたちは情報交換をしている。
俺らは仲良く転がって遊んでいる。
兄がよちよち歩きが出来るようになり、私はハイハイが出来るようになり、たまに二足歩行も出来るようになった。
でも、転がる方がスピードが速いのだ。
どれだけスピードが出せるかを言葉が通じにくいながらも交し合い、転がって遊んでいる。
結果、この部屋には絨毯が敷かれた。
頻繁に乳母たちは交換してくれるので、3日に1度は洗濯済みの絨毯だ。
通常の絨毯なら毛長の絨毯なんだろうけど、この部屋の絨毯は何枚もの布をあわせたようなもの。
あーなんだっけ?
そう、キルト。キルトの絨毯だった。
おかげで清潔に快適に転がれる。
この絨毯は乳母たちとメイドさんたちが協力して作ったらしい。
有難い。
ちなみに、俺の乳母はナンシー。兄の乳母はメアリー。兄の名前はアンドレイ。
俺は、情報交換が終わってのほほんとしている二人の乳母にトテトテと覚束ない足取りで歩いて、交互に二人を抱きしめる。
「なんしーありがと」
「めありーありがと」
すると兄のアンドレイが嫉妬するので、
「あにしゃ、ぎゅー。」
と言って、兄を抱きしめる。
すると倍の力で抱きしめられて、苦しくて暴れる。
それを3日に1度はやるのだった。
***
~ナンシーside~
ここの侯爵邸には天使が2人いる。
アンドレイ様とエディス様。
長男のアンドレイ様は、父親であるマンティス侯爵様の銀髪と母親であるライラニア様の青い目を引き継いでおり、美幼児です。
次男のエディス様は、マンティス侯爵様の銀髪とライラニア様の祖母の赤い目を持っており、やはり、美幼児です。
顔立ちはどちらもマンティス侯爵様に似ておらず、どちらかと言えば、先代侯爵に似ているような感じですが、それは仕方がありません。
何故なら、マンティス侯爵様はマッチョなのです。
体格が良く、眉間にしわが常に入っており、いつも口をへの字にしているのです。
この方に子供時代があったのか想像ができないのです。
その為、この天使達の父親とどうにも認識できません。
加えて、父親なのに、この天使たちに会いに来ることはごくごく稀です。
それも母親であるライラニア様がおねだりしてギリギリ来てくれるレベル。
ライラニア様も悪い方ではないのですが、侯爵様を大好き過ぎて、優先順位は低いようです。
でも、そんなお二人は結構真面目に領地を統治なさっており、私たちが日々平和に暮らしているので、文句はありません。
噂に聞けば、隣の男爵領では重税が課せられて、餓死者が出ているんだとか。
この侯爵領にも徐々に難民として流入してきており、あちこちにスラムが形成されてきているんだそうです。
ただでさえ、1年前の戦争で、難民が隣国から流入してきているのに、男爵領からも流入とは、色んな意味でてんてこ舞いになりそうです。
そう考えると侯爵は敏腕なんでしょう。小さないざこざはあっても、餓死者などは居ません。税金をあげずにこの状況を作っているのですから。
忙しいのはわかります。でも、この天使を楽しめる時間は有限なのに、勿体ないと思うのです。
私の担当のエディス様は事あるごとに私と同僚のメアリーを抱きしめて
「ありがとう」
と言ってくれるのです。
柔らかいほっぺをこれでもかと押し付けて、ぎゅーしてくれるのです。
その様子に嫉妬して兄であるアンドレイ様も弟のエディス様にぎゅーを要求して、美幼児のぎゅーです。
これは至福です。
天上の神の祝福を感じるレベルです。
本当、幸せ。
これを3日に1度見れるのです。
本当、幸せ。
正直、毎日会いに来てもらいたいのですが、長男としてアンドレイ様には教育が開始されてしまったのです。
まだ、2歳なのですから、のんびり遊んでもらってもいいと思うのですが、侯爵様はそうは考えていないようです。
実に残念。
しかし、メイドたちは頑張りました!3日に1度はお休みをアンドレイ様に設けることができました。
メイドたちはこの美幼児に夢中なのです。
メイドの中の絵が上手なものはこの美幼児をドアの隙間から見て絵を描いていますし、そうで無い者も掃除の合間に見に来てます。
ちなみに美幼児の絵はメイドたちがお金を出し合って、紙とインクペンを購入しあって、描いてもらってます。
本当なら色絵の具を買いたかったのですが、予算の関係で出来ませんでした。
それでもこの白黒の美幼児の絵は好評です。
出来たらすぐに前回の費用捻出順にゲーム開始です。
ゲームに勝ったものだけが、美幼児の絵を手に入れることが出来るのです。
ちなみに私とメアリーは惨敗中です。
まぁ、私たちは直に天使たちと戯れる権利を得てますからいいですけどね。
二人は大変優秀で、既に文字を書けるのです。
凄い。
うちの子は同じ1歳児ですが、まだ、文字を書けません。
まぁ、うちには本も無いし、教える人も居ないので致し方が無いのですが。
それでも、エディス様は私達は少なくとも教えていません。
兄であるアンドレイ様がところどころつっかえながら、絵本を読んであげている位です。
なのに、ほぼ間違わずに書けるようになるなんて天才なのかしら?
縫物が得意な者が、かなり遅いペースではあるものの美幼児の刺繍をハンカチにしています。
図案は絵本を読む兄弟。
もう!もう!素敵。
欲しいのに未だに勝てません。
私たちも必死に描いてみたり、刺繍してみるのですが、この天使の愛らしさを上手に表現できません。
あー悔しい。
願わくば、この天使たちの映像を後世に残す魔道具は無いのかしら。
あーもう、誰か開発してほしいわ!
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