皇國の防戦記

長上郡司

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第三章 山岳城塞奪還戦

39 塞将 ボルゾフ

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グレンに向かい、長槍を打ち込んできた男が、壁上より降りてきた。




見上げるような巨漢、腰まで伸ばした灰色の髪を背中で一つにまとめたその男。




豊かな口髭を生やし、堅牢な鎧を身に帯びたその男。




その鎧には、ある紋章が彫り込まれていた。




グレンは、それが誰なのかを理解した。




「・・・❝鉄血の❞ボルゾフ将軍?」




「え!?」




エリアが驚いた顔でグレンを見る




「隊長が敵に敬称を付けた?!」




ヴォルゲンも叫ぶ。




いや、そっちかよ




「お前が❝戦闘龍だな❞」




地を這うような低い声で、男が尋ねる。




ボルゾフが手にする戦斧は、真っ直ぐにグレンを指す。




「ええ、私がこの中隊を預かります、グレン・バルザード。ここいらでは、まぁ・・・そんなあだ名も付けられています」




「敵対者に対して随分と腰が低いな・・・噂とはだいぶ違うようだ 」




「我が軍団長である、ボルド大将軍の❝元❞同郷の御仁に、舐めた口の聞き方は出来ません。」




「ふっ・・・ボルドか、なるほど・・・この攻め方はやはりあいつか・・・」
















グレン中隊は、直属の上官に大隊長であるヴィルヘルムの指揮下となるが・・・




その上には大隊長を指揮する戦隊長のキリクが




その上には戦隊長を統べる師団長が




最終的には第三軍団の最高指揮官となる軍団長がいる。




今しがた、塞将ボルゾフの口から出たボルドとは、その第三軍団軍団長の名である。













「・・・ボルドは、息災か?」




「ご自分で確かめて見られては如何ですか?本陣までご案内いたしますよ?・・・ボルゾフ将軍」




「ふっ・・・捕虜として・・・な」




「ええ・・・現状を見て、この城はもう駄目でしょう。正面は眼前まで接近され、城壁左右からも侵入され、頼みの綱の城門は開門直前・・・挽回の余地は薄いのでは?」




「そうだな・・・だがな、若武者よ。それは軍人として、武人として、受け入れるわけにはいかんのだよ」




「ほぉ?」




「お前たちに城を明け渡したとして、城内にいる者たちはどうなる?」




「全員斬首でしょうね、帝国兵は」




グレンは無慈悲に告げる




「・・・・・・だろうな」




それを聞いたボロゾフは、乾いた笑いをこぼしながら首を振る。




「貴方の昔ながらの配下は助命いたしますよ、ボルド大将軍の馴染みですので」




「会った所で奴自ら首を刎ねるだろうさ・・・そういう奴だ、昔からな」




「でしょうな、裏切り者には容赦のない方ですから」




「私は人質を取られた・・・家族をな」




「存じています」




「ボルドは・・・」




「いませんよ誰も、誰一人として生きちゃいません」




「・・・そうか」




「ええ」













二人の間に奇妙な空気が流れる。




「さて、どうされますか?ボルゾフ将軍。やるのか、否か」




「・・・今さらボルドに会ったところで、なにも変わらんよ」




「・・・交渉決裂ですな。では、私と殺り合う・・・ということでよろしいですな?」 




「あぁ・・・それで構わん」




「そうですか・・・光栄ですよ、あの“ガルディア騎士団”の一員と闘れるとはね」




「改めて名乗ろう、“帝国将軍”ボルゾフ・グラバス・オイゲン」




「皇國東方軍千人将、グレン・バルザード」










二人の剛将が、ぶつかる。




お互いの矜持を込めて。

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